INTERVIEW

研究者インタビュー

2020.07.23 
研究者インタビュー 
Vol.10

脂質解析技術を持つ企業とのコラボに期待

第一期プロモーター教員

オープンイノベーションプロモーター 佐々木純子先生のインタビュー。細胞膜リン脂質の一つである「イノシトールリン脂質」の生理機能解析を行っており、企業との共同研究が開始しました。パートナー企業に求めることなどをうかがいます。

プロフィール
難治疾患研究所
病態生理化学分野
准教授
佐々木純子先生

研究分野について

まずは先生の研究内容について教えて下さい。

佐々木:
私達の研究室では、細胞膜リン脂質の一種である「イノシトールリン脂質」の生理機能解析を行っています。哺乳類の細胞膜には多数のリン脂質が存在するのですが、親水基にイノシトールリン酸を有するものをイノシトールリン脂質(PIPs)と呼びます。このイノシトール環にはリン酸化される場所が3カ所あり、リン酸基の位置や数の異なるPIPsが7種類存在します。PIPsの特徴は、他の膜リン脂質と比べて親水基が大きいこと、さらにリン酸基という強力な負電荷を有することです。その結果、さまざまなPIPs結合タンパク質を膜に引き寄せます。
7種のPIPsにはそれぞれに特有に結合するタンパク質が存在し、それらの局在や活性を制御することで多岐にわたる生命現象に関与します。私たちはこれまでにPIPsのリン酸化や脱リン酸化を担う酵素の遺伝子欠損マウスを作製・解析してきたのですが、いずれの欠損マウスも異常を示すことから、PIPs代謝が生体の恒常性維持に極めて重要な役割を果たすことを明らかにしています。

現在の研究に取り組まれた経緯についてお話いただけますか。

佐々木:
私はお茶の水女子大学を卒業後、協和発酵工業株式会社(現: 協和発酵キリン株式会社)に就職し、医薬品の開発やシードを見つける仕事をしていました。結婚を機に退職し、先に海外留学していた夫と一緒にカナダのトロントで研究する機会を得ました。そのときに携わったのが、PIPs代謝酵素の一つであるPI3キナーゼγ欠損マウスの解析です。この研究をきっかけにPIPsの生体での重要性を知り、現在に至っております。

具体的に、生体にはどのような影響があるのでしょうか。

佐々木:
PIPs代謝の異常は、がんや炎症、代謝性疾患、神経変性疾患、循環器疾患などさまざまな病気を引き起こします。

先生が取り組まれている研究の中で苦労されていることや面白いポイントなどはどのようなことですか。

佐々木:
PIPsを含む細胞膜リン脂質には疎水性の部分があり、その構造には多様性のあることが分かっています。ただその多様性が何にどう影響するのかは明らかになっておらず、興味深いポイントであると考えています。
私たちの研究室では疎水基を含めたPIPsを高感度に解析できる技術(この技術が研究室の強み、特徴的な部分とも言えます)と保有する多種類のPIPs代謝酵素欠損マウスを組み合わせて疎水基の多様性の意義を明らかにしたいと思っています。ただPIPsは細胞の外からふりかけても細胞内に取り込まれにくい上に、たとえ取り込まれたとしても機能する細胞膜に局在しにくいことから、特定のPIPs分子種のみを細胞内で増減させる方策が取れないことが難点です。

先生方の強みである解析技術というのは、シミュレーションみたいなコンピュータサイエンスなのか、モデルを作って検証するような技術なのか、具体的にどのようなものでしょうか。

佐々木:
LC-MS/MS(高速液体クロマトグラフィー質量分析計)を用いてPIPsを定量する方法です。これらは細胞膜リン脂質では一般的に使用されている方法ですが、ここ10年くらいで技術が進歩し、かなり感度良く解析できるようになっています。
ただ、遺伝子の発現のような一細胞レベルでの解析にはまだまだ至っておりません。そもそもPIPsは他のリン脂質と比べると量が非常に少ないために、組織切片を用いたイメージングMSでも解析がままならない状況です。

