INTERVIEW

研究者インタビュー

2024.09.02 
研究者インタビュー 
Vol.57

「子ども食堂」利用者の口腔機能管理と食育で地域に貢献 産学連携で“噛む練習”になるカレー開発にも意欲

第三期プロモーター教員

食べる・話す・呼吸する・表情をつくるなど、口にはたくさんの働きがある。しかし、発達が遅れていたり、しっかり噛んで飲み込む習慣がないことで、口腔機能が十分に発達していない「口腔機能発達不全症」の子どもも増えているという。今回は子どもを対象とした口の健康と食育の複合プログラムの開発を行っている日髙玲奈先生にインタビュー。現在の研究内容や産学連携で実現したいことを聞きました。

プロフィール
歯学部

地域・福祉口腔機能管理学分野
講師(キャリアアップ)
日髙玲奈先生

私が聞いてみました

オープンイノベーションセンター アライアンス部門 URA
島田 康弘

インタビュアー詳細

研究について

所属されている地域・福祉口腔機能管理学分野について教えてください。

日髙:
超高齢社会で多様化した高齢者の口腔機能の問題に対応できる歯科医療者の育成と、いつまでもおいしく食事を食べられるよう口と身体の健康増進に役立つ研究を行っています。具体的には、咀嚼・嚥下、義歯などの口腔機能の管理や、2022年1月に開設したオーラルヘルスセンターで、さまざまな診療科の先生と連携しながら入院している患者さんの口の健康維持や改善をサポートしています。

分野の中で先生はどのような研究を行っていますか。

日髙:
「子ども食堂」を利用している子どもと保護者を対象に、口の健康、咀嚼、栄養に関して、参加者の意識や行動変容を促すプログラムを開発する研究を行っています。「子ども食堂」は全国に約9,000カ所あると言われており、地域住民や自治体が主体となり、無料または安価で食事を提供することで子どもの貧困対策や地域交流の拠点として重要な役割を果たしています。研究のため、本学の歯学部付属歯科衛生士学校を卒業された近藤博子さんが運営する東京都大田区にある「子ども食堂」を訪問し、口の健康と咀嚼、栄養に関する講話を行ったり、食材の切り方に変化を加えるなど調理法を工夫した噛みごたえのある食事を考案し、利用者の行動が変容したかチェックしたり、実際に舌や噛む力を測定して評価しています。
最近では、大田区だけでなく中野区にも範囲を拡大して実施しており、ゆくゆくは全国展開できるように研究を進めています。

子どもの咀嚼や口腔機能をメインに研究を始めたきっかけはありますか。

日髙:
高齢者の方と接する中で、生活習慣が確立する前の子どもたちへのアプローチの大切さに気づき、現在の研究に着手しました。予防歯科や意識の向上により、むし歯をもつ子どもの割合は急激に減少しています。その一方で、日常的に軟らかい食べ物を食べたり、コロナ禍を経て話す機会が少なくなったりすることで子どもの口の機能が低下しています。生活リズムが変わり、身近に食べ方を教えてくれる人が減ったことも影響しているようです。
だからこそ、関われば関わるほど口の状態が良くなり、保護者の考え方が変わるだけで食習慣にも大きな変化が生まれ、地域に貢献している実感があります。いつかは蓄積したデータを活用して、小学校や中学校の授業に導入してもらえたら嬉しいですね。大学院生の頃は、高齢者を対象にフレイル予防について研究をしていたので、入院患者さんの口の機能や衛生環境の悪化を防ぐ診療も延長線上にあると感じています。

研究で苦労していることはありますか。

日髙:
コロナ禍は集団での食事ができなくなったので、子ども食堂もお弁当のテイクアウト方式に切り替わりました。私たちの研究は、話しながら口の健康や咀嚼、栄養の重要さを伝えることをコンセプトにしていたので、思った通りに伝えられず困ったこともありましたね。お弁当になったことで、時間が経過してもしっかり咀嚼できる食べ物をお弁当に入れられるように、いろいろな食材を検討したのも今ではいい思い出です。子ども食堂の利用者は必ずしも経済的に困っているわけではありません。地域ごとに属性が異なるため、対象の幅が設定できず、他の研究への応用が難しいのはもどかしいところですね。また、タイムマネジメントも課題ですが、限られた時間の中で「診療・研究・教育」の三本柱をうまく連動させています。

産学連携について

産学連携の経験はありますか。

日髙:
「子ども食堂」の研究では大手食品メーカーに食材を提供いただいたり、研究データを元にしたアプリ開発を電子機器メーカーにお願いしたことはありますが、共同研究はまだありません。企業との産学連携には非常に興味があるので、うまく噛めない、口がポカンと開くといった症状がみられる口腔機能発達不全症を改善する食品や口腔機能の低下を防ぐ教育教材の開発、口腔機能を気軽にチェックできるアプリも作ってみたいですね。まだ産学連携の経験がない私にとって、企業のニーズを掘り起こして、提案をするのはかなり難易度が高い。オープンイノベーションセンターの力を借りてチャレンジしてみたいと思います。

どのような企業との産学連携を希望しますか。

日髙:
「食育」の推進をしている食品メーカーとは親和性があるのでは、と考えています。例えば、子どもに人気のカレーですが、具材も柔らかく液体状なので、咀嚼回数が多いメニューではありません。噛む回数が増えるような食材を加えて、口腔機能を改善する一品として商品化できたら面白いですね。お弁当によく使われる冷凍食品も、相性が良いかもしれません。アイディアを具現化するお手伝いをしていただける企業との出逢いを望んでいます。

アカデミック同士の共同研究はいかがですか。

日髙:
「子ども食堂」のプログラム開発は東京大学との共同事業になります。また、当分野の松尾浩一郎教授からの紹介で松本歯科大学や東京医療保健大学の先生に指導いただきながら、研究を積み重ねています。

イノベーションプロモーター教員について

イノベーションプロモーター教員になった理由を教えてください。

日髙:
松尾教授から「研究を深める良いチャンスだから」とお声がけをいただきました。プロモーター教員の肩書きを活かして、企業との連携も積極的に行っていきたいですね。こういったインタビュー記事で、他分野の先生の研究内容や人柄を知ることができるのは貴重で、他のプロモーター教員の方の記事は何度も読み返してしまいました。なので、私の記事を読んだ方から、お問い合わせがあると嬉しいです。
三菱地所さんと本学で運営するTMDU Innovation Park(TIP)は、異分野融合・オープンイノベーションを実践する場で、定期的にBB(Blue Bird)セミナーも開催していると聞いています。私もいつかは登壇できるように準備をしておきたいと思います。

最後に

週末や休みの日はなにをして過ごされていますか。

日髙:
大学生の頃から新舞踊をやっています。日本の伝統芸術である日本舞踊がベースなんですが、親しみやすく今も続けています。他には、ウォーキングが好きで、週末時間があれば東海道や中山道を1日30kmずつ歩いて帰ってくる日もありますね。両方とも東京の日本橋が起点ですが、東海道は三重県まで、中山道は長野県あたりまで制覇しました。出発地点が遠くなりつつあるので、移動時間と交通費がかかることが最近の悩みです。歩いていると名所以外の観光スポットが見つかったり、運良くお寺に宿泊もできたり、食べ歩きも楽しいのでいつかは2週間休みをとって一気に歩いてみたいですね。

東海道の名所である静岡県薩埵(とっさ)峠からの景色

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オープンイノベーションセンター アライアンス部門
openinnovation.tlo@tmd.ac.jp

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