INTERVIEW

研究者インタビュー

2023.12.15 
研究者インタビュー 
Vol.55

企業との産学連携で炎症性腸疾患の療養行動を解析 医療DXで遠隔看護の構築にも期待

第2期プロモーター教員

腹痛、下痢等の腹部症状が慢性的に続く「炎症性腸疾患」。日本国内の患者数は年々増え続けているが、発症メカニズムは解明されておらず、完治する治療法も見つかっていません。しかし、適切な療養プロセスを辿れば容態が安定する可能性があります。今回は炎症性腸疾患患者の看護支援を研究している川上明希先生にインタビュー。産学連携の経験やプロモーター教員として実現したい研究成果を聞きました。

プロフィール
保健衛生学研究科
成人看護学分野
准教授
川上明希先生

研究について

川上先生の研究内容を教えて下さい。

川上:
私は学部生や大学院生の教育や看護研究をサポートしながら、消化管粘膜に炎症が起こり慢性的な下痢や腹痛、血便等を起こす炎症性腸疾患(IBD:Inflammatory Bowel Disease)を抱える患者さんの生活の質向上のための看護研究に取り組んでいます。また、炎症性腸疾患は症状が安定した状態で妊娠・出産を迎えることが重要であり、様々な領域の看護職や先生方の知恵をお借りしながら妊娠・出産に関する研究も進めています。

大腸の粘膜に炎症が起こる「潰瘍性大腸炎」と消化管のいかなる部位の粘膜にびらんや潰瘍ができる「クローン病」が炎症性腸疾患の代表的な病気なのですが、詳しい発症原因は分かっておらず国の指定難病になっています。若年者から高齢者まで幅広く発症しますが、男女ともにピークは10〜30代。学生生活や仕事、出産など人生の節目に影響する点が特徴的で、患者さんと接していると日常生活との両立で悩みを抱えておられる方が多いと痛感しますね。

どのような経緯で研究を始められたのですか。

川上:
臨床の現場で働いていた時に自分と同じ年代の炎症性腸疾患の患者さんを看護する機会が多く、慢性的な下痢や腹痛に苦しみ、社会生活との両立で悩まれている姿を目の当たりにして「ご病気を抱えながらできるだけ生活の質を保てるような支援ができたら」という気持ちが芽生えたことが今の研究を始めた理由です。

炎症性腸疾患は「寛解(症状が治まる状態)」と「再燃(再び悪化する状態)」を繰り返す場合や、症状が出る「活動期」が慢性的に続くケースがあり、栄養療法や薬物治療などの療養行動を継続しながら患者さんの「生活の質(QOL:Quality of Life)」を向上させる治療法が鍵となります。病気のコントロールに寄与する患者さんの服薬管理や適切なセルフケアを中心に戦略的な看護ケアの実現を目指して活動しています。

研究を進めていく上で大切にしていることはありますか。

川上:
看護研究も様々な手法がありますが、私たちはインタビュー調査のような「質的研究」と質問紙調査、観察法といった「量的研究」の両面を用いて患者さんの声を拾い上げ、データを集め、解析しています。症例や患者さん個々人の事例から「気づき」や「発見」を得るためにデータ量がいつも膨大になり、まとめることに苦心することもあります。そのため、調査一つにおいても私1人で完結する業務はほぼなく、当分野の教授田中真琴先生をはじめ、研究室全員の力を借りながら研究を進めています。

産学連携について

産学連携の経験についてお聞かせ下さい。

川上:
2019年から大手製薬メーカーと一緒に共同研究を実施しています。元々は講演会で出会った先生同士のつながりで田中先生にお声がかかり、私も共同研究という形で携わらせてもらうことになりました。患者さんの療養行動を支えるための1つとして自己効力感に着目した実態調査を進めてきました。そろそろようやく一区切り。最後まで頑張ります。

実際に企業と研究をしてみた感想はいかがでしたか。

川上:
企業の方々の助けがとても心強かったです。学部教育で研究に時間を割くのが難しい中、研究の方向性や論文内容の相談を企業の担当者と一緒に進められたのはとても効率的でしたし、自分自身のモチベーションアップにもつながりました。企業の方から「◯◯という施設は設備やケアが充実しているからアンケートを依頼してみましょう」といった形で研究者と臨床をつなぐ役割も担っていただきました。そういった気遣いや橋渡しのおかげでアンケートの配布や回収が通常の研究よりスムーズに行うことができましたね。

