INTERVIEW

研究者インタビュー

2024.10.14 
研究者インタビュー 
Vol.62

産学連携でデジタル技術を応用した診療サポートシステムを開発 歯髄内にあるリンパ管のメカニズム解明にも意欲

第三期プロモーター教員

虫歯が進行し、先生から「完治のために神経を抜いてしまった方がいい」と言われたことがある人もいるはず。歯の根管部分はさまざまな細胞が通っており、人によって千差万別だ。今回は、歯の根管を充填する材料や治療をサポートするシステムを開発している田澤建人先生にインタビュー。産学連携で進めている研究内容や共同研究の醍醐味について聞きました。

プロフィール
歯学総合研究科
歯髄生物学分野
助教
田澤建人先生

私が聞いてみました

医療イノベーション機構 イノベーション推進室URA(特任准教授)
磯部 洋一郎

インタビュアー詳細

研究について

所属分野について教えてください。

田澤:
私は歯髄(しずい)生物学分野に所属し、研究をしています。歯髄とは、「歯の神経」と言われる器官で、歯の中心に位置し、歯の恒常性を保つのに大切な役割を担う血管、神経などで構成されている組織です。もし虫歯が奥深く進行して歯髄まで達すると細菌が歯髄に入り、刺激に対して敏感になったり痛みを伴う歯髄炎になるため注意が必要です。

歯髄炎は歯を失う危険性もあると聞きました。

田澤:
歯髄炎の治療には可逆性歯髄炎と不可逆性歯髄炎の2種類があります。可逆性歯髄炎は、まだ回復の余地がある状態で、早い段階で適切な処置を行えば歯髄を元気な状態で残せる可能性があります。炎症が進んでしまった場合は不可逆性歯髄炎と呼ばれ、抜髄などの根管治療や、最悪の場合抜歯することにもなりかねません。神経の管は複雑な構造をしており、存在する菌や感染歯質を取り除くには精密な技術が求められます。抜髄後は歯根が空洞のままだと再び細菌感染を引き起こしかねないので、細菌が入り込む隙間が出来ないように、ガッタパーチャと呼ばれるゴム性の素材などを詰め込む根管充填という処置を行います。

現在どのような研究に携わられていますか。

田澤:
根尖病変の免疫細胞の動態を調べて根尖病変の進行・発達を遅らせる方法や、歯の中にあるリンパ管の働きについて解明しています。歯の内部はさまざまな組織で構成されていますが、実はリンパ管が歯のどこにあって、どんな動きをしているのか未だ明らかになっていません。アメリカ留学時に、遺伝子改変マウスを使って調査したところ、大人へと成長するにつれてリンパ管が減少していく現象を発見しました。今の研究はその延長線上としてリンパ管が減少するメカニズムの解析を行っています。臨床研究では、デジタル技術を応用した新しい診療補助デバイスや根管治療で使用する材料の開発を企業と共同で行っています。

歯胚におけるリンパ管

開発中の診療補助デバイスが完成すると、どんな問題が解決しますか。

田澤:
歯の治療では拡大鏡や顕微鏡を使用しますが、最近注目が集まっているVR(Virtual Reality)ヘッドセットやVRゴーグルを装着するとそれらの機器が使えないというデメリットがあります。私たちは従来の診療に邪魔にならない形でデジタル技術を応用し、より治療がしやすい環境の整備に取り組んでいます。例えば、歯を削る時は最終的な形状をイメージしながら作業をするのですが、すでに最終的な形状がみえていればその形に沿って削るだけでいいので、経験が少ない若い先生でも適切に処置できるようになる。また、奥歯の手術はベテラン医師でもひと苦労。ガイドがあれば歯や骨の位置も直感的に分かるため、見えづらかった術野が広がり治療の質も向上するでしょう。

根管治療で使う新しい材料の研究について教えてください。

田澤:
神経を取り出した空洞部分を埋めるガッタパーチャは50年ほど前から使われ続けていますが、慣れないと歯の形に沿って埋めるのが難しい素材なんです。近年、材料の分野でも革新的なアイデアが多く出てきており、これまでにない根管充填剤を作り出すことが可能になってきたと思います。

産学連携について

企業との共同研究に関して具体的にお聞きしたいです。

田澤:
デジタル技術を応用した診療補助デバイスの研究は高齢者歯科学分野の金澤学教授や駒ヶ嶺友梨子准教授にも参画してもらい、企業とともに開発を進めています。実は、協力企業の社長さんは私の患者さんだった方で、そこから話がすすみ共同研究に至っているので、ご縁の大切さを感じますね(笑)。

企業と研究を行う中で大切にしていることや注意点はありますか。

田澤:
共同研究では、企業は売上や販売実績、アカデミアは研究を深めることを重要視する傾向にあると感じています。だからこそ、お互いが研究の方向性やゴール設定を議論しながらうまく折り合いをつけることが大事だと感じています。また、企業の風土や規模によって動き方やスピード感も異なり、ある企業ではすぐに対応してもらえたり融通がきくことも、他の企業では会議で承認された事柄しか実施できないケースもあり、産学連携の難しさを幾度となく体感しました。関係者全員が利益を得られるように、私自身が説明の仕方や研究の進め方を変えたこともありましたね。

産学連携を通じて研究にどんな変化がありましたか。

田澤:
書類作成や企業との打ち合わせ、スタッフのマネジメントなど、限りある時間の中で効率的に研究ができるように時間の使い方を見直すきっかけになりました。それでも、1人でやるには限界があるので研究チームの協力が大きな支えになっています。多忙ではありますが、研究内容をブラッシュアップしたり、成果が少しずつ出始めるとモチベーションもアップします。大変なことも多いですが、私の研究がたくさんの人のお役に立てば本望ですね。

一緒に共同研究をしてみたい企業はありますか。

田澤:
私の研究内容に共感いただいたり、難しい課題が山積していても新しい技術や製品を作り出し日本から世界を良くしたいと考えている企業様とご一緒したいなと思います。

イノベーションプロモーター教員について

プロモーター教員になったきっかけを教えてください。

田澤:
当分野の興地隆史教授にお声がけいただきました。プロモーター教員として先生同士の連携を強化したり、企業との産学連携を盛り上げていきたいですね。お手伝いできるのならば、企業や知り合いの研究者を紹介したり、最初の一歩を踏み出すための企画立案にも積極的に関わりたいです。以前、医療イノベーション機構の担当者様に起業の相談や知的財産に関して相談する機会があり、とても助かりました。時間がなくてマッチングイベントや勉強会に参加できてないので、別の形で交流できるようなイベントを医療イノベーション機構やプロモーター教員の皆さんと一緒に企画してみたいですね。

起業も検討されていらっしゃるんですか。

田澤:
今の研究がある程度形になったら、起業するのもありだと考えています。東京医科歯科大学と東京工業大学が統合したので、工学のエキスパートである先生たちに技術面をサポートいただけたら心強いですね。

最後に

先生の趣味を教えてください。

田澤:
留学の際にワイナリーで美味しいワインに出会い、それからワインを飲むようになりました。いまでは家にワインセラーを買って、気に入ったワインを置いています。最近はお酒ばかり飲むのもよくないと思い立ち、筋トレを始めました。一人だとダラけてしまう性格なので、外勤先の院長にスパルタで指導してもらい、外勤の日はジムでメニューをこなさないと帰れない!とルールを作り、サボらないように気をつけています(笑)。

先生にお会いしたい方、研究プロジェクトについてさらに詳しく知りたい方は、お気軽にご相談ください

医療イノベーション機構 イノベーション推進室
openinnovation.tlo@tmd.ac.jp

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