INTERVIEW

研究者インタビュー

2024.08.20 
研究者インタビュー 
Vol.56

正しい手指衛生や抗菌薬の適正使用で感染症を抑える 産学連携で認知拡大に意欲

第三期プロモーター教員

手洗いなどの感染症対策を怠り、発熱や風邪をひいたことがある人も多いはず。感染症は周囲に広がる危険な病気だ。患者の中には抗菌薬が効かず、重症化してしまうケースもあるという。今回は、抗菌薬の適正使用や手指衛生向上に関する研究をしている岡本耕先生にインタビュー。研究の展望や産学連携で実現したいことを聞きました。

プロフィール
医歯学総合研究科
統合臨床感染症学分野
准教授
岡本耕先生

私が聞いてみました

オープンイノベーションセンター アライアンス部門 URA
古塩 裕之

インタビュアー詳細

研究について

先生の経歴や所属されている分野について教えてください。

岡本:
2005年に大学を卒業した後、臨床医として内科や感染症の治療に携わり、2010年から2016年までアメリカに留学し、内科・感染症の臨床トレーニング、感染症・医療疫学の研究に従事していました。本学には2023年10月に着任しています。現在所属している統合臨床感染症学分野は、2021年4月に設置された新しい分野で、主に感染症内科と感染制御部を担当しており、感染症の適確な診断と治療のサポート、感染制御部とともに院内感染を予防する活動を行っています。感染症といえば、新型コロナウイルス(COVID-19)が記憶に新しいですが、細菌やウイルスなど、微生物が引き起こす病気のことを指します。

感染症に興味を持ったきっかけはなんですか。

岡本:
最初に勤務した飯塚病院は福岡県の中部に位置する飯塚市にあり、地域の砦となっている病院でした。当時は飯塚病院には感染症科はなく、各科の先生がご自身で感染症の問題に対応している状況でした(※飯塚病院では2019年4月1日に福岡県筑豊エリアで初となる「感染症科」を新設)。救急外来や各専門診療科での研修で様々な患者さんを担当させていただきましたが、どんな診療科であっても感染症については自分自身の知識や判断が治療に反映されることが多く、やり方次第で病状が改善していく姿を目の当たりにし、感染症診療のやりがいを感じました。

また、微生物は種類が多くて飽きることはなく、また、どんな感染症にかかるかは患者さんの日常と密接に関わるため、臨床医としての腕が試されるなと感じました。熱が出る、炎症の値が高いなど、症状や検査の値からだけでは、感染症かどうか、感染症であるとしてもその原因微生物が何かを判断することは容易ではありません。臨床医としては、院内の全ての診療科の患者さんを対象に、感染症の診断、治療、予防について主治医の先生方の支援を行っています。

現在はどのような研究に携わられているんですか。

岡本:
感染症研究の中でも特に医療疫学と呼ばれる分野の研究に携わってきました。具体的には院内での耐性菌の伝播のメカニズムを探る研究、感染対策の有効性を調べる研究、抗菌薬や微生物検査の適正使用に関連する研究などです。感染症は他の分野とも関わりが深く、微生物学、公衆衛生学・疫学、薬理学・薬物動態解析学、などの複数の領域の研究者・専門家の方々と一緒に研究を進めています。

医療疫学について詳しくお聞きしたいです。

岡本:
感染症学は非常に幅広い学問領域で、多くの方が想像されるように個々の患者での事象・疾病だけでなく、事象の分布・頻度を集団で全体として捉える学問領域です。感染症は医療疫学の源流のようなもので、19世紀半ばにイギリス・ロンドンで発生したコレラの流行を調べた研究は医学生が皆学ぶ疫学の基本事項です。

近年は、医療感染症と呼ばれる、病院などの医療システムの中で患者さんがかかる元々の病気とは異なる感染症(医療関連感染症)の実態解明そしてその減少が最も重要なフォーカスです。例えば入院すると多くの患者さんが点滴のために静脈にカテーテルと呼ばれる管を入れることになりますが、その管は微生物が体に侵入するきっかけになります。そのような原因は点滴の管に限らずたくさんあり、手術のための傷もそうです。

