INTERVIEW

研究者インタビュー

2022.09.25 
研究者インタビュー 
Vol.33

在宅医療・看護における看取り支援にデジタル活用を推進 AI・IT分野との連携に期待

第2期プロモーター教員

日本では高齢化が進み、病院中心から在宅や施設での医療へ拡大していますが、問題も山積しています。在宅ケアや訪問看護の研究をしている野口麻衣子先生に訪問看護の問題点と産学連携で解決していきたいことについてお話をお聞きしました。

プロフィール
保健衛生学研究科
臨床看護開発学
准教授
野口麻衣子先生

研究について

先生の研究内容を教えて下さい。

野口:
在宅ケア、訪問看護など在宅医療を支援する研究をしています。この分野に関心を持ったきっかけは、私が中学生の時に祖父が肺がんで亡くなったことでした。祖父は病院が嫌いな人で入院したくないとずっと言い張っていました。でも、呼吸が苦しくて自分自身ではどうにもならないと諦め、当時流行り始めた緩和ケア病棟への入院待ちのため、緩和ケア病棟が近くにある私たちの家で一緒に住むことになりました。痛みを上手くマネジメントできず、本人も家族も苦しむ中で数週間の待機を経て、ようやく緩和ケア病棟に入れたんです。祖父や家族が大変だった時期の様子は私の中でかなり印象深く、今でも研究のモチベーションとなっています。

在宅医療は幅広い領域ですが、どのようなことを研究しているのですか。

野口:
今までやってきたこと、これから始めることの2つがあります。今までやってきたことは「訪問看護師」の研究です。住み慣れた環境で療養を行なう在宅医療は、患者の自宅で医療や看護ケアを提供します。しかし、医療に関わる看護師の離職率が非常に高く社会問題になっています。看護協会がデータを発表しているのですが、看護職として働いている人数は168万人。うち訪問看護を専門にして働いている看護職は5%ほどの6万人しかいません。今後の需給の推定としては、現状の約5倍もの訪問看護師が必要とも言われています。現場はかなり疲弊している状況ですので、環境を改善できるように、訪問看護師の離職防止の研究を続け在宅医療を支える人を増やす貢献ができればと考えています。
もう1つは2021年から開始した研究で、有料老人ホーム入居者の状態悪化の予測や入居者の方の状態安定のために必要なケア介入を明らかにすることを目指した研究をしています。

看護の業務は重労働だと思います。離職の問題点は、どのようなことが考えられますか。

野口:
訪問看護ステーションは規模がとても小さいことがほとんどです。1つの事業所で5人程度の看護師が月100人の利用者の自宅を訪問するので、同僚の看護師とも顔を合わせないケースが多い。他業種の職場と比べて事業所内部のコミュニケーション量が圧倒的に少ないことが辞める原因ではないかと研究結果が示しています。
訪問看護師も患者や家族を目の前にして、上手くいくことばかりではありません。失敗や悩みをきちんと解決できているか、できていないかは大きなポイントですね。最近ではコミュニケーションの重要性について論文にまとめて発表もしました。

離職防止のためにツールなどは利用されますか。

野口:
コミュニケーションを円滑に行うため、最新のツールは欠かせません。オンラインチャットなどICTのツールを活用して気軽に相談できるようになれば離職率は下がるはずです。訪問看護ステーションで働く看護師の中には長年勤務した病院を退職した後に就職される方もいます。デジタルに慣れていない方もいるのでタブレット端末やチャットツールなどの障壁は少なからずあります。コロナ禍でオンラインツールの便利さを身に染みて感じましたが、お互い面と向かってのコミュニケーションも大事ですよね。両方を上手く活用、増やす取り組みを提供できるようにしたいですね。

有料老人ホームの看取り、在宅医療の難しさはどこにありますか。

野口:
有料老人ホームの看取りケアでは、患者本人が苦痛なく過ごして最後を迎えるためにどんなケアをしていけば良いのかをこれから調査していきます。今やっている研究は「家に戻る」という選択肢は大きく取り上げてはいないのですが、在宅医療での看取りを実現するために一番大事なのは「家族が自宅で看取る」覚悟を持っていること。患者本人の意思を尊重することも大切ですが、事情も違うので大きな要因にはなっていない可能性が高いです。
また、看護師の立場から言えば、医療部門の方々や看護師が家族としっかり話をしたかも気になるポイントです。重要な意思決定に関わることなので、話し合う場作りも必要です。在宅療養を支える訪問看護師は看取りのスペシャリストではなく、あくまでジェネラリスト。「在宅ケア」「訪問看護」に大切な情報をきちんと学ぶ環境も整えていