INTERVIEW

研究者インタビュー

2023.02.06 
研究者インタビュー 
Vol.45

コニカミノルタの画像技術で口臭の原因特定を簡略化 産学連携でオーラルケアを身近な存在に

第2期プロモーター教員

新型コロナウイルスの感染拡大でマスク着用が日常的になり、オーラルケア(口腔衛生)の関心が高まるとともに口臭に悩む人も増加しました。口臭専門外科の医師として治療にあたる財津崇先生に、口臭の原因や企業との共同研究で実現したいことをお聞きしました。

プロフィール
医歯学総合研究科
健康推進歯学分野
助教
財津崇先生

研究について

先生の研究について教えて下さい。

財津:
歯学部の健康推進歯学分野に所属し、研究をしながら口臭専門外来の医師をしています。外来の名称は「息さわやか外来」。口臭に悩む人を減らすことが目的です。口臭病はWHO(世界保健機関)のような国際機関や国に認められた疾病ではありません。そのため、日本国内の公的な医療保険が適用されない自由診療で治療を行うことになります。

口臭のほとんどは口の中に問題があり、歯周病が深く関係しています。歯周病は口の中にある「嫌気性菌」が歯ぐきの境目(歯周ポケット)で繁殖し、食べかすなどを分解して揮発性硫黄化合物(VSC)という物質を発生させます。揮発性硫黄化合物は、たまごが腐ったような臭いの「硫化水素」、玉ねぎが腐ったような臭いの「メチルメルカプタン」、生ゴミのような臭いの「ジメチルサルファイド」の主に3種類の口臭原因物質に分類されます。その他、腎疾患や便秘の人はアンモニア臭、糖尿病の人はアセトン臭を口の中から出すことがあります。

口臭病の治療は口臭に悩んでいる人だけをターゲットにしているわけではありません。明らかに口臭が認められる「真性口臭症(生理的口臭、病的口臭)」に加えて、社会的容認限度を超える口臭がないのに口臭が気になってしまう「仮性口臭症」、実際に口臭がないのに他人の「顔をそむける」などの行為に対して「自分の口が臭い」とトラウマになってしまう「口臭恐怖症」があります。いずれの場合も口臭に関する治療が必要という観点から、口臭症と呼んでいます。私たちは口臭のメカニズムや治療内容を発信して知ってもらう活動をしつつ、口臭がある人は原因を特定して口の中をきれいにする、口臭がない人には客観的な事実を元に心理的な不安を取り除く治療を行っています。

診療を訪れる患者さんのうち深刻な人はどれくらいの割合ですか。

財津:
本学を訪れる患者さんのうち、1割程度ですね。私たちは朝食を食べるか、歯磨きをするかなど起床直後の条件を元に口腔内の状況を調べています。口臭が一番出やすい状態を測定した際に、明らかに揮発性硫黄化合物のいずれかの値が異常値を示すことがあります。口臭の測定には歯周病菌が出す特定のガスの量(濃度)を測る装置「ガスクロマトグラフィー」を使います。日本の口臭治療や研究はカナダのブリティッシュコロンビア大学の方式を取り入れている研究者も多く、本学も採用しています。血液を採血して病気を調べるのではなく、あくまで特定のガスを数値化して客観的に調べます。
私たちの検査では口臭の原因が歯の病気なのか体内の病気なのかを判別することはかなり難しいです。歯や口の中の状態は評価できますが、歯では解決できない口臭トラブルは別の診療科を紹介します。あくまで生理的な口臭、本人がケアできていない口のトラブルに対応しています。

最近では「口臭の専門外来がある!」と本学のウェブサイトを見て診察に来る患者さんが増えました。テレビや雑誌などで紹介して頂いたおかげで認知度も少しずつ上がっていますが、まだこれからだと感じています。口臭に悩んでいる人にアプローチをしたり、社会的な認知を向上する活動は重要なので今後も積極的に取り組んでいきたいですね。