その課題を解決する上で、こうあったらいいのに、こういうパートナーがいたら、というイメージはありますか。

佐々木:
脂質解析に特化した技術を持っている企業がいてくれたら心強いですね。装置があればぜひ試してみたいです。技術革新があれば、一細胞レベルでの脂質や代謝物解析も夢物語ではないと思っています。
さらに欲を言えば、細胞膜のある一部分だけを切り取り集める技術、あるいは電顕レベルのイメージングMSがあればいいなと思っています。Akt-PH-GFPのような蛍光標識した脂質結合タンパク質を細胞に発現させることで、特定の脂質の細胞内局在を見ることはできるのですが、そこにどのような疎水基を持つリン脂質が局在するのかについては、実際にその部分をとってこないと分かりません。細胞膜の一部を切り取る技術、電顕レベルのイメージングMSがあれば、細胞膜の不均一性を詳細に調べられるのではないかと思っています。

産学連携について

先生の産学連携のご経験についてお話しいただけますか。

佐々木:
私は産学連携というかたちで研究に携わったことはまだないのですが、最近ある企業が私達の技術に興味を持って下さり、共同研究の話が出ています。話を進めていくのはこれからです。

予期せず、先生の研究室に連絡してきた企業さんがあったということですね。

佐々木:
はい。オープンイノベーションプロモーター教員と企業とのキックオフミーティングの際にお声がけいただきました。その後、本学の産学連携推進本部を介してお話がきました。
まだ解析する手はずを整えている状況ですが、近い将来、企業の方にご提供いただいたサンプルを測定する予定です。得られた結果から、何か新しい発見や共同研究の方向性なども見えてくるのではと期待しています。

この先、産学連携の進め方としてどういう要望がありますか。オープンイノベーション機構が相談相手になったり、一緒に伴走する必要などはあるでしょうか。

佐々木:
今は「ひとまず測定してみましょう」という段階なので、現段階の具体的なサポートは思いつかないのですが、測定結果が出て方向性が決まれば必要なサポートが分かってくると思っています。
PIPs解析技術の開発については、どういった方と組めばいいのか、方向性も含めてどういう風に進めていけばいいのかなどをオープンイノベーション機構の方にアドバイスいただけるとありがたいです。

プロモーターとしての取り組み

オープンイノベーションプロモーター教員になったきっかけをお教えください。

佐々木:
教授からこうした取り組みがあるという話をうかがったことがきっかけでした。私は製薬会社にいた経験があるので、それを生かせたらと思っています。

企業でお勤めだったご経験は、研究者の専門的な言葉を企業目線の言葉に言い換えるとか、企業さんのマインドが分かるので、先生ならではの強みにもなりそうですね。
オープンイノベーションプロモーター教員になってやってみたいことや、必要な役割などお考えはありますか。

佐々木:
正直に申し上げますと、私達の方からアピールして共同研究を立ち上げるということは得意ではないので、今回みたいに「こういうものを実現したいのですが、できますか?」といったご相談を企業の方からいただける方がやりやすいです。

先生たちの得意な分野でパートナーや仲間を見つけて、どういうイノベーションを生み出したいですか。
実現したいことなどありますか。

佐々木:
病気の診断など、医学・医療の面で役立てたいと思っています。

企業さんやアカデミアで連携するパートナーはどういうイメージを求めますか。
臨床の先生や製薬会社なども選択肢としてあると思いますが、例えば、装置を作る企業さんやプログラムを組むソフトウェア企業さんがいいのか。

佐々木:
現在の解析技術を用いて病気や薬効との関連性を調べる上では、臨床検体を提供していただける臨床の先生や製薬会社との提携が第一と考えます。その後得られた大量のデータを解釈する際には、統計的解析を得意とする研究者や企業との連携ができればスムーズですね。脂質解析の開発は装置を作る企業との連携になると思います。

今後、産学連携を進めていく上で、パートナーとしての企業側に求めることはありますか。

佐々木:
明らかにしたいことや知りたいことが明確であり、興味やゴールの方向性が一致しているとスムーズですよね。
現在取り組んでいる共同研究も、まさに企業の方の「こうしたい」というニーズがあった上で話が進んだので、そうしたご相談をいただけるといいですね。

最後に

先生のご趣味について、お話しいただけますでしょうか。

佐々木:
子供が産まれてからは仕事と家事で時間がとれないのですが、以前はお菓子作りが趣味でした。今では娘が受け継いでくれたので、私はすっかり食べる専門になっています(笑)。

娘が作ってくれたもので最も印象に残っているのは、私の誕生日に作ってくれたシフォンケーキです。自分でレシピをアレンジして、私の好きな抹茶味ときなこ味の2層のシフォンケーキを作ってくれました。写真は、そのときのシフォンケーキです。

ありがとうございました。

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