INTERVIEW

研究者インタビュー

2020.08.28 
研究者インタビュー 
Vol.11

学内・学外のゲノム解析支援 都の中小・ベンチャー企業もサポート

第一期プロモーター教員

ゲノム解析がご専門の谷本幸介先生。学内学外問わず、ゲノム解析の支援業に当たっています。先生のご研究内容や、産学連携における本学ならではの研究のサポート体制などについても語っていただきました。

プロフィール
難治疾患研究所
ゲノム解析室
助教
谷本幸介先生

研究分野について

谷本先生の専門分野はゲノム生物学やバイオインフォマティクス(生命科学と情報科学の融合分野)とお聞きしています。改めてどのような分野を研究されているのか教えてください。

谷本:
私は東京医科歯科大学難治疾患研究所のゲノム解析室に教員として所属し研究や教育をしています。本務としてはDNAシーケンス(キャピラリーシーケンス、次世代シーケンス)の受託解析などを通して学内や学外の先生の研究を支援するという立場です。本学の解析室でDNAをお預かりして、スタッフと一緒にゲノム解析を行っています。また、データ解析の相談を受けたりもします。
専門は、ゲノム生物学やバイオインフォマティクスです。次世代シーケンサーから出力される大量のデータを統合解析して生物学的な知見を得ます。ゲノム機能全般を研究していますが、特に興味があるのはがんゲノム研究で、遺伝子のバリアント(変異)が転写制御や疾患にどういう風に影響するのかを明らかにすることを研究テーマとしています。

研究内容の概要

この研究を始めたきっかけはどのようなことだったのでしょうか。

研究室での様子

谷本:
ゲノム研究に興味があったため、博士課程は東大の菅野純夫先生、鈴木穣先生の研究室に入りました。その時からがんをテーマに研究しておりましたが、当初は実験的なアプローチがメイン。博士課程の途中で、在籍していた研究室に次世代シーケンサーが導入されたため、自身の研究にも使わせてもらうようになりました。
シーケンサーというのはDNAの配列を解析する装置なんですけど、従来のシーケンサーと違って、次世代シーケンサーは1回装置を動かすと何十億塩基のデータが一度に出せる。大量のDNA配列データを出力できるんですね。使うためには人間の手や目だけでは限界があるので、コンピューターの解析技術も必要です。そこで、自分でプログラムを書くようになりました。その時身に付けたスキルが現在の研究や仕事につながっています。実験をする研究をウェット(wet)な研究、コンピューターを使った研究をドライ(dry)な研究というのですが、最近はドライな研究の比重が増えてきていますね。がんゲノムに限らず、生物種を問わず色々なデータを解析しています。

先生が所属されているゲノム解析室についてご紹介いただけますでしょうか。

谷本:
メインは学内、学外の先生からのDNAサンプルをお預かりしてシーケンスする、配列を読んで調べた内容をお伝えする、というものです。必要に応じて解析の問い合わせにも応じています。

現在、先生の研究室では何人で作業されているんですか。

谷本:
ゲノム解析の支援業務は助教として私が1人、技術補佐員が3人います。3人のスタッフが大量の依頼を対応してくれて、なんとか回っている状況です。私は特に次世代シーケンサーに関するデータ解析の相談があった時に応じています。依頼のあった先生のリクエストにできる限り対応させていただいています。
ただ、支援業務が共同研究につながることもあります。自分の研究では使わない生物種や解析方法の相談を受けて一緒に取り組めるので、支援業務は自分の研究の能力を上げられるし、やりがいもあります。支援業務も進めていきますがもちろん自分の研究もやりたいので、そのバランスは難しいですね。

難治疾患研究所大学院教育研究支援実験施設ホームページより

先ほど、特にがんゲノム研究に興味があるというお話がありましたが、具体的にどのようなことを進めているのですか。

谷本:
がんゲノム医療については、最近新聞でも見られるようになってきました。ゲノムをシーケンスして治療方法を決めるというものです。次世代シーケンスで実際に調べるとさまざまな変異が出てくるのですが、機能が明らかでない変異もまだ多いんです。ただ、近年では大量のがんゲノムデータやトランスクリプトームデータなどもパブリックデータベースで取れるようになってきています。そういうものを活かしながら、データ解析の力で少しでも機能が分かっていないバリアント、VUS(Variants of unknown/uncertain significance)解消につながる研究ができればと思っています。

