INTERVIEW

研究者インタビュー

2023.05.10 
研究者インタビュー 
Vol.51

抗生物質の代替薬開発に注力 産学連携による共同研究で「プロバイオティクス市場」参入も視野

第2期プロモーター教員

新型コロナウイルスの爆発的な流行が記憶に新しいが、ウイルスや細菌など目に見えない病原体が引き起こす感染症はいまだに世界中で多くの人の命を奪っている。今回は、細菌感染症や抗生剤代替治療薬の研究を行う芦田浩先生に細菌研究の醍醐味や産学連携の研究内容を聞きました。

プロフィール
医歯学総合研究科
細菌感染制御学分野
准教授
芦田浩先生

研究について

先生のご研究について教えて下さい。

芦田:
細菌感染制御学分野に所属して病原細菌の研究をしています。感染症の病原細菌と疾患の関係性は明らかになっていますが、発症メカニズムはいまだに不明な点が多く、病原細菌の感染分子メカニズムの早期解明が必要です。細菌による感染症は抗生物質を投与すれば一網打尽にできると考えられがちですが、薬剤耐性(AMR)を持つ細菌が増えており、このまま手を打たないとがん(悪性腫瘍)による死亡者数を超え2050年には「薬剤耐性菌による感染症」が全世界の死因第1位にもなりかねないと言われています。早めの対策を講じるためにも感染分子メカニズムの解明に力を入れ、病原細菌に対する治療薬、ワクチンの開発に結びつけられるようにしたいですね。また、体内には多くの種類の細菌が住んでいて(常在菌)、皮膚の表面や腸の中の環境を保つ役割があり、ヒトの健康状態や疾患の発症などに深く関わっています。そこで、この常在菌の機能を利用した感染症予防・治療にも取り組んでいます。

創薬に向けた研究をされているんですね。研究の魅力もお聞きしたいです。

芦田:
学生時代は東京工業大学で微生物を用いた物質生産技術の開発など工業的な研究を行っていました。その研究では微生物の有用能力に注目していたのですが、一方で同じ微生物でも「ヒトに害を与える微生物」がいます。病原菌になりうる可能性を秘めた細菌を突き詰めたい、良い面と悪い面を持ち合わせている細菌をもっと詳しく調べてみたいという気持ちが強まり、東京大学の大学院で細菌感染症の研究を始めたことがきっかけになります。細菌にはタンパク質を分泌して身体の機能を制御する感染メカニズムがあることが分かってきました。目で見えない細菌がどうにかして生き残ろうとする、どこかずる賢いと思えるような生存戦略に対抗する答えを見つけるために研究を続けています。

生産系から細菌研究に移られたんですね。研究の課題や問題点はありますか。

芦田:
今の技術レベルでは細菌による感染メカニズムの全貌を解明できないかもしれないという不安も本音で言えばあります。簡単には太刀打ちできない相手だからこそ、解明できたら面白いと自分を奮い立たせています。
また、細菌の研究は動物実験で解析と検証を行い、データを蓄積していきます。動物に感染をさせて個体への影響を観察するのですが、ヒトに対する病原細菌が実験動物であるマウスに感染しないケースもあり、大きな課題となっています。細菌がヒトにしか感染しないように進化をしている可能性もあり、感染モデルの欠如と再現性が低い現状はかなり厳しい状況です。動物実験を通過しないと薬を創ることは困難を極めるため、色んなアプローチから対策を講じる必要があります。

新型コロナウイルスの影響はありましたか。

芦田:
東京医科歯科大学では動物感染実験が停止になりました。細菌が感染した場合の影響を調べたかったのですが、ただでさえ実験動物が感染モデルとして活用できないリスクもある中で動物での感染実験ができなかったのは正直困りましたね。計画していたスケジュールから若干遅れましたが、これから挽回していきたいと思います。

今後研究はどういった展望やイメージをお持ちですか。

芦田:
腸管の病原菌に注目して動物モデルで感染可能なマウスの開発を続けており、ようやく日の目を見る状況まできました。腸内フローラと呼ばれる「腸内細菌叢」に注目しており、細菌感染防御に重要な役割を担っていることも明らかになってきました。今の研究を通して、ビフィズス菌や乳酸菌などヒトの腸に生息する善玉菌である「プロバイオティクス」の市場規模をさらに大きくできるように貢献したいですね。

