INTERVIEW

研究者インタビュー

2025.08.06 
研究者インタビュー 
Vol.76

「認知的柔軟性」を学ぶカリキュラムの国際展開に意欲

第三期プロモーター教員

少子高齢化や歯科医師の減少により歯科衛生士に期待される役割が大きくなる中、現場で働く人々の負担が増加することが予想されます。今回は、ストレス対処能力に関する研究や日本と台湾の学術的な連携の架け橋として活躍しているLIAO SHIN RU(リアウ・シンル)先生にインタビュー。現在の活動や企業との共同研究で取り組みたいことをお聞きしました。

プロフィール
大学院医歯学総合研究科
健康支援口腔保健衛生学分野
助教
LIAO SHIN RU(リアウ・シンル)先生

私が聞いてみました

医療イノベーション機構イノベーション推進室URA(特任准教授)
磯部 洋一郎

インタビュアー詳細

研究について

先生のご経歴を教えてください。

リアウ:
私は台湾出身で、2017年に東京科学大学の前身である東京医科歯科大学の口腔疾患予防学分野に進みました。修士課程では、台湾における口腔疾患の発生率やリスク要因を探ったり、経済格差など台湾国内の社会要因が口腔の健康にどのような影響を与えるのかの調査・研究にも従事しました。博士課程は担当教員からグローバル人材の育成に力を入れている歯学教育開発学分野を勧められ、当時分野長だった森尾郁子名誉教授と關奈央子教授にみっちり鍛えていただきました。

歯学部は国際的な教育や留学生の受け入れが盛んなのですね。

リアウ:
本学は、アジア圏から学生や若手研究者を招いて講義やセッション、交流会を開催する国際サマープログラム(ISP)を平成21年度から実施するなど歯学領域における国際的な人材育成に昔から力を入れています。私も大学院生時代は、ISPのお手伝いをしたり、外国人留学生のチューター(生活支援)、歯学科生の「混合セミナー」、口腔保健衛生学生の「科学英語I」などを指導する機会に恵まれました。現在も口腔保健衛生学の国際交流活動や学生の英語指導と教育プログラムの開発に力を注いでおります。
2017年、台湾の4年制大学で学びながら日本語能力試験(N1)を取得し、日本の歯科衛生士の受験資格を得て来日。2018年に歯科衛生士免許を取得しました。技術を磨いて一人前の歯科衛生士になるため日本に来ましたので、来日後は日本と台湾の学習カリキュラムの違いについて研究するかたわら、台湾学歴をもちまして歯科衛生士の資格を取得した後、院生時代から歯科衛生士として歯科医院でアルバイトをしながら臨床技術を磨きました。

分野長である樺沢先生と一緒に、台湾の陽明交通大学の助教の先生と研究相談したときの写真

現在の研究分野についてお聞きかせください。

リアウ:
口腔内の疾患を全身的な視点から捉え、実践的な診断と治療を行う健康支援口腔保健衛生学分野に助教として所属し、臨床現場に出る前の学生に対して臨床基礎実習系の実習指導、歯科英語の指導及び海外大学からの来訪者・留学生の受け入れ、学生海外派遣引率など国際交流の裏方を担っています。

主な研究内容は、外部環境からの変化に対して考え方を柔軟に変化させることができる「認知的柔軟性(Cognitive Flexibility)」についてです。具体的には、日本と台湾の歯科衛生学生を対象として、【1】ストレスとキャリアプランの関連性比較、【2】認知的柔軟性の現状調査を行いました。現在は思考の柔軟性とストレスの耐性の因果関係を日台英米の歯科衛生学生を対象としてアンケートの実施など研究の計画を組み立てています。

人間には困難に直面した時、多面的に物事を捉える「認知的柔軟性」という能力が備わっています。患者の治療にあたる歯科医や歯科衛生士はマニュアル通りにいかないことも多く、ストレスや困難に直面する機会も多いです。またチーム内のコミュニケーションも複雑なため、「認知的柔軟性」を育んでいくことが必要不可欠だと言われています。現在は学生がどうやって思考力や問題解決能力を身につけていくのかを解明中です。将来的には、ストレスを軽減できる施策を全世界の病院や学校に導入できたら嬉しいですね。

産学連携について

今まで産学連携のご経験はありますか。

リアウ:
残念ながら企業との産学連携はありませんが、MBTI診断のような手軽に今のストレス度合いや精神状況が分かるツールを開発してみたいです。学習コンテンツの制作会社やスマホのアプリ開発、AIを活用したデータ分析に強みがある企業とどんな製品が作れるのか話してみたいですね。また、海外展開をしている企業とは現地で働く人のメンタルヘルス対策や仕組み作りをサポートできるのではと考えています。

同じ研究室に第一期プロモーター教員だった伊藤奏先生がおり、高齢化社会における口腔ケアの快適性を客観的に評価するために「歯ブラシの操作力計測システムの開発」や歯科医院の外内装が患者さんにとって魅力的だったかを評価する「歯科医院の内外部空間に対する視線行動パターンの検討」に関して本学(旧東工大)の先生と一緒に研究している姿を見て、工学系の先生との共同研究にも興味がわきました。

メンタルヘルスの分野は歯学部の中で未開拓の領域。色々と挑戦してみたいです。

イノベーションプロモーター教員について

プロモーター教員になったきっかけを教えてください。

リアウ:
分野長の樺沢先生から「イベントや発表会を通じて幅広い分野の先生たちと会える」「ビジネスに精通した医療イノベーション機構のスタッフさん達と深くつながれる」と聞き、募集時に積極的に手を挙げました。プロモーター教員同士の交流もぜひ活発に取り組めたらと思っています。

本学は歯学や医学、理学、工学、情報学、リベラルアーツなど専門分野が多岐にわたります。高度な理論や最先端の技術を研究している先生方との交流にも期待しています。

今後は、医療イノベーション機構が毎月主催しているtip BBセミナーに参加し、研究発信を通じて、学内・企業とのコラボにも期待しています。セミナーはオンライン開催で、しかも無料。講演を聞いた後に登壇者の方と連絡先を交換できるので気軽に相談したり、距離が縮められるのはありがたいですね。

最後に

プライベートでは、週末はどのようにお過ごしですか。

リアウ:
犬を2匹飼っていて、ペット可のカフェやレストランを探して遊びに行くことが癒しの時間です。台湾の実家では犬がいる暮らしが当たり前だったので、寂しくなって衝動的に犬をお迎えすることになりました。店内利用可の飲食店は表参道などオシャレな場所が多くて気後れすることもありますが、ワンちゃんのために果敢に挑戦しています(笑)。

先生にお会いしたい方、研究プロジェクトについてさらに詳しく知りたい方は、お気軽にご相談ください

医療イノベーション機構イノベーション推進室
openinnovation.tlo@tmd.ac.jp

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