INTERVIEW

研究者インタビュー

2024.10.21 
研究者インタビュー 
Vol.63

家族性パーキンソン病の発症メカニズム解明に道筋 オルガネラの品質管理を通じて創薬にも意欲 

第三期プロモーター教員

体が動きにくくなったり、震えが起こるパーキンソン病は年齢に伴った脳の変化によって発症すると言われています。今回は、神経変性疾患の原因解明や、細胞内の品質管理機構を可視化する方法を研究している山野晃史先生にインタビュー。現在の研究内容やプロモーター教員としての抱負を聞きました。

プロフィール
難治疾患研究所
機能分子病態学分野
准教授
山野 晃史先生

私が聞いてみました

医療イノベーション機構 イノベーション推進室URA・特任准教授
長尾 研二

インタビュアー詳細

研究について

まずは先生が所属する分野に関して教えてください。

山野:
パーキンソン病の発症メカニズムの解明や治療法を開発する難治疾患研究所の機能分子病態学分野に所属しています。2022年に立ち上がったばかりの分野です。私は以前、東京都医学総合研究所に在籍しており、分野長の松田憲之教授や今いる多くのメンバーと共に本学に着任しました。

パーキンソン病は神経変性疾患の1つですよね。

山野:
パーキンソン病は国が定めた指定難病の1つで、手足や顎が震えたり、動作の開始に極端に時間が掛かったり、姿勢を保持することが難しく転倒しやすいなどの症状があり、日本だけで15万〜20万人の患者さんがいると推定されています。加齢とともに発症率が高くなり、 高齢化に従って患者数は増加傾向。パーキンソン病の原因は未だ解明されておらず、遺伝的要因と生活習慣による環境要因の両方が関与していると考えられています。パーキンソン病のほとんどは、家族や親戚に同じ病気を発症した人がいない孤発性で、神経伝達物質のドーパミンを作る黒質緻密部のドーパミンニューロンが変性・脱落し発症します。一方で、家族内に病気の原因となる遺伝子に変異が存在する「家族性パターン」も5〜10%の確率で発症する可能性があり、私たちは後者の「家族性パーキンソン病」に着目しています。

山野先生の研究とパーキンソン病の関係をお聞きしたいです。

山野:
身体を構成する細胞の中には「オルガネラ」と呼ばれる細胞小器官があり、そのオルガネラの品質管理が私の研究テーマです。オルガネラの1つであるミトコンドリアは通常細胞内で生命活動に必要なATP(アデノシン三リン酸)を作るのですが、何らかのストレスで損傷したミトコンドリアはその機能を停止します。2008年に米国国立衛生研究所の研究者が、損傷ミトコンドリアはオートファジー(マイトファジー)によって選択的に分解され、細胞の恒常性が保たれることを発見しました。

共焦点顕微鏡を使った実験の様子

しかし、そのマイトファジーが不全になり、損傷ミトコンドリアが分解できず蓄積され続けると家族性(遺伝性)のパーキンソン病が発症する原因になると言われています。

現在の研究を始めたきっかけはなんですか。

山野:
スタートは酵母ミトコンドリアの研究で、8年間ほど従事してきました。細胞がなぜ自立して増えるかというメカニズムを調べるのに必死で現在の研究には無関心だったのですが、米国国立衛生研究所での留学を経験し、マイトファジーを発見した研究チームとの交流を通じて、オルガネラの機能に興味を持つようになったんです。オルガネラの品質管理は細胞の生存に必須ではありませんが、加齢に伴う神経系の疾患に少なからず影響を与えます。品質管理は難解で明らかになっていることが少ない中、2008年の発見はノーベル賞に匹敵するほどの大きなブレイクスルーでした。オルガネラの品質管理を深く掘り下げることで、パーキンソン病の原因となる細胞や神経系の病原メカニズムの解明、創薬などに貢献したいですね。

研究の魅力、やりがいはどんなところにありますか。

山野:
細胞やタンパク質の品質管理を証明する実験条件や、細胞に変化を起こす試薬の開発は極めて難しいですが、いくつかの品質管理の条件は目星がつき、成功しているものもあります。パズルを組み合わせるようにたくさんの可能性を試して、完成形に少しずつ近づいていく過程は、大変ではありますが研究の醍醐味でもありますね。

産学連携について

産学連携の経験や実績に関して教えてください。

山野:
他分野の研究チームや企業との接点があまりなく、今まで企業と一緒に研究をした経験は今のところありません。私の研究テーマは基礎的な内容で産学連携から遠い存在だと感じていたので、企業の方々にとってどんなお役に立てるのか、またどのように歩み寄ればいいのかを模索している段階です。

どういった分野の企業と産学連携を進めていきたいですか。

山野:
大量のデータをAI(人工知能)で学習し分析できる、ビッグデータ領域に強みを持つ企業と連携してみたいですね。私は1つの現象や遺伝子に注目しすぎるがあまりに全体像を掴むのが苦手。実験で得た情報を上手に活用することで、研究の幅が広がると思います。今回取材して下さった長尾さんのように、医療イノベーション機構のスタッフは研究者の隠れた強みや研究の魅力を引き出すことが得意な方が多いと聞いておりますので、情報提供や相談のほか、企業をつなぐ橋渡し役を担っていただき、産学連携を推進する後押しを手伝ってもらえると助かりますね。

難病・希少疾患に関する産学連携も増えているので、山野先生の研究に興味を持つ企業も見つかるはずです。

山野:
そうなんですね。企業側もビジネスですから、難病のような報告例が少ない疾患モデルを解決する研究はニーズがないと思っていました。研究成果を発表する機会を増やしたり、企業の担当者とお会いして要望を聞くなど積極的にアプローチをしていきます。

イノベーションプロモーター教員について

プロモーター教員になった経緯をお聞きしたいです。

山野:
本学は患者さんに寄り添った研究に取り組んでいる先生が多く、病気の原因や病態の解明、新たな治療法や治療薬の開発を行う臨床研究にコミットしやすい環境が揃っています。プロモーター教員になれば、そういった先生との交流も増えるだろうと期待して手を挙げました。分野の枠を越えて先生同士で連携したり、知見を広げたりするためにも、今後は第1期・第2期合わせて98名いる先輩プロモーター教員の研究や活動内容を参考にしたいですね。加えて、産学連携のプロジェクト組成に向けて企業との意見交換会やセミナーに参加し、少しずつ輪を広げ、近い将来経済や社会に還元できたら嬉しいですね。

最後に

先生の趣味や週末の過ごし方を教えてください。

山野:
高校生から習い始めた空手は、今も継続しています。米国留学時は、練習を通じて同じ流派の外国人と交流を深めました。長男が中学生になるまで空手を教えたり、最近は参加できていませんが、住んでいる地域の空手教室に顔を出して指導したりすることが息抜きになっていますね。機能分子病態学分野の仲間はとても頼もしく、設備も整っているので、本当の趣味は研究と言っていいほど(笑)です。私を指導してくださった京都産業大学生命科学部の遠藤斗志也先生の「研究は趣味以上、哲学未満であれ」という教えを糧に、無理をしない範囲で空手と研究を極めていきたいですね。

先生にお会いしたい方、研究プロジェクトについてさらに詳しく知りたい方は、お気軽にご相談ください

医療イノベーション機構 イノベーション推進室
openinnovation.tlo@tmd.ac.jp

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