INTERVIEW

研究者インタビュー

2026.08.26 
研究者インタビュー 
Vol.86

生まれつきの心臓病と向き合う
子どもたちの「その先」へ─肺高血圧研究に挑む小児循環器医

第三期プロモーター教員

生まれつき心臓に病気のある子どもたちの医療は、胎児期から始まり、時に一生涯にわたって続きます。心臓の病気と関わりの深い「肺高血圧症」は、同じ疾患のある子どもでも発症する人としない人がおり、予後にも大きな差が生まれるといいます。東京科学大学の櫻井牧人先生は、小児循環器を専門に先天性心疾患の子どもたちを治療する一方、大学院での基礎研究を通じて肺高血圧症の分子メカニズム解明に取り組み、日本肺高血圧学会の基礎研究賞を受賞されました。今回は、先生の研究内容や産学連携への思い、プロモーター教員としての活動についてうかがいました。

プロフィール
東京科学大学
発生発達病態学分野(小児科)
助教
櫻井牧人先生

私が聞いてみました

医療イノベーション機構イノベーション推進室
加藤二子

インタビュアー詳細

研究について

まず、先生のご専門分野について教えてください。

櫻井:
専門は小児循環器で、いわゆる先天性心疾患、生まれつき心臓の形や機能に異常のある子どもたちを多く診療しています。

今月、日本肺高血圧学会で受賞されたそうですね。おめでとうございます。

櫻井:
肺の発生過程において重要な役割を果たすことが知られている「ヘッジホッグシグナル」に着目した研究です。動物モデルでこのシグナルを阻害すると肺高血圧症が改善することを発見し、その分子メカニズムを解明しました。この研究が学位論文となり、日本肺高血圧学会から基礎研究賞をいただくことができました。大変光栄です。

日本肺高血圧学会の基礎研究賞を受賞

大学院に進まれたのは、臨床医としてのキャリアを積まれてからだったとうかがいました。きっかけを教えてください。

櫻井:
臨床医として10年以上経験を積んだ後、2021年に大学院に入学しました。一般的な流れとしては、かなり遅い時期での進学だったと思います。きっかけは、臨床の中で抱いた疑問でした。私たちが最もよく診る先天性心疾患である心室中隔欠損症でも、肺高血圧を起こす人と起こさない人がいて、その後の経過が大きく変わってきます。なぜそれが起こるのか、分子メカニズムのところをもっと突き詰めたいという思いがありました。

また、小児循環器の領域は、大人の循環器領域に比べると基礎研究がまだ進んでおらず、まだまだ自分たちが発見できるものがあるのではないかという思いも、基礎研究の扉を叩いた理由の一つです。

今も残っている、小児医療ならではの臨床上の課題を教えてください。

櫻井:
先天性心疾患そのものがなぜ起こるのかは、実はまだよく分かっていません。胎児の心臓が作られる複雑な過程において、遺伝的要因や環境要因など、さまざまな要素が複雑に絡み合って発症すると考えられていますが、根本的な原因は解明されていないというのが現状です。また、肺高血圧症についても、なぜ同じ心臓の病気でも起こる人と起こらない人がいるのかについても明らかになっていません。私が臨床の現場に立ち始めたのはちょうど20年前くらいですが、当時は非常に予後の悪い病気でした。

今日では肺高血圧症の治療自体は非常に進歩していて、長期生存も期待できるようになってきています。しかし、先天性心疾患で肺高血圧症を発症した方は、発症していない方と比べると予後に大きな差があります。なぜ肺高血圧症が起こるのか、そして発症した子どもたちの将来をよりよいものにしたい、という思いが研究の原動力になっています。

小児科医として、どのようなことにやりがいを感じていらっしゃいますか。

櫻井:
私たちは、時にお母さんのお腹の中にいる胎児のときから関わりを始め、生まれてからも、心臓の手術後を含めて基本的には一生涯にわたって通院を担っていきます。もちろん、どこかのタイミングで成人の診療科の先生に引き継ぐこともありますが、基本的には生まれてから年を重ねていく間ずっと関わり続けていく。その人の生涯に携われるのは小児科の一番の特徴でもあり、魅力でもあります。

小児期に介入して治すことは、その子のその後の長い人生に大きな影響を与えるので、小児科医としての責任は大きいですが、そこは大きなやりがいを感じています。

現在取り組まれている研究テーマについて教えてください。

櫻井:
大学院を修了して臨床に戻り、臨床と研究を両立していく中で、患者の検体を使った研究を少しずつ進め始めています。具体的には、先天性心疾患の中で肺高血圧を起こす人と起こさない人の違いや、予後を予測できるマーカーを見つけることが直近の課題です。今はそれがまったく分かっていない状況です。血液検査で調べられるような簡単なマーカーを同定し、将来的には一般的な検査として実用化していけることが重要だと考えています。

産学連携について

小児科領域における産学連携の現状について教えてください。

櫻井:
私自身、まだ実際に企業と連携したり創薬や機器開発に関わった経験はありません。ただ、小児科という領域自体に特殊性があると感じています。他の科のプロモーターの先生たちとお話しさせていただく機会もあるのですが、その中で感じるのは、小児科の患者数の規模は、内科など大人の診療科と比べると圧倒的に少ないということです。

患者数が少ないと、企業側にとってはマスが少ないので事業化しにくい、経営的な観点でも難しいのだろうと感じています。実際に、小児科領域では産学連携が他の科に比べてなかなか進んでいません。他の大学でも同じような状況ではないかと思います。

