INTERVIEW

研究者インタビュー

2025.02.06 
研究者インタビュー 
Vol.69

バイオリソースとAIで切り拓く未来 不整脈の早期発見と治療の可能性

第三期プロモーター教員

循環器内科医として不整脈研究を進める一方、疾患バイオリソースセンターでのバイオバンク運営にも携わる高橋健太郎先生。心房細動の早期発見を目指し、AIや遺伝子解析などの先端技術を活用した研究に挑戦しています。患者さんから提供された貴重なバイオリソースを基盤に、診断から治療への新たなアプローチを探る高橋先生に、研究の現状と今後の展望についてうかがいました。

プロフィール
東京科学大学
疾患バイオリソースセンター 循環器内科
助教
高橋健太郎先生

私が聞いてみました

医療イノベーション機構イノベーション推進室 URA
古塩裕之

インタビュアー詳細

研究について

先生のこれまでの経歴について教えてください。

高橋:
東京科学大学疾患バイオリソースセンターに所属していますが、今は循環器内科の診療とセンターの仕事をおおよそ半々で行っています。循環器内科では、主に不整脈の研究やカンファレンスへの参加、外来診療をしており、研究寄りの臨床医という形で働いています。

バイオリソースセンターでは、バイオバンクの運営に携わっています。具体的には、患者さんからご提供いただいた血液や病理検体を適切に管理し、それを研究者につなぐ役割を担っています。最近は、学外からの問い合わせが増えてきています。特に企業から連絡をいただくことが多く、検体提供を通じて医学研究に貢献する場面も多くなりました。循環器内科では、不整脈、とりわけ心房細動を専門としています。これまでには、日本や留学先のアメリカで、心房細動におけるマイクロRNAやエピジェネティクスに関する基礎研究や、心電図の解析を通じて心房細動を早期発見する方法の研究を進めてきました。今年の夏からは、東京都の支援を受けて、AIを用いた心電図解析と遺伝子解析を組み合わせた検診事業の立ち上げにも取り組んでいます。この事業では、無症状の方を含めた一般の都民を対象に、不整脈を見つけ出す仕組みを臨床研究として展開しています。今後は、AIによる心電図解析や遺伝子解析といった技術を基盤に、細胞や動物実験も行い、基礎研究から臨床応用までをつなぐ研究をより広く展開することを目指しています。企業との共同研究の可能性も模索していきたいです。

バイオリソースセンターの仕事に取り組まれるようになったきっかけはどのようなことでしたか?

高橋:
アメリカで留学中に今後の進路について考えていた際に、、循環器内科の笹野教授から「日本に帰ってきて遺伝子解析やデータ解析の分野も学んでみてはどうか」という提案をいただいたのが始まりです。センターには多くの血液や標本が蓄積されており、それを使って解析を行うことが求められてきました。私はデータ解析が好きなので、興味を持って楽しく取り組み始めることができました。
また、センター長である田中敏博先生は、心房細動に関連する遺伝子解析に長年携わってこられた方です。その影響もあり、単なる標本や血液の収集にとどまらず、それを基にした研究を進めていこうという方針がありました。この理念に共感し、収集したデータを基に、より発展的な研究を行うことを目指しています。現在は基盤を整える段階で、事務的な作業も多いですが、将来的にはデータを用いて新しい解析手法や研究を開拓していくつもりです。

循環器科を目指すことになったのには、何かきっかけがありましたか?

高橋:
医学生時代にちょっとした偶然が重なったことが大きな要因です。試験対策委員として生理学や解剖学などそれぞれの分野を担当して試験対策のプリントを作成する中で、私はたまたま心電図を担当することになりました。その際に心臓のイオンチャネルに関する事項を調べていくうちに、非常に興味深く感じ、もっと学びたいと考えるようになりました。基礎配属(現在のプロジェクトセメスター)のシラバスを確認すると、古川哲史先生(現東京科学大学副理事/副学長)が秋田大学から帰ってきて、難治疾患研究所で心臓のイオンチャネルの研究をされているということを知りました。まだ、できたばかりの研究室で少人数ではありましたが、、その教室を選び、実験に参加させてもらうことになったのが、循環器の世界に足を踏み入れるきっかけです。卒業後は、臨床経験を重ねていくなかで、循環器診療のアクティブさに強い魅力を感じましたが、、数年後には再び研究をやりたいという気持ちが強くなり、古川先生の下で研究に取り組むことに決めました。