産学連携について

企業と提携した共同研究は今までありますか。

芦田:
以前、企業の寄附講座に所属していたことがあります。企業の担当者とやり取りをして感じたことは、研究に対するスタンスは似ていましたが、成果が出るかどうかの見極めがとてもシビアでした。目標を達成する意識も高かったですね。企業に所属している研究者と話す時は、先方のニーズや要求に答えられるように意識して活動をしていた記憶があります。企業からの依頼内容も明確だったので、難しい交渉はなくトントン拍子に終了しました。
アカデミックな立場から気づいたことは、企業の研究者もさまざまな制約を受けるためできないことも多いということ。研究内容やデータを世間に公表するために、サンプルの入手経路を事細かくデータ化したり、定期的に内部共有していく過程はとても参考になりました。

共同研究の反省点は、私たちの興味と企業側のニーズが研究を進めていく中で若干ズレた時に修復作業をスムーズにできなかったことです。コミュニケーション不足など色んな要因が考えられるのですが、意思疎通が上手くいかず研究のモチベーションや士気に大きな隔たりを感じました。もっとうまいやり方ができたのではと反省しています。

産学連携で一緒に研究をしてみたいパートナー企業はありますか。

芦田:
私は製品や利益に直接結び付くことのない技術と理論の発見に関する基礎研究が中心なので、創薬、産業化、商品化などに向けた研究ができる企業と一緒にやっていきたいですね。特許、知的財産のサポートもしてもらえると大変助かります。

アカデミアではどういった仲間を探していますか。

芦田:
生物の遺伝情報を解析する「ゲノムシーケンス」や生体内に含まれる代謝物質を網羅的に分析する「メタボローム解析」など解析技術の専門家の方と組んで研究をしたいですね。昔お世話になった方で「腸内細菌叢」に関する研究をしている先生も多いので、セミナーやワークショップを開催して横のつながりを広げるアクションを起こしていこうと考えています。各々の先生が研究テーマを持ち寄って学内連携の強化を目的としたワークショップにも参加しました。他の研究者の方とも連携を深めて一緒に何かできれば嬉しいですね。

プロモーター教員について

イノベーションプロモーター教員の活動を始めたきっかけを教えて下さい。

芦田:
当分野の鈴木敏彦教授から推薦いただきました。「基礎研究の成果を応用研究へと発展させたい」と思っていた時にお誘いいただいたので応募しました。イノベーションプロモーター教員になって1年近く経ちますが、まだ具体的にアピールできる結果が少なく申し訳ない気持ちでいっぱいです。なので、研究してきた内容を学内、学外問わず多くの人に活用してもらえるように頑張っていきます。「細菌叢」に興味がある仲間を増やしていきながら、研究内容の発信を増やしていく活動を検討中です。

企業やアカデミアとの連携では、オープンイノベーションセンター(2023年3月に名称変更)と一緒にできることを考え、どんどん提案できるようにしたいですね。研究者や企業の担当者が気軽に雑談ができる「たまりば」などアイディアを出しながら今までにない自由度の高い環境を整えていき、イノベーションのハブを築いていけたら良いですね。

私は産学連携の経験が少ないので、共同研究の助走段階からオープンイノベーションセンターの皆さんにどんどんサポートして欲しいと思っています。相談件数や成功事例、失敗事例など色んな情報を開示して門戸を開いた活動を目指していきたいです。

最後に

リフレッシュのために休みの日にしていることはありますか。

芦田:
学生時代はテニスに熱中していました。最近のマイブームは「食べログ 百名店」に選ばれたお店を巡ること。都内の喫茶店はほぼ制覇しました。私はコーヒーは飲めないので、味は妻頼りです(笑)。純喫茶のゆったりした雰囲気が好きで、ついつい長居してしまいます。家では飼っている猫とたわむれる時間が癒しですね。

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