産学連携について

産学連携で企業と共同研究をしたことはございますか。

財津:
歯ブラシや液体ハミガキなどオーラルケア商品を販売する企業との共同研究はあります。口臭の原因となる揮発性硫黄化合物を抑制するうがい薬の効果を検証して、論文にしました。持ち運びが可能な小型で精度の高いガスクロマトグラフィーの機器開発も行っており、企業と実用化が可能か検証している段階です。現在販売されている小型の口臭測定器は精度が低い印象があり、ガスクロマトグラフィーによる気体の分析手法が一番信頼できると考えています。また、口臭のガスを簡単に輸送する方法も企業と一緒に調査しています。人間の息は袋に入れても水蒸気などと混じると成分が消えてしまいます。臭いの元となるガスだけを抽出し搬送する方法が実現できないか議論を重ねているところです。タニタさんも息を吹きかけるだけで簡単に口臭がチェックできるブレスチェッカーを販売しているので、もしそういった企業ともタッグが組めれば面白いですね。

先生は画像診断にも取り組まれているとお聞きしました。

財津:
コニカミノルタさんの技術を導入した舌の画像診断になります。口臭の原因の約6割は舌についた汚れである「舌苔(ぜったい)」が問題です。通常は唾液が口の中を洗い流して垢などが滞留しないのですが、加齢によって唾液の量が減ったり口呼吸が多い人は白っぽい舌苔が舌に残り口臭の原因となるガスが発生します。舌の色を画像で診断し、ピンク色なのか、舌苔が付着している可能性が高い白色や黄色なのかを調べます。

プロモーター教員について

どのような経緯でプロモーター教員になられたのでしょうか。

財津:
相田潤教授から声がかかりました。私が口臭の研究に興味があり、力を入れていることをご存知で背中を押して頂きました。口臭の悩みは周囲に相談できない人も多く、治療のためにわざわざ新幹線でお越しになる患者さんや原因が分かった瞬間に泣いて喜ぶ人もいます。スマートフォンのようなデバイスを使って簡単に診断ができたり、治療がもっと身近になる社会を実現していきたいですね。

オープンイノベーション機構とはどういった連携をしていく予定ですか。

財津:
本学が持つ口臭のデータを企業や他機関の研究者に活用してもらえるようにしていきたいです。本学はガスクロマトグラフィーやガスセンサー口臭測定器など口臭を正確に測定できる機器が充実しており、多角的な視点から研究を進められるのが強みです。「検査に協力して欲しい」と企業からお声がけ頂いたこともあります。口臭専門外来に来られる患者数が多いことも大切なポイントです。口臭は歯科疾患の中で虫歯、歯周病に次ぐ病気なので他大学や医療機関で口臭の研究がより盛んになったら嬉しいですね。今後は特許取得に向けた動きや研究に興味を持って下さる企業探しで協力していきたいです。オープンイノベーション機構の方々に画像診断システムの特許について相談したこともあります。画像で舌苔を調べる技術のみでは特許出願は難しいなどアドバイスがもらえたのは助かりました。歯周病や舌苔の付着状況、唾液量による口臭の変化などのデータは学内に蓄積されているので、情報が必要な企業の方々に付加価値をつけて提供しながら連携をしていきたいですね。

今後期待する産学連携の共同研究先はございますか。

財津:
アカデミアでは、画像解析や画像診断のソフトウェア開発チーム、機械工学分野の研究チームに力をお借りしたいですね。企業では、硫黄を分解し口臭を抑制するうがい薬の開発で製薬会社や食品会社に現場の声をお聞きしてみたいです。手っ取り早く口臭を改善するマウスピースなども企業と共に開発していきたいですね。

最後に

先生が休日されていることやご趣味を教えて下さい。

財津:
国内旅行です。6才になる子どもと動物園や博物館を見学したり、アスレチックがある公園で遊ぶ時間は気分転換になっています。ようやく新型コロナウイルスの感染者数も落ち着き、全国旅行支援などで旅行も行きやすくなりました。温泉旅行が好きで、伊豆半島の修善寺にある文化人の愛した温泉街はおすすめです。近々ハウステンボスへ訪れる計画を立てています。来年は家族旅行に5回以上行くことが密かな目標ですね。

家族と訪れた旅行先での記念写真

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