先生の研究の今後の課題について教えてください。

高橋:
現在は、血液や心電図などのデータの収集が主な活動になっています。今後は単に血液を集めるだけではなく、その解析データをより蓄積し、社会に還元する仕組みを整えたいと考えています。現在はその一環で、社会還元を目指すワーキンググループにも参画しています。学内で収集したデータを有効に活用し、さらに他の研究者とも協力して価値を高めていければと考えています。また、今後は血液以外の検体も集める必要性が出てきていると感じており、実際に企業からもそのようなお話をいただくことがあります。例えば、唾液や心嚢液、さらには母乳など、血液以外の検体を集めることで、より多様な研究に発展するのではないかと考えています。遺伝子解析は過去10年で大きく進歩しました。心房細動の遺伝子解析に関しては、数年前は関連する遺伝子が数個だったのが、今では何千もの遺伝子を対象にしたポリジェニックリスクスコアという方法が登場しています。しかし、遺伝子解析から得られた情報をどのように治療に生かすかという点では、まだ多くの課題が残っています。私の目標は、この遺伝子情報や心電図のリスク評価を用いて、不整脈の薬を選択したり、カテーテル治療のタイミングを決めたりできるようにすることです。また、遺伝子リスクが高い場合には、生活習慣を改善することでリスクを減らすというアプローチを患者さんに提案できるようにすることを目指しています。循環器の分野は、まだ治療と研究との乖離が大きいと感じていて、治療はできるけれども病態メカニズムが解明されていない部分が多くあります。そのため、今後は研究と治療をより密接に結びつけて、患者さん一人ひとりに最適なアプローチができるようにしていきたいです。

産学連携について

先生が企業と一緒に取り組むなかで、注意していることや気付きなどはありますか?

高橋:
まず、検体やデータの収集の大変さをしっかりと企業に伝えることが重要だと感じています。企業側が求める検体やデータが具体的でない場合や、我々がこれまで集めてきたものとは異なるものを新たに求められる場合があります。その際、収集や準備に多大な時間と労力がかかるのかを共有し、理解を得ることが大切だと感じます。検体の収集には、各診療科の先生方の協力が不可欠です。普段の診療業務に加えて検体収集をお願いする形になるため、こちらからの要望がどれほどの負担になるのかを考慮する必要があります。また、データに関しても、電子カルテなどから得られる情報はそのままでは使えないことが多く、整理やトリミング作業が必要です。こうした背景も丁寧に説明しながら進めるようにしています。また、企業とのやり取りを円滑にするためには、専門的なバックグラウンドを持ちながらデータ解析に詳しい人材がもっと必要だと感じています。現在、少人数のスタッフで対応していますが、特に新しいプロジェクトを進める際には、人員やリソースの不足を強く実感します。さらに、企業からの問い合わせに対応するだけでなく、こちらから積極的に情報を発信する姿勢も重要だと考えています。今年のBio Japanに参加した際に反響をいただいた経験からも、適切な形でのアピールが大切であると改めて感じました。パンフレットや説明資料などを活用して、我々の活動や取り組みを外部に伝えていくことで、より多くの協力を得られるのではないかと思っています。

今後、どのような企業と共に歩みたいですか?

高橋:
これまでは検体収集やデータ解析が中心でしたが、今後は新しい分野の企業とも協力してみたいと考えています。例えば、生活ヘルスケアをテーマにした企業、特にリスク評価を日常生活に取り入れる仕組みを持つ企業です。通信系の企業や、アプリ開発に力を入れている企業とも連携できたら面白いのではないかと思います。理想は、生活の中で自然にデータが取れる仕組みを作ることです。例えば、車のシートやベッドにセンサーを埋め込んでデータを取る、あるいは服を着たままで測定できるような技術があれば、患者さんや対象者に負担をかけずにデータの収集ができると思います。現在、工学系の大学と共同で研究を進めているプロジェクトもあり、こうした方向性には可能性を感じています。また、現在一般的に使われているデバイス、例えばApple Watchのようなものも一般的に優れているとされていますが、正確に測定するには利用者がタッチ操作をする必要があるなど、ある程度の能動的な関与が求められます。意識せずとも自然にデータが集まる仕組みが開発できれば、さらに実用性が高まるのではないかと考えています。一方で、今後も工学系や他分野の研究者とより密接に連携し、相互にニーズを共有できる場を増やしたいと思っています。例えば、工学の視点から「こういうものが欲しい」といった具体的な要求をいただければ、研究開発の新しい方向性が見えてくるかもしれません。そのためには、私たち自身が研究内容や提供可能なデータの魅力を積極的に発信することも大切だと感じています。