米国感染症学会での発表の様子

医療技術の進歩は目覚ましいのですが、それは同時に医療関連感染症のリスクを増やします。医療関連感染症を未然に防いだり、リスクを減らすための研究が今後ますます重要になると思っています。

薬剤耐性も大きな話題となっていますね。

岡本:
そうですね。薬剤耐性は通称「AMR(Antimicrobial Resistance)」と呼ばれていて、抗菌薬や抗ウイルス薬が感染症の原因となる病原体に対して効かなくなることをいいます。1940年代に実用化されたペニシリンから、我々は抗菌薬の恩恵にあずかっていますが、開発と同時に耐性のある菌が発生するいたちごっこが今も続いているのが現状。この状況をどうやって防ぐかということも研究対象で、永遠のテーマでもあります。

産学連携について

産学連携の取り組みについて教えてください。

岡本:
大手医療機器メーカーと一緒に手指衛生向上のための映像を作ったり、検査機器メーカーとアドバイザリー契約を締結するなど、分野として企業とは良好な関係を築いています。ですが、私自身はまだ産学連携での共同研究の経験はありません。今回のインタビューを通して、私の研究を知ってもらい、新たなチャレンジができることを望みます。実は、臨床感染症をメインに研究している大学は少ないんです。産学連携を通じて、感染症に知見がある医師を増やすことも私のミッションの1つです。

どのような企業との産学連携をイメージされていますか。

岡本:
手指衛生に関する商品開発のニーズはあるとは思います。もしチャンスがあれば、設置場所の開拓など社会実装まで協力したいですね。最近、オープンイノベーションセンター・ヘルステックデザイン部門の藤田浩二教授と診療端末や記録された情報の最適化に関して話し合ったことがあります。とある現場で、保険の書類を書く時に、情報を打ち込む入力フォームが違うだけで膨大な作業が発生していました。フォーマットの統一を上司やデータを開発している企業に提案し実現することで、業務を見直すことができました。ゆくゆくは医療従事者の行動やデータを解析し、データ入力の手間を減らすなど診療の改善や働き方改革を行い、より患者さんと向き合う時間を増やせたらと考えています。

また、ご覧になった方もいるかもしれませんが、感染症対策のポスターも私たちが制作し、院内に掲示しています。様々な感染対策を文化として根づかせることができれば、他の病院や医療施設でも応用ができるはず。改善結果やノウハウを蓄積し、成果物をもって組織の仕組み化に貢献できたらよいですね。

イノベーションプロモーター教員について

プロモーター教員になった理由を教えてください。

岡本:
感染症以外の領域にも興味があること、分野を横断して情報提供や研究を進めてきたこと、研究成果を多くの人に届けたいという思いが評価されて声がかかったと自己分析しています。本学は寄附講座や寄附研究に熱心なこともあり、出合いの場があると感じていました。企業や研究分野の垣根を超えた産学連携だけでなく、海外の企業や研究者とも共同研究をするのが夢。早くオープンイノベーションセンターの皆さまの力をお借りできるように精進していきます。

どのような将来像やゴールを描いていらっしゃいますか。

岡本:
感染対策の中で手指衛生は大切ですが、世界的にみても実施率は半分以下。手指の衛生を訴えていますが、道なかばです。また、抗菌薬の不適切な処方もまだまだ多い。幼い頃から公衆衛生の概念を知り、身につけていれば大人になっても感染症にかかるリスクは減り、誤った服薬なども防げるはずです。活動や教育を継続していれば、いつか手指衛生や抗菌薬の適正使用が当たり前の社会になると信じています。将来的には、特定の細菌やウイルスに対する予防から治療まで幅広い研究に関わっていきたいですね。

最後に

最後に、先生は休日をどのように過ごされていますか。

岡本:
一番難しい質問ですね(笑)。研究に加えて、セミナーや学会に参加する日々が続いているので、時間があれば家族と過ごす時間を大切にしていて、食器洗いや掃除、洗濯などできる限り家事をするように心がけています。体を動かすことも好きで、コロナ禍では皇居ランに熱中していました。少し膝を痛めてしまったので今は水泳など別のことをやっています。

息子さんのために作った先生手作りのお弁当

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オープンイノベーションセンター アライアンス部門
openinnovation.tlo@tmd.ac.jp

オープンイノベーションセンター アライアンス部門
URA
古塩 裕之

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