INTERVIEW

研究者インタビュー

2025.12.25 
研究者インタビュー 
Vol.83

臨床神経生理機能検査を用いて神経筋疾患の新たな診断方法を模索

第三期プロモーター教員

糸のように全身に張り巡らされた末梢神経は脳や脊髄から手足の先まで伸び、​​体の動きや感覚の情報を伝達する役割を担っています。手足のしびれや痛みは神経障害の兆候ですが、外見では判断できないため特別な検査が必要になります。今回は、脳波研究、てんかん研究、新規の神経機能検査法の開発に従事されている赤座実穂先生にインタビュー。プロモーター教員への意気込みや産学連携で実現したいことを聞きました。

プロフィール
東京科学大学
生命情報応用学分野
准教授
赤座実穂先生

私が聞いてみました

医療イノベーション機構イノベーション推進室URA(特任准教授)
細川奈生

インタビュアー詳細

研究について

先生のご経歴を教えてください。

赤座:
大学院では本学の脳神経病態学分野に在籍し、臨床神経生理学を学んでいました。研究テーマは「末梢神経伝導検査」。手足や顔面の神経に皮膚の上から電気的な刺激を与え、末梢神経の機能を評価し、神経障害の部位や性質を把握するために使われる検査手法です。当時は、簡単で高精度な検査手法や特定の疾患に特化した検査の開発に力を入れて取り組んでいました。

卒業後は茨城県にあるJAとりで総合医療センターの神経内科医として勤務していました。しかし、神経生理検査に詳しい先生を探していると知人から相談があり、悩みましたが本学に戻ることを決断。現在は、教員として学部生・大学院生の教育、および研究活動に従事しながら、脳神経内科の医師として片頭痛から脳梗塞・パーキンソン病といった難病まで幅広い疾患に悩む患者を診療しています。

現在の研究内容についてお聞かせください。

赤座:
私は脳神経病態分野(脳神経内科)と協力しながら、伝導検査や筋電図、脳波の測定から臨床データを収集し、解析したデータを元に病気との関連性を探っています。他にも、脊髄、末梢神経、筋肉の活動磁場を詳細に評価できる新たな生体磁場計測装置の開発にも着手しています。
私の所属する分野は保健衛生検査学科長の角勇樹教授の元、研究者それぞれが独立しており、肺疾患に対する遺伝子治療、AIを用いた画像診断、臨床診断や公衆衛生領域まで幅広い人材が得意分野で研究のために活動しているところが特長です。

脳神経内科の中で臨床神経生理学を専門にしたきっかけはありますか。

赤座:
臨床の現場で、何かの手技が上手になりたくて、伝導検査や筋電図をやり続けていたら、周囲から「上手ですね」と褒められたのがきっかけで、この道を選びました。検査から患者の病状を診断するアプローチにも興味があって、研究の魅力にハマってしまい今に至ります。
神経内科は内科の一つではありますが、内科の中で最も“内科らしい”と言う先生がいるほど、体内の情報を読み解く必要がある。その中でも特に脳神経内科は、検査結果で病状や治療方針が決まるので、診察で用いるデータがとても重要です。現在は画像診断機器も進歩しており大変有効ですが、脳に過剰な電気活動が出る「てんかん」は画像検査だけでは診断が難しく、脳波検査でてんかん性の異常波を確認しなければいけません。機能異常や重症度を客観的に評価する指標として、このような臨床神経生理学は今後も不可欠な研究だと考えています。

産学連携について

今まで産学連携のご経験はありますか。

赤座:
約8年前になりますが、先端技術医療応用学講座の川端茂徳教授が株式会社リコーと産学連携で、「脊磁計による脊髄・脊髄神経機能診断法の確立」をされているのに加えていただきました。臨床神経生理学の知見を伝導磁気センサーに活かせないかと先生からお声がかかり、研究に参加しました。貴重な経験でしたね。

