INTERVIEW

研究者インタビュー

2023.05.08 
研究者インタビュー 
Vol.50

全身疾患と深く関わる歯周病 産学連携で歯周病をなくす口腔ケア機器の開発を目指す

第2期プロモーター教員

歯垢(プラーク)が原因で発症する歯周病。原因が特定されているにも関わらず患者数は減らず、日本人の成人の約8割が歯周病だと言われています。今回はビッグデータを用いた歯科治療や歯周病と全身の病気の関係性について研究をしている三上理沙子先生にインタビュー。歯周病が全身に及ぼす影響やイノベーションプロモーター教員で実現したいことを聞きました。

プロフィール
医歯学総合研究科
歯周病学分野
助教
三上理沙子先生

研究について

どのような研究を行っているのか教えて下さい。

三上:
研究テーマは「全身と歯周病」で、ビッグデータを用いた全身の健康に対する歯科治療効果を検証してデータベース化を推進したり、スマートフォンのアプリケーションを使った歯周病予防、歯周病治療の支援法の確立を目指す研究です。
東京医科歯科大学歯学部を卒業後、本学の歯周病学分野に入局して研究をしながら外来の歯科医師として診療にも携わり、2021年11月に歯周病科から口腔健康管理科に異動し特任助教として活動中です。
※インタビュー時は口腔健康管理科に所属。
2023年4月~歯周病科に異動

なぜ歯周病科から口腔健康管理科に異動したんですか

三上:
口腔健康管理科は歯周病科と関連する診療科で、卒業した先生も多く所属していたことが理由です。歯周病と全身疾患の関係を調べる研究を続けていく上で、口腔健康管理科で全身疾患などがある人の歯科治療をすることも大切だと教授と話し合い、決めました。
※インタビュー時は口腔健康管理科に所属。
2023年4月~歯周病科に異動

研究で大変なことはありますか。

三上:
現在は口腔健康管理科とオーラルヘルスセンターを中心に診療をしており、入院中の患者さんの口腔内の健康維持や改善をサポートするために、手術が決定してから入院、術後、退院、社会復帰まで患者さんの周術期の手助けを行っています。お口の周りを手術した後は歯磨きや食事もできず口腔内の環境が悪化しやすく、免疫力も低下しやすいため、誤嚥性肺炎を発症することも。抗がん剤治療や放射線治療を行うと口内炎やお口の乾燥がでやすく、術前から歯科医師と歯科衛生士が連携をして患者さんの口腔ケアにあたることが重要です。

口腔がんなどの場合はかかりつけ医の歯科医師から紹介されることもありますが、歯医者さんに通う習慣が全くなかった患者さんもおり、退院後も定期的に歯科医院を受診してもらうことが大事なのですが、継続的な歯科受診につながらない場合もあり歯痒い思いをすることもしばしば。患者さんの年齢層は比較的高く、口腔がんの患者さんだと60代以上の高齢者の方が多いです。

産学連携について

先生が取り組んでいる産学連携について教えて下さい。

三上:
大学院生時代は「レーザーと歯周病」という研究内容でソニーのオープンラボにあるプロトタイプのレーザーを使用したことがありました。現在はヘルスケア事業会社との医療報酬の明細書であるレセプトのデータベースを利用した共同研究にて、データ解析に従事する立場です。他には、歯周病や生活習慣病を予防するアプリ開発にも参画し、アプリを使う人と使わない人でどのような違いが出るかランダム化比較試験(randomized controlled trial)を用いて検証する予定なのですが、デジタルに強い先生が研究チームにいるので非常に勉強になりますね。

現在、企業と産学連携を行っていると聞きました。

三上:
はい。電子部品の製造を強みとする企業のヘルスケア事業部門と、唾液や口腔内の乾燥度を計測する口腔ケアに関する共同研究を行っています。透析を受けている患者さんは口の中が乾燥しやすく、口腔内の環境が悪くなりがちで歯周病やむし歯になる方も多い。そういった負のサイクルを断ち切る製品を生み出せるように頑張りたいです。

産学連携で気をつけていることはありますか。

三上:
企業の担当者の方とのコミュニケーションは重要ですね。私たちは日中診療にあたっているので、先方が夜にミーティング時間を合わせて下さったりと申し訳ない気持ちでいっぱいです。

オープンイノベーションセンターに期待することはありますか。

三上:
学内の倫理審査を通すサポートがあると助かりますね。企業とのやり取りで倫理審査の整合性を証明する必要があり、研究以外にも調整する機会が増えたと実感する日々です。研究計画のアドバイスはヘルスサイエンスR&Dセンター(旧:医療イノベーション推進センター)が実施しているので、時期を問わず相談してみたいです。特許出願中の研究もやっているので、オープンイノベーションセンターにご協力いただくことがこれから増えるかもしれませんね。

イノベーションプロモーター教員同士でやり取りすることは少なかったので、もっとダイレクトにつながれる機会を増やしていきたいですね。今までは教授の紹介がほとんどでしたが今の環境に甘えず、オープンイノベーションセンターと積極的に交流してこちらから情報を取りに行かなければいけませんね。

プロモーター教員について

プロモーター教員になった理由をお聞きしたいです。

三上:
上司である生涯口腔保健衛生学分野の荒川真一教授からご紹介いただき手を挙げさせていただきました。レセプト情報などビックデータを使った研究に興味があるので、本学にあるM&Dデータ科学センターでデータ解析をしている先生方とも連携をとってみたいです。歯学部病院の患者さんの情報のデータベース化が進んで、より研究に活用しやすい形になっていくとよいなと思っています。
臨床の現場で治療する中で、せっかくあるデータを上手く活用できず頭を悩ませることがありました。データ解析などを真剣に学ぶ必要があると思っていたところ、当時の上司である歯周病学分野の岩田隆紀教授よりご紹介いただき、2019年度に国際健康推進医学分野所属の藤原武男先生主催の論文執筆コースに参加して統計解析手法などを学びました。現在も、本学健康推進歯学分野相田潤教授や統合教育機構の石丸美穂先生などにご指導いただきながら、ビッグデータやレセプトデータを活用する方法を模索しています。

健康経営なども流行っているので保険会社と提携して口腔内のサポートを行うプログラム開発などイノベーションプロモーター教員の立場を活かして企業にどんどん提案していきたいですね。

情報が共有される仕組みやシステムがあれば産学連携ももっとやりやすくなるはず。今回のようなインタビュー記事を通じて「人」との交流も盛んにしていきたいです。

東京工業大学との統合も弾みになったら良いですね。

三上:
工業系の先生のご意見を聞きつつ色々と研究をしていきたいですね。「ヒト・モノ・カネ」といった資源の効率的な活用を紐解く医療経済系にも興味があるので、アドバイスを下さる先生がいたら嬉しいです。

最後に

先生が夢中になっていることや休日楽しみにしていることはありますか。

三上:
朝の時間に活動する「朝活」にハマっていて、休日の朝に早起きしては美味しい朝ごはんを食べに行っています。七里ヶ浜にある「世界一の朝食」と呼ばれるbills(ビルズ)は海沿いで景色も良く素敵でした。7時の開店に間に合うように、まだ暗い4時に起きて行ったのは思い出です(笑)。新型コロナウイルスの影響で夜の予定が少なくなったので、朝型の生活に無理なく切り替えることができました。

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