INTERVIEW

研究者インタビュー

2026.07.22 
研究者インタビュー 
Vol.85

理学部から医学の世界へ 2つの標的を狙う「ロジックゲート」で固形がん治療の壁に挑む

第三期プロモーター教員

2人に1人ががんになり、4人に1人ががんで命を落とす日本では、がんを根治に導く新しい治療法が強く求められています。今回は理学部での基礎研究から医学部への編入学を経て、臨床と研究の両輪でがん治療の革新に挑む青山慧先生にインタビューしました。先端医療の社会実装に向けたお話やプロモーター教員としての想いをお届けします。

プロフィール
東京科学大学
臨床腫瘍学分野(がんゲノム診療科)
助教
青山慧先生

私が聞いてみました

医療イノベーション機構 イノベーション推進室 URA
小田 直純

インタビュアー詳細

研究について

青山先生は現在、がんゲノム診療科で臨床と研究の最前線に立たれていますが、経歴を拝見するとユニークな歩みをされていますね。まずは、研究の道を志したきっかけからお聞かせいただけますか。

青山:
私の原点は、実は医学部ではなく東北大学の理学部生物学科なんです。当時は「腕(上肢)の発生学的な起源やプロセス」について学びたくて進学したのですが、入学早々にその研究室の教授が定年で閉鎖されると知りまして(笑)。どうしようかと思っていたところ、友人の紹介で出会ったのがタンパク質制御や細胞・組織の発生、増殖、分化に関する研究でご著名な中山啓子先生の研究室でした。

学部2年生の夏から研究室に出入りされていたとか。遊びたい盛りの時期に素晴らしい行動力ですね。

青山:
声をかけていただいて、夢中でタンパク質制御やがん治療に結びつく基礎研究の面白さに触れました。ただ、修士課程に進んでマウスや試験管内の研究を重ねるうちに、自分の中で「もっと人に近く、実際の患者さんの治療に結びつく橋渡し研究(トランスレーショナルリサーチ)がしたい」という欲求が芽生えたんです。

それで医師になることを決意されたんですね。

青山:
はい。実臨床の経験や生きたデータがないと、真のトランスレーショナルリサーチのアクセルは踏めないと考え、金沢大学の医学部へ編入学しました。その後、血液内科で臨床経験を積み、博士課程から現在のメインテーマである「がんの細胞免疫療法」の研究をスタートさせました。当時の選択や出逢いがあるからこそ、今の私の研究があると実感しています。

「がんの細胞免疫療法」は血液がんの治療を劇的に変えたイノベーションとして注目されています。先生はここからさらに、どのような研究開発を目指されているのでしょうか。

青山:
2019年は、遺伝子改変技術を用いた「CAR-T細胞療法」が国内で初めて承認され、画期的な治療として保険適用された歴史的な転換期でした。現在国内で実装されている細胞免疫療法は非常に効果的ですが、一部の血液がんにしか使えず、副作用の課題も残っています。私たちのミッションは、これを「肺がん」や「膵臓がん」といった、治療が難しい固形がんへと適応を拡大し、新世代の治療法として確立することです。

固形がんは血液がんと違って、がん組織の部位や患者ごとに遺伝子変異が違うと聞きました。

青山:
おっしゃる通りで、そこが一番の難所です。私たちの戦略は、がんゲノム診療科のリソースを活かした「ドライバー(鍵となる異常)」を狙い撃ちした「ロジックゲート」という新システムの導入です。ロジックゲートを簡単に説明すると、細胞表面にある「2つの標的の存在パターン」を同時に認識するシステムです。これまでは1つの標的だけを狙うのが主流でしたが、それだと正常な細胞まで攻撃してしまうリスクがあった。2つの条件が揃ったときだけ「がん細胞だ」と認識して正確に攻撃を仕掛ける仕組みです。

2つのパターンを探すとなると条件の組み合わせが複雑になり、開発のハードルが上がりそうですね。

青山:
高い壁ですね。ですが、本学はデータサイエンスに優れているのが強み。コンピュータのシミュレーションやモデルを用いて生体内で起こる現象を解析・予測するin silico(インシリコ)技術をフル活用し、スクリーニングやAIを駆使して、あらかじめ確実性の高いパターンを絞り込んだ上でモデル実験を行っています。現在は基礎メカニズムの論文発表や知財確保を終え、実証データを積み上げている段階です。将来的には、患者さんの体内で治療細胞を作らせるin vivo(インビボ)技術や、患者一人ひとりの遺伝子情報やライフスタイルを解析し、病気の原因に直接アプローチする究極の個別化医療(プレシジョンメディシン)への応用にも挑戦したいと考えています。

