INTERVIEW

研究者インタビュー

2025.03.28 
研究者インタビュー 
Vol.70

工学技術で医療現場の課題を解決 医工連携研究の橋渡し役にも意欲

第三期プロモーター教員

医療の現場にはさまざまな課題や問題が山積しています。その解決の糸口となるのが、医学とは異なる工学の技術や、既にある技術を活かした発想の転換です。今回は、ロボットやセンサー、画像処理、AI(人工知能)など工学分野の幅広い学術に知見を持つ小野木真哉先生のインタビュー。産学連携の経験やプロモーター教員の意気込みについて聞きました。

プロフィール
生体材料工学研究所
情報医工学分野
准教授
小野木真哉先生

私が聞いてみました

医療イノベーション機構イノベーション推進室 URA
古塩裕之

インタビュアー詳細

研究について

先生の研究分野について教えてください。

小野木:
生体材料工学研究所の情報医工学分野に所属し、医療現場の困りごとを解決するのが私の仕事です。研究には、世の中の理や人体の解明など未知の領域を調べる「探求型研究」と、最先端の技術を活かして課題を解決し便利な装置や仕組みを開発する「課題解決型研究」の2種類があります。私は「課題解決型」研究に特化して、医療の最前線で治療にあたっている医療従事者を陰ながら支える役割を担っています。

所属分野にはどのような特長がありますか。

小野木:
データ処理技術、AI技術などの計算機科学、計測工学などの工学技術をベースに、机上の空論ではない医学・医療の世界で実用化できる研究を行っています。医師は診療の傍ら、器械や器具の動かし方を学んだり、手術のトレーニングを行っていますが、工学の力を使って自然体に負担を軽減し医師が医師にしかできない判断や行為に注力できるようにしたいと考えています。

どのような研究に取り組まれているのでしょうか。

小野木:
複数の共同研究をしていますが、直近で大きな成果が出たのは、本学の脳神経機能外科学分野(脳神経外科)の田中洋次准教授らと共同で、三叉神経の3Dモデルを用いて異常な形態変化を定量化し、客観的に評価できる手法を構築しました。三叉神経と呼ばれる顔の感覚を脳に伝える神経に何等かの原因で血管が接触することで、神経が圧迫されると顔に電気が走るような痛みを感じます。これは三叉神経痛と言われる病気ですが、血管の圧迫が見られない症例もあり、原因の解明が急務とされています。
三叉神経のMRI画像から神経の形状を定量的に解析するアルゴリズムを開発しました。病変側と非病変側、術前と術後の比較したところ、客観的な診断基準となる可能性を示すことができました.研究成果は、国際科学誌の「Journal of Neurosurgery(ジャーナルオブニューロサージェリー)」オンライン版にも掲載されました。今後、さらに研究を進めて三叉神経痛の原因解明、診断、手術の意思決定に役立てたいと考えています。

その他にはどのような研究を行っていますか。

小野木:
医工連携の共同研究だけでなく医用システムに必要な工学研究にも取り組んでいます。医用システムの1つにCTやMRIのモニター画像上に術具や治療箇所の位置を表示して術者の作業状況の把握・判断を支援する「手術ナビゲーション」というものがありますが、ナビゲーションの精度を上げるための位置や形状計測に関する研究などに取り組んでいます。

産学連携について

産学連携の経験をお聞かせください。

小野木:
2014年12月から4年間ほど九州大学の先端医療イノベーションセンター(現先端医療オープンイノベーションセンター)に在籍していました.ここはアカデミアの研究成果を社会実装することを目的とする部署で企業との共同研究を前提としてました.医療機器メーカーとの共同研究プロジェクトに参画させて頂きました.現場に踏み込んだ市場調査や半年に1度の報告会、企画提案書作成などアカデミアだけでは得られない経験が今の礎となっています。

アカデミアの研究と異なる点はどのようなところなのでしょうか。

小野木:
産学連携は効果が実証された研究内容を、いかに早く実務・製品化するかという視点が大事です。これがあるとないでは、成功確率が大きく変わります。大学での研究では新規性や独創性、いわゆる尖った部分が大事で、論文出版が1つのゴールとなります。一方、企業は事業性が大事で製品開発、薬機承認、販売、採算を考慮する必要があり、定められた期間と予算で少なくとも製品化するという結果を出す必要があります。特に研究開発にかけることのできる時間軸が大学とは全く異なります。
コミュニケーションを十分にとり、目的や目標、プロジェクトの計画について共通認識をしっかりともつことが鍵だと考えます。大学側は企業側の事情を、企業側は大学側の事情を互いに尊重することだと思います。

現在の制度における課題点などはございますか。

小野木:
やはり、共同研究先を探すのが難しいです。いきなり共同開発を始めることは難しいため、まずは医療現場を知ってもらう機会が必要だと思います。これは単発ではなく共同研究テーマを模索するための準備期間として3か月とか半年とかいう期間で実施したほうがよいと思います。

イノベーションプロモーター教員について

プロモーター教員になった経緯を教えてください。

小野木:
生体材料工学研究所所長の影近先生にご推薦頂きました。当然、医工学を専門としていますので、二つ返事でお引き受けした次第です。

現在はどのような活動をしていますか。

小野木:
直近では、水曜日に定期開催しているtip BBセミナー(オンラインセミナー)に参加しました。近い将来、講師として医工連携に関する経験や現場の課題感についてお話してみたいですね。プロモーター教員の活動を通じて、工学と医学の間にあるギャップを埋める橋渡し役になれたら本望です。

東京医科歯科大学と東京工業大学が統合したからこそできることもありそうですね。

小野木:
東工大の先生たちが築き上げてきた研究成果と医療現場のニーズをマッチングさせる作業を医療イノベーション機構の皆さんと一緒にやってみたい。お互い畑が違うので骨の折れる作業になるかもしれませんが、もしピタッとはまれば技術革新が生まれる可能性は大きいです。医療イノベーション機構には、ネットワーク構築の他、起業支援や特許といった知的財産権のエキスパートの方々が揃っているので企業との共同研究で困ったら相談したいと思います。

最後に

先生の趣味や休日の過ごし方を教えてください。

小野木:
特にこれといった趣味はありませんが、休日はのんびり休んでいます。自分の興味とアイデアで自由に研究をさせてもらっているので、仕事というよりも趣味に近いのではないでしょうか。

先生にお会いしたい方、研究プロジェクトについてさらに詳しく知りたい方は、お気軽にご相談ください。

医療イノベーション機構
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