産学連携を企業と上手く行うコツなどございますか。

川上:
企業との研究は何事にも「時間」が必要だなと感じました。研究を順序立てて実行するためにも、骨組みの段階でしっかり議論を深める時間がないと途中で頓挫しかねません。また、論文を完成させるためには企業内部の承認も必要です。こちらから積極的に関係者の皆さんに時間をかけて根回しをしておくことで急な変更もなく作成することができました。産学連携を一度経験したからこそ分かることもたくさんあったので「まずはトライしてみる」気持ちが大事なのではないでしょうか。
もし改めて産学連携をする機会があれば、契約の締結や条件面の交渉をオープンイノベーションセンターの方々に協力してもらおうと考えています。前述の企業との連携の時も、間に入ってもらったおかげで両者のニーズを満たす共同研究を行うことができました。当事者同士だけでなく、知的財産やリスクマネジメントのプロフェッショナルが揃っているオープンイノベーションセンターに第三者の立場として支援してもらえると産学連携がより一層やりやすくなると思います。

産学連携を一緒にしてみたい企業はありますか。

川上:
炎症性腸疾患の治療薬を製造・販売している企業さんとはいつか共同研究ができたら嬉しいです。私たちはアンケート調査をまとめたデータを大量に所有しており、基礎研究以外にも自社サービスや既存ツールの認知向上、マーケティングなどでも企業の力になれることがあるはず。だからこそ、関心がある企業との接点も増やしていけるように私たち自身も最新の話題に対して敏感になっておく必要がありますね。

産学連携で実現したい研究はありますか。

川上:
炎症性腸疾患の患者さんは若年層が多く、普段は仕事や学業に専念している人がほとんどなのでちょっと体調が悪くてもなかなか病院に行きづらい現状があります。私がイギリス・ロンドンに留学していた頃、病院の炎症性腸疾患専門看護師さんがメールやボイスメッセージを活用して遠隔看護をしている姿を見て衝撃を受けました。日本では処方権など法律の関係で看護師が患者さんへ直接処方したりすることは難しいのですが、アプリやテクノロジーを使って遠隔で効率的に患者さんのニーズに対応できる環境を整えることも大事だと感じています。その点では、ITやDXに強いテック企業ともお付き合いしてみたいです。

これからは患者のニーズの多様化に応える「ペイシェント・エクスペリエンス(PX)」を向上させる動きがさらに活発になるでしょう。緩和ケアの観点からシステムやデザイン性を高めるために医工連携のような学校教育とのつながりも増やしていきたいですね。

プロモーター教員について

イノベーションプロモーター教員になったきっかけと、今後の活動方針を教えて下さい。

川上:
産学連携に携わっていた看護学の先生に推薦いただき着任しました。私自身共同研究の経験は少ないですが、企業と研究者の間にある潜在的なニーズを掘り起こして新しい研究にチャレンジすることに興味があるので、会議やメーリングリストで定期的に研究内容の発信を続けながら積極的にイベントや会合に参加して産学連携の可能性を探っていきます。

新型コロナウイルス感染症の流行は先生の研究に影響はありましたか。

川上:
コロナ禍で一時的に電話再診による処方箋発行が可能になった時期がありました。病状が安定している患者さんにとっては電話やインターネット上で診療が受けられるので「かなり楽になった」という声も聞きましたし、医療業界においてもメリットはあったのではないかと思います。なので、コロナ禍での経験は勉強になることばかりでした。コロナの時限的・特例的な措置が終了した現在では、ただでさえ忙しい外来診療に電話対応だけに看護師を配置するのは厳しいと思います。でも、看護師による遠隔での対応の有効性が認知されれば、診療報酬もつくし人員も増やせるためエビデンスを構築して日本での遠隔看護を実現させられたらと考えております。

また、有難いことに企業と共同研究するにあたって情報共有の場を定期的にいただけるようになりました。研究成果を発信する機会を活かして、遠隔看護の利便性をアピールし続けることで参入障壁を下げたり、アプリやシステム開発のきっかけになるようなインパクトを残せたら良いですね。

最後に

休みの日はどのようにしてリフレッシュされていますか。

川上:
ロンドン留学時に紅茶や食器があまりにも素敵でハマってしまい、帰国してからも食器を集めたりお気に入りのマグカップでコーヒーや紅茶を飲む時間が息抜きになっています。休日は子どもを追いかけ回したりとバタバタしっぱなしなので、本当は優雅な雰囲気は全くないですけどね(笑)。長い休みが取れたらバラが見頃を迎える時期にロンドンのイングリッシュガーデンを家族で散策するのが夢です。

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