企業との連携について、心配なことはありますか。

櫻井:
小児の場合は患者の数が少ないため、治療薬や診断キットなどを開発しようとしても、採算が取りにくいことが障壁になっていると感じています。新薬開発についても、基本的にはまず成人を対象とした臨床研究が進められ、承認を経てから小児へ展開されるケースがほとんどです。倫理的な問題もあり、小児だけを対象に、いきなり臨床試験を行うことは非常に難しいのが現状です。

一方で、小児期に適切な治療を行い、状態を良くすることができれば、その後の長い人生を健康に過ごせる可能性が高まります。長期的な視点で見れば、結果として医療費の削減にもつながるかもしれません。そうした点への理解が広がり、小児医療の研究や開発を支援してくださる企業が増えていくことを期待しています。

患者だけでなく家族にとっても大切なことと認識します。連携の難しさは海外でも同じような状況なのでしょうか。

櫻井:
実際にはアメリカなどから新薬が入ってくることが多いですが、状況は同じです。まず成人で大規模な試験が行われ、成人で適応が通り、ある程度安全に使えることが分かってから、初めて小児で使えるようになります。そういう意味では、一般的な薬というより、遺伝子治療のような個別化した医療の方が、小児領域では可能性があるのではないかと感じています。小児の疾患、特に肺高血圧症も遺伝的な要因が大きく絡んでいることが多いので、そこは今も注目して研究しているところです。

具体的に、どのような企業との連携を期待していますか。

櫻井:
1つは、血液検体からマーカーを探索するための大規模データ解析です。網羅的な解析から候補を絞り込んでいく作業になるので、タンパク質や代謝物の解析に長けた企業様に手を貸していただけると、研究がとても進めやすくなると感じています。

もう1つは、非侵襲的なモニタリングデバイスの開発です。今は直接的に肺動脈圧を調べる方法は心臓カテーテル検査しかなく、特に心臓の手術を決めていく上では、心臓カテーテル検査が必須であるという事情があります。
ただ、太い管を心臓の中に入れる検査なので、乳児にとって負担がとても大きいです。AIを使った方法などが近年研究されていますが、非侵襲的に肺血圧や血行動態を評価できるデバイスがあれば、非常に意義があると考えています。血流の流れによって血管の細胞の様々な遺伝子の発現が変わることも分かっているので、血流をシミュレーションできるような、メカニカルな技術をお持ちの企業とタイアップできれば非常に面白いですね。さらに、カテーテル検査に代わるデバイスの開発が進めば、センセーショナルなことだと思います。

学内の連携についてはいかがですか。

櫻井:
東京工業大学と統合したことで、工学系の先生方との連携がしやすくなったことに期待しています。私たち医学側からは、先天性心疾患がなぜ起こるのか、そのメカニズムがまだ十分に解明されていないという臨床現場の課題をお伝えしていきたい。一方で、工学系の先生方からは、医学の視点では発想しないようなアイデアをいただけることもあるのではないかと感じています。

医療イノベーション機構に期待することはありますか。

櫻井:
研究や臨床を通してさまざまな成果を出すことはできても、それを患者に届けるためにはどうしたらいいかという部分で、産学連携が必要になってくると感じています。良きアドバイザーであり、サポーターであり、伴走者であってほしいです。

まずはこうしたインタビューなどの機会も通じて、まずは私自身がどのようなニーズを持っているのかを共有できればと思っています。
その上で、「こういう企業がある」「こういう交流会でこうした方々と出会える」といった機会や情報を数多くいただけるとありがたいです。すぐに連携につながらなかったとしても構いません。自分だけで情報を探し出すのは難しいと感じているので、とにかく多くの機会をいただけることが大きな支えになると思っています。

プロモーター教員について

プロモーター教員に就任された経緯を教えてください。

櫻井:
大学院医歯学総合研究科発生発達病態学分野の髙木正稔教授から、第3期プロモーター教員の募集があるタイミングでお声がけいただきました。ちょうど大学院を卒業して臨床に戻るタイミングでした。
小児科の研究室自体は規模が大きく、血液や膠原病など、いろいろなグループが研究をしている中で、循環器グループとしての研究基盤はまだあまり整っていません。これから自分が基盤を広げていかなければいけない立場にあると感じていたところでもありました。産学連携も含めて頑張ってほしいという思いであると受け止め、せっかくの機会なのでお引き受けしました。

今後の展望はございますか。

櫻井:
小児科は患者数の少なさもあって産学連携がなかなか進みにくい領域です。だからこそ、小児科医として、子どもたちの治療につながる産学連携のきっかけを作っていければと思っています。

最後に

先生のご趣味や休日の過ごし方を教えてください。

櫻井:
趣味は運動全般ですが特にバスケットボールが好きです。高校まで部活動でやっていました。今でも、子どもが通う小学校のPTAの部活動で続けています。週末の夜に練習をし、年に2回ほど近隣の小学校が集まる大会にも参加しています。

私たちの住む地域は小学校ごとに保護者の部活動が盛んで、医療関係者以外の方と接する数少ない機会です。年齢も職業も違う父母の皆さんと一緒に汗を流し、試合以外にも夜みんなで食事に行ったりと、家庭でも職場でもない、いわゆるサードプレイスとして貴重な場になっていますね。


家族みんなで出かけるのも好きで、時間があれば近場から1泊の小旅行まで、よく出かけています。休みの日は大体どこかに出かけている感じです。

家族のみなさんもアクティブなんですね。今後のご活躍を期待します。

先生にお会いしたい方、研究プロジェクトについてさらに詳しく知りたい方は、お気軽にご相談ください。

医療イノベーション機構
openinnovation.tlo@tmd.ac.jp

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