産学連携について

先生は産学連携のご経験はないとうかがっていますが、分野的に難しいといったことがあるのでしょうか。

谷本:
そうですね、私の研究は企業が産業化できるようなシーズを見出しにくいかもしれません。正直、私自身も今のところ、どちらかと言えば基礎研究の方に興味があります。
産学連携を広い意味で捉えると、本学にはリサーチコアセンター(RCC)という医歯学研究を支援するセンターがあり、RCCは大学の保有機器を中小企業に共用する協定を東京都と結んでいます。我々ゲノム解析室もRCCに協力していますので、産業のサポートをできるような体制になっています。ベンチャー企業が私たちの解析室を見学しに来たこともありました。

ノウハウやゲノム解析に関しての技術を世の中にある民間企業に活用してもらえると思いますが、そういうところと一緒にやっていくチャンスはありそうですか。

谷本:
ゲノム解析は、大企業であれば社内でできる人を抱えられるかもしれませんが、中小企業やベンチャー企業は技術を必要としているところはあると思います。産業化する上で「技術が必要だけどリソースがない」という企業にはお役に立てそうな気がします。

例えば、医療機器や分析機器関連の企業と、シーケンスで関わることはないのでしょうか。

谷本:
我々のゲノム解析とバイオインフォマティクスのノウハウそのものを産業化するのは難しそうですが、分析機器や医薬品、試薬の評価の際に活かすことはできるかもしれません。

プロモーターとしての取り組み

今回、イノベーションプロモーター教員になられた経緯を教えて下さい。

谷本:
直々にお話をいただきました。我々はそもそも支援する立場なので産学連携の直接のシーズとは離れていますが、ゲノム解析のノウハウが活かせるのであればということでお引き受けしました。

本学の産学連携のサポートなどを、どのように感じていますか。

谷本:
支援業務や産学連携に関して評価してくれる大学だと思います。多様な研究者の育成も大切にしている。その分、オープンイノベーション機構に関わる方たちは多様なキャリアパスがあると思いますので、全員が何かしらのメリットを得られるようにサポートしていくべきでしょう。
例えばオープンイノベーション機構で出てきた成功事例を元に、キャリアや性格や立場などどういった人が産学連携に向いているのかを分析してサポートできるような体制を作ることが大事なのかなと思っています。サポート次第で産学連携をやってみようという雰囲気がもっと出てくるのではないでしょうか。

本学は支援事業や産学連携を評価してくれる大学だとおっしゃっていましたが、どのようなところに感じましたか。

谷本:
ゲノム解析室、マウス室のような支援室や、リサーチコアセンターがあって研究をサポートする体制ができていることです。ゲノム解析室は私が着任する前の1990年頃からあるので、支援する文化は昔からあったのだと思います。
多くの大学に共通機器を管理する部門はあると思います。ただ、共通機器はあっても、各自利用して下さいというスタンスが多い中で、本学はキャピラリーシーケンス、次世代シーケンスについて相談に応じたり、オペレーションもある程度こちらでやってデータ解析もリクエストに応じる体制があります。こうした体制は非常に便利ですね。特に次世代シーケンサーは膨大なデータを扱いますし、機器も誰もが使いこなせるわけではありません。機器を有効に使えるような体制や環境が比較的整っているのかなと感じます。

オープンイノベーション機構に求めるサポートはどのようなことでしょうか。

谷本:
連携する上で始めるタイミングだけでなく、どのように終わらせるかというところまで一緒に考えていただきたいですね。アイデアが結びついて産学連携や共同研究になっても、そのアイデアを実際の実験や解析に落とし込むのが難しいことも多いです。ここが本当の意味で専門性が活かされる部分だと思いますので、いかにプロジェクトを完結させるかをしっかりサポートすることが重要だと思います。
会社員時代に、部署の同僚が大学と共同研究しているのを間近で見ていた経験があります。その時に組んでいた大学は、製品化に当たって必要な要素技術を持っていました。その技術力は凄いなと思ったのをよく覚えています。
今、自分が大学の研究者の立場から企業を眺めると、製品化やチームワークにおける凄さを感じますね。大学と企業はそれぞれの強みがあるので、連携すれば相乗効果が生まれるのは間違いないでしょう。

産学連携で目指すゴールのお考えやイメージはございますか。

谷本:
プロモーター教員という立場的には、連携した企業の製品化や研究がうまくいくことだと思います。私の研究がシーズに結び付くか分かりませんが、ゲノム解析のノウハウが企業に活かせたらいいなと思います。ゲノム解析としては、サポートや土台づくりといったことをイメージしています。ゲノム解析に関わる、産業分野で我々のノウハウを活かしてお手伝いできれば嬉しいです。

ありがとうございました。

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