INTERVIEW

研究者インタビュー

2023.01.25 
研究者インタビュー 
Vol.44

メーカーと共同で顕微鏡を開発 酸化ストレスによるタンパク質の変化を網羅的に解析

第2期プロモーター教員

私たちが生きていく上で必要な酸素は体内で過剰に活性化するとタンパク質に影響を与え、老化、がんを促進する原因になると言われています。ヒトタンパク質の細胞を研究する松島隆英先生にタンパク質のメカニズムや産学連携の目標をお聞きしました。

プロフィール
医歯学総合研究科
システム発生・再生医学分野
助教
松島隆英先生

研究について

先生の研究について教えて下さい。

松島:
2012年から東京医科歯科大学で細胞生物学を専門に研究をしています。研究室では遺伝子発現プログラムの解析やデータベースの構築、ゲノム編集技術の新しい研究手法の開発に携わっています。メインの研究は人間の身体を構成するタンパク質にストレスを与えた場合に細胞内部で起きる局在変化の解析と、そのデータベース化です。目標は人間の運動機能を強化する創薬の開発です。年齢を重ねると活性酸素が増えて細胞全体が老化します。活性酸素は、吸い込んだ酸素の一部が通常よりも活性化した状態を言い、高齢になると活性酸素が増えて臓器や細胞にダメージを与える酸化ストレスという現象を引き起こします。この状態で細胞がシグナルを受けると、細胞はそのまま死ぬか、若返ろうとするか、がん細胞に変質するのですが、具体的にどのような動きをするのか不明です。加えて、酸化ストレスの影響で細胞分裂に異常が生じることが分かっています。通常は両親のDNAが綺麗にセパレートした細胞の配列が作られるのですが、変異が起きると自己保存本能が働き、DANの配列が変化してがんになると考えられています。

顕微鏡ではどのような構造を観察していますか。

松島:
細胞内部で分化した形態や機能を持つオルガネラ(細胞小器官)を蛍光顕微鏡で観察しています。蛍光色素を用いた分子検出技術と画像解析技術の組み合わせのおかげで電子顕微鏡で観察する一歩手前の詳細な状態を調べることができます。本学では遺伝子に蛍光タンパク質を付加したセットを大量に保有しており、それらを用いて中心体を光らせて検証しています。

タンパク質は「ここに行きたい」というアミノ酸配列の信号に従って集まる面白い習性があり、それによって局在化します。また、タンパク質は局在化して機能を発揮する性質もあるためオルガネラに集積するんですね。また、タンパク質は場所を移動することで持っている機能が変わる場合もあります。このプロジェクトを立ち上げて10年経っていますが、まだまだ調べることばかりです。
このプロジェクトを立ち上げて10年経っていますが、まだまだ調べることばかりです。

産学連携について

産学連携の研究でデータベースを作っていらっしゃるそうですね。

松島:
酸化ストレスを与えたタンパク質の局在がどのように変わるのかを調べて、誰でも分かるようにデータベース化しています。最近のアカデミアは情報をなるべく共有する動きがあるので、研究者同志の情報交換や仲間集めに活用して欲しいですね。局在をまとめたデータベースはすでにありますが、私たちはかなりニッチだからこそ革新性があると思います。データベースの管理はウェブ管理会社さんに委託しています。データベースの内容に興味を持って下さった企業もありますが、創薬に向けた研究を開始するまでには至っていません。論文を発表した後にデータベースを一般公開する予定です。これからも細胞の活性度や正常性のメカニズムを網羅的に調べていきたいですね。

顕微鏡ではどのような企業と連携がありますか。

松島:
複数の企業と連携をしています。顕微鏡はまだまだイノベーションを起こせる分野なのでメーカーの担当者さんとコミュニケーションをしながら最新技術の動向を探っています。研究者側には細胞になるべくダメージを与えず観察をしたいなど細かい要望があるので、メーカーに助言することもあります。私たちの研究で使うスクリーニング用の顕微鏡はあるメーカーと相談して作成していただいた特注品です。何度も打ち合わせをして妥協点、譲れない点を議論しながら作りました。顕微鏡を使いながら試薬を交換できる機器なのでかなり珍しいです。スクリーニング用の顕微鏡は各社出していますが、研究者のニーズを全て満たした物はなかなか見つかりませんね。