イノベーションプロモーター教員について

今回、イノベーションプロモーター教員になられたきっかけについて教えてください。

高橋:
イノベーションプロモーター教員に就任したのは約半年前です。Bio Japanで自分たちの研究を広く紹介し、企業と直接対話する機会が得られた時のように、また機会があれば宣伝もしてみたいと思っています。あとは、循環器のほうでは不整脈の診療や研究を強みにしているため、センサー系やマテリアル系に取り組んでいる企業とコラボできたら楽しそうだなという思いもあります。

これまでの経験から、企業や他分野との連携において重要なのは「可能性を広げる仕組み作り」だと感じています。例えば、以前、樹脂素材に関する技術提案を受けた際、私たちの内部判断だけで進展しなかったことがありました。しかし、今考えると、当時もう少し異なる視点を取り入れられていれば、より良い結果につなげられた可能性があったのではないかと感じています。研究者と企業が1対1で向き合うだけではなく、複数の視点が交わる場を設けることで、0から0.1へ、そしていずれは1へというように、新たな可能性が生まれることもあると思います。そこからは、「あと一歩踏み込む」ことを意識するようになりました。最初から進展が見込めない案件と思える場合でも、少し粘り強く対応することで、新しい展開が見えることがあると感じています。例えば、バイオバンクの案件では、以前は早々に見送るケースも多かったのですが、最近では少し時間をかけて話を進めるよう心掛けています。

先生が私たちに期待することはどのようなことでしょうか。

高橋:
具体的には、アピールの部分、特にデザインに関してお願いできる人がいたら大変助かります。現在はホームページのデザインなども含めてすべて自分で作成していますが、やっぱりこういったことに関しては、専門的にデザインを担当してくれる人がいると、安心して研究に集中できます。今後は特に、外部へのアピールを強化したいと思っているので、ちょっとしたデザインやパンフレット作成でも、誰かに相談できるといいなと感じています。例えば、お洒落なデザインのホームページを作る、訴求力のあるパンフレットを作るといったことだけでも、圧倒的に目を引くことができるようになると思います。そういうところに専門のスタッフがいて、手軽に相談できるような体制が整うと非常にありがたいです。外注するという手もありますが、研究の内容を正しく伝えることと理解してもらうことが難しく、ハードルを高く感じてしまいます。その点、学内で、研究の内容を理解している人が専門のスタッフとして関わってくれると、より良い成果を期待できるはずです。

最後に

先生のご趣味や、休日の過ごし方について教えてください。

高橋:
最近「Bluey(ブルーイ)」というアニメにハマっています。オーストラリア発のアニメで、アメリカでも非常に人気がある、犬が主人公の家族向けのアニメです。最近アメリカに行った時も、このアニメのキャラクターが描かれた服を着ていたら、スーパーで「それどこで買ったの?」って声を掛けられるくらい、人気なんです。このアニメは、お父さん、お母さん、そして子ども2人が登場して、子どもたちがちょっとした悪ふざけをしたり、遊んだりするのですが、お父さんとお母さんが一緒に遊びを楽しむんですよね。怒るのではなく、子どもたちを尊重する姿勢がすごくいいなと思って見ています。最初は子どもが見ていたのですが、今では私の方がすっかりハマっています。日本ではあまり知られていませんが、家族のあり方として、素晴らしいなと感じています。

先生にお会いしたい方、研究プロジェクトについてさらに詳しく知りたい方は、お気軽にご相談ください。

医療イノベーション機構
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