INTERVIEW

研究者インタビュー

2024.12.10 
研究者インタビュー 
Vol.66

イヤホン型脳波計を用いて不安・緊張などのメンタル状態を可視化 アスリートのメンタルケアにも注力

第三期プロモーター教員

働き盛りの男性、女性、高齢者、子どもだけでなく、スポーツ選手も目に見えないストレスを抱え、「心の病」にかかる人は増え続けています。今回は、脳波によるメンタルヘルス評価や認知機能をリカバリーする方法を研究している髙木俊輔先生にインタビュー。所属分野や産学連携で進めている研究内容について聞きました。

プロフィール
東京科学大学病院
精神行動医科学分野(精神科)
講師
髙木俊輔先生

私が聞いてみました

室長・シニアURA(特任教授)
山田周作

インタビュアー詳細

研究について

所属分野について教えてください。

髙木:
精神科に所属し医局長として患者さんの治療にあたりながら、ADHD、統合失調症や気分障害、依存症をはじめとする精神疾患の脳科学に基づく病態研究、客観的な診断法および新規の治療法の開発を行っています。また、過眠症やリズム障害といった睡眠疾患、てんかん患者さんの精神科的合併症などを得意としています。患者さんの日中の強い眠気に対して検査を行ったり、「気分が沈みやすい」「やる気が出ず後回しにしてしまう」「イライラして怒りっぽい」といった心の不調を、状態に応じて薬物療法、精神療法を組み合わせて診療したり、重症の患者さんに対しては脳を電気的に刺激して精神症状を緩和する「修正型電気刺激療法(mECT)」や、抗精神病薬であるクロザリル(クロザピン)含めさまざまなアプローチで早期回復を目指しています。

所属分野にはどのような特長がありますか。

髙木:
本学の精神科は1944年に開設し、80年の歴史があります。大学病院、総合病院、精神科単科病院など研修病院の選択肢が多く、児童精神、司法、老年期、アルコール依存症など希望する専門分野が見つかりやすいグループでえす。精神疾患の患者数は増加傾向にあり、がん・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病と並び5大疾病に指定されるほど重要性が高まっている病気です。

先生の研究内容を教えてください。

髙木:
主な研究分野はてんかんや睡眠、スポーツ選手のメンタルケアです。てんかんに悩む患者さんの多くは日中に眠気を感じる睡眠障害を抱えており、脳波検査によって異常な脳波の変化や眠気との関係性を調べています。2022年からはスポーツ診療部内にあるアスリートメンタルケア外来で、プロ・アマ問わず緊張、不安、不眠、抑うつでパフォーマンス低下に悩んでいる選手をサポートしています。睡眠障害とアスリートのメンタルヘルスは関係性が深く、私も理事をしている日本スポーツ精神医学会の内田直(すなお)先生にご指導いただいたというご縁で始まりました。

なぜ脳波に興味を持ったのですか。

髙木:
てんかんと脳波の研究に精通した本学の松浦雅人名誉教授、神経医療センター(現:新宿神経クリニック −てんかん専門− 院長)の渡辺雅子先生との出会いが大きかったですね。精神疾患における脳波研究は歴史が古く、脳の血流を調べるMRI(Magnetic Resonance Imaging、磁気共鳴画像)と比べると安価で設置スペースも取りません。小さな脳波測定器さえあればどんな場所でも、多様な条件で調べることができる汎用性の高さが私の性格にも合っていたのでしょう。脳の機能は解明されていないことばかりですが、脳波の変化で証明できることもある。
最近は、脳の表面に直接電極を埋め込み、頭皮上とは異なる高い周波数を元に脳波の反応や脳機能を調査する手法に着目し、精神疾患で悩む患者さんの脳機能をリカバリーする方法を探っています。

一般の患者さんに限らず、アスリートのメンタルヘルスも重要ですよね。

髙木:
仲間でありライバル関係でもあるチームメートやコーチとの人間関係など、心理的ストレスも多いアスリートの世界。誰しもがメジャーリーグで活躍している大谷翔平選手にはなれないからこそ、心の土台作りが大切です。拒食症(神経性無食欲症)に苦しみ体重が激減した選手が不安や焦燥感が拭えず落ち着きがなくなったり、1年間で体重を20kg増加させたアメフト選手がパニック障害になり十分な練習ができなくなったという症例もあるので、体重の変化と精神疾患の関係性も調査中です。

産学連携について

先生が関わっている産学連携についてお聞かせください。

髙木:
本学が包括連携協定を結んでいるソニーと、精神科領域でのオンライン診療の実現に向けた診療中の映像を解析するシステム開発に挑戦しています。他には、科長の髙橋英彦先生の紹介でVIE(ヴィー)株式会社が開発したイヤホン型脳波計を用いて共同研究を進めています。具体的には、仕事やスポーツ中など日常生活での脳活動の状態をリアルタイムで可視化して、不安や緊張と脳波の相関関係を把握する研究です。最終的には、自宅でも感情や思考を高精度にコントロールできる製品やソフトウェアの開発、測定方法を確立してみたいですね。

産学連携と研究室の研究に違いはありますか。

髙木:
役職や立場を問わず、企業と研究者がフラットな関係性で議論を徹底的に深める経験ができたのは新鮮でしたね。医療の現場だけでなく、社会実装していかに多くの人に製品を利用してもらえるかが重要だと考えており、寝不足の数値化して微細な注意力低下を見える化してみたり、リラックス効果やストレス発散につながる製品の開発にも関わってみたいですね。アカデミアとの共同研究にも興味があり、睡眠の観点で他の先生と一緒に新しい発見ができたら本望です。

イノベーションプロモーター教員について

プロモーター教員になったきっかけを教えてください。

髙木:
本分野初のプロモーター教員として活動していますが、 オープンイノベーシ医療イノベーション機構主催のキックオフ会や企業会員交流会で他分野の人との出会いも増えました。後輩にも引き継いでいきたいと思えるほど「なってよかった」と感じています。企業から数多くの問い合わせが医療イノベーション機構に届いていると聞いているので、お役に立てるように頑張りたいです。東京工業大学と統合し東京科学大学になりましたので、さらなる連携が楽しみですね。

最後に

趣味や休日はどんな風に過ごされていますか。

髙木:
高校時代に流行っていたMTB(マウンテンバイク)に研修医の頃から乗り始めました。オリンピックの競技種目になるほど体力と技術力が試されるスポーツで私自身も本格的にやっていた時期もありますが、今では大会に出場するほどハマっている8才の娘と一緒に練習をする時間が楽しみです。

先生にお会いしたい方、研究プロジェクトについてさらに詳しく知りたい方は、お気軽にご相談ください

医療イノベーション機構
openinnovation.tlo@tmd.ac.jp

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