タンパク質性Damage-associated molecule patterns(DAMPs)の分泌機構解析も行われていると聞きました。

松島:
DAMPsは細胞がダメージを受けたときに細胞の中にあったものが外に出てくるタンパク質を調べるプロジェクトです。細胞をつくり出す機能を持つデオキシリボ核酸(DNA) とリボ核酸(RNA)は本来細胞の中にありますが、細胞が壊れると外に出て周りの細胞にダメージを与える因子に切り替わります。細胞にダメージを与えたタンパク質を回収して炎症を起こした原因を探ったり、他に似た性質を持つタンパク質がないかスクリーニングしています。検体・検査分野に強みを持つ医療機器メーカーに相談をして、病気の原因となるマーカーを一緒に探しています。マーカーを解明し、分泌を抑える薬が完成すれば炎症疾患などの治療に活かされます。

企業とはどのような関係を築いて共同研究を行っていますか。

松島:
お世話になった企業から声がかかり、セミナー登壇者として研究結果を説明する機会を頂いたことがあります。産学連携だと仰々しくなることもありますが、オフィスに出向いて情報交換会に参加することもありました。私は研究内容を広めた方が成果につながると信じているので、企業にもアカデミアに対しても情報発信をする活動に積極的ですし、ご縁を大事にしています。データベースが完成したらどんどん発信しようと決めています。利益ばかり考えずに柔軟なコミュニケーションを大切にすることで、企業から新しい情報が早く入ってくるメリットを享受しています。
情報収集で一番良かったことは、研究用試薬の製造・販売をしているメーカー主催のセミナーで、アミノ酸配列のタグが光る話を聞いた時にひらめきました。それは、蛍光タンパク質の1/50ほどの小ささなんですが実用性もあり「これは研究で使える」と閃きました。偶然の出合いでしたが、企業のセミナーに出ることも大切だと考えさせられました。

プロモーターとしての取り組み

イノベーションプロモーター教員になった理由を教えて下さい。

松島:
医局の淺原弘嗣教授からの提案でした。私は薬学部出身なので創薬につながる研究をしていきたいと思い、引き受けました。創薬に向けた新しいシーズの開発や最終製品化まで手伝って下さる企業を探しています。

イノベーションプロモーター教員になってみていかがですか。

松島:
今まではアカデミックな研究ばかりやっていたので、プロモーター教員として企業と一緒に社会貢献できる研究をしていきたいです。現在の研究もゴールに向かって頑張りつつ、新しい研究を一緒にできる企業を見つけていきたいですね。

オープンイノベーション機構とはどのようにお付き合いされていますか。

松島:
以前、新しい技術を取り入れた顕微鏡を開発した中小企業を紹介してもらいました。自分ではなかなか見つけられない企業なので驚きました。情報収集は時間と労力がかかるのでいつも苦労しています。溢れた情報の中から研究に必要な情報を見つけるのも大変です。視野を狭くしないように、新しい領域の情報をオープンイノベーション機構のスタッフと一緒に探していきたいです。また、夏から秋口は研究費の申請、人事評価、学生の発表サポートなどで多忙を極めます。研究室の年間スケジュールを共有してサポートしてもらえる体制づくりを築けたら良いですね。

最後に

先生の休日の過ごし方を教えて下さい。

松島:
子ども達が小学生と幼稚園になり自分で遊べるようになったので、今年からジョギングを再開しました。運動不足の身体に鞭打って1時間ほど走っています。父親もジョギングが好きで一緒に走る習慣があったので、子どもと一緒に走れる日が待ち遠しいですね。

愛用しているジョギンググッズ

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