産学連携について

研究内容をベースにスタートアップ企業を立ち上げられたとお聞きしました。

青山:
固形がんに対する効果的な次世代CAR-T細胞療法の開発と臨床応用を目指すため、「AIM Precision Therapeutics社」を2024年に設立しました。スタンフォード大学でMBAを取得した方にCEOとして参画してもらうなど、研究だけでなく資金調達にも力を入れています。

大手製薬企業やバイオベンチャーから「共同研究をやりたい」というオファーはありませんでしたか。

青山:
実は、学会発表などを通じて企業の方からお声をかけていただく機会はいくつかありました。ただ、細胞免疫療法、特にCAR-T療法の開発には「莫大なコスト」と「スピード」、そして「グローバル展開の柔軟性」が求められます。
国内企業との従来の共同研究だと、どうしても自社の事業とのシナジーや短期間でのリターンを求められがちです。また、日本の制度や市場規模だけで現在の研究を完結させようとすると、どうしても限界がある。だからこそ、最初からアメリカ・サンフランシスコと日本を拠点とし、グローバルに資金と人材を集められるスタートアップを起業することを選択しました。企業に技術を預けるのではなく、日米両軸で自分たちが主導となって研究を進めるための戦略です。

ヘルスケア領域のスタートアップの国境を越えたビジネス展開を支援するイノベーションプラットフォーム「HVC KYOTO 2026 Demo Day」でKRP Awardを獲得

自分たちでベースを築き、対等なパートナーシップを結ぶための起業だったのですね。その上で、具体的にどのような産学連携のサポートが必要とされていますか。

青山:
一番切実なのは、応用研究・社会実装に向けた資金獲得機会のナビゲートです。私たち臨床医は、AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)といった医療系の公的資金に関しては比較的アンテナが高く、情報の取り方にも慣れています。しかし、製品化や産業化のフェーズに入ってくると、必要となるのは経済産業省系の資金、例えばNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)などのプログラムです。

審査のロジックも違えば、求められる書類のトーンも違います。日々の臨床と研究に追われる医師では対応が難しい。「先生のこの技術なら、NEDOのこの枠組みに、こういうストーリーで申請すれば獲得できる可能性があります」といった、一歩踏み込んだマッチングや申請サポートを医療イノベーション機構の皆さんに協力してもらいながら一緒にやっていきたいですね。

資金面以外で今後どのような企業との連携を想定されていますか。

青山:
患者から細胞を採り、改変して、培養して、再び体内に戻すという一連のプロセスそのものが治療法です。そのため、データサイエンスや細胞製造・培養技術を持つ企業との連携を模索していきたいと考えています。

イノベーションプロモーター教員について

イノベーションプロモーター教員としてやってみたいことをお聞かせください。

青山:
私自身、博士課程の頃から「この技術をどうにかして社会実装したい」ともがき、知財の確保やスタートアップの立ち上げを経験してきました。その過程で痛感したのは、「アカデミアでは素晴らしいとされる研究が、産業界へのつなぎ方が分からないという理由だけで埋もれているケースが非常に多い」ということです。

イノベーションプロモーター教員としての私のミッションは、まさにそのギャップを埋めること。医療イノベーション機構のような専門組織と、日々の研究・臨床に追われる現場の教員や若手研究者の間に立ち、研究の産業化をより身近なものにするための架け橋になりたいですね。

医療イノベーション機構にどんなことを期待しますか。

青山:
単発の共同研究で終わるのではなく、研究成果が知財になり、スタートアップや企業連携を通じて社会に実装され、そこで得られたリターンや知見が再び次の基礎研究に投資される、そういった持続可能なエコシステムを本学の中に定着させたい。そのために、知財のプロテクトから企業マッチング、契約交渉までを迅速にサポートする攻めのバックオフィスとして、引き続き伴走してもらえたら嬉しいです。

最後に

プライベートの過ごし方についてお聞きしたいです。先生の趣味について教えてください。

青山:
生まれは新潟県なのですが、両親に連れられて小学生の頃から釣りにハマっています。最近はルアー釣りの面白さにすっかり夢中ですね!まとまった休みがとれた時は、子ども達と一緒に東京湾へ行ってチャーターした船に乗って目の前にいる魚やルアーの動きに集中する時間が良い息抜きになっています。他には、運動不足の解消にジム通いを始めようと計画中です。

ありがとうございました。

先生にお会いしたい方、研究プロジェクトについてさらに詳しく知りたい方は、お気軽にご相談ください。

医療イノベーション機構
openinnovation.tlo@tmd.ac.jp

CONTACT

東京科学大学医療イノベーション機構に関するお問い合わせ、お申し込みは下記フォームにご入力ください。