産学連携を通じて担当者とのやり取りで印象的だったことはありますか。

赤座:
神経や筋肉の状態を調べる神経伝導検査や針筋電検査は専門的な用語も多く、難解と思われてしまう。「何を調べているのか」「どういった病気で使うのか」「検査項目や結果はどう解釈すればいいのか」を難しい言葉を使わずに初めて聞いた人でも分かる言葉で話そうと意識していました。また、川端先生の立ち振る舞いを参考に、何ができて、ゴールはどこなのかを明確にするため、“信頼関係”が築けるまでコミュニケーション量を増やしました。企業側もアカデミア側もお互い人間だからこそ、小さな依頼であっても相手に失礼にならないように行動していましたね。

印象的だったのは、企業の方がプロジェクトのスケジュール管理を重要視していたこと。とても参考になりました。産学連携をスタートするにあたって、「何を」「いつまで」「どのくらい」達成するのかをタスク毎にまとめていたのには驚きました。予想と異なる結果が出た場合は、手法や方針を変えるなど判断も迅速。私の知らない世界でした。勉強になったと同時に反省の意味を込めて、現在では学生指導や研究に取り入れています。

産学連携ではどんな業種の企業と一緒に研究をしてみたいですか。

赤座:
神経機能検査や筋電図、誘発電位検査の装置を開発している医療機器メーカーの方々とまずお話してみたいですね。脳神経内科にとどまらず、他の診療科でも使える検査製品の開発にチャレンジしてみたいです。

アカデミアでの共同研究にも興味があると聞きました。

赤座:
脳外科や整形外科、工学系など他分野の先生との連携を模索しているのも事実で、専門性を補完し合うことで汎用性の高い研究成果が得られるはず。まずは診療科の垣根を越えて横断型の研究体制を医療イノベーション機構のスタッフさんと一緒に作っていきたいですね。もし実現できれば、先生たちの専門性が具体的になるので企業側も産学連携の問い合わせがしやすくなるのではないでしょうか。

イノベーションプロモーター教員について

プロモーター教員になったきっかけを教えてください。

赤座:
普段お会いできない人と交流できて知見も広がるため、お引き受けさせていただきました。同じ生命理工医療科学専攻・生体検査科学講座の田中ゆきえ先生も第三期プロモーター教員になると聞いて安心感もありましたね。

どんなことをやってみたいですか。

赤座:
医療イノベーション機構が配信しているメールマガジンは最新の研究情報やセミナーイベントが掲載されているので参考になると思います。加えて、「ベンチャー大賞ピッチコンテスト」や「無料オンラインセミナー(tip BBセミナー)」への参加を通じて、企業や他のプロモーター教員と交流するプログラムも貴重です。本学では2022年度から自由研究や卒業研究期間などのカリキュラムを利用して企業のインターンシップに参画し、単位が取得できるプログラムを本格的にスタートしました。学長の田中雄二郎先生が2019年に試験的に行い、医療・ヘルスケア系ベンチャーやスタートアップ企業10社と教育連携した実績があります。企業と学生の両方にメリットがある取り組みなので、担当窓口である人体病理学分野の山本浩平准教授と臨床検査技師のキャリアステップにつながる施策を模索してみるのも良いかもしれません。

最後に

最近の趣味や休みの日の過ごし方を教えてください。

赤座:
コロナ禍で着付けを勉強して、今では家族の手を借りれば着られるようになりました。昔から着物に憧れていて、和の服装で過ごす時間を増やしたいと考えていました。敷居が高く思われがちですが、一度覚えてしまえば簡単。所作が上品に見えるので、散歩やお出かけが楽しくなりました。着物の素晴らしさを発信しているインフルエンサーの方から情報を集めています。

先生にお会いしたい方、研究プロジェクトについてさらに詳しく知りたい方は、お気軽にご相談ください。

医療イノベーション機構
openinnovation.tlo@tmd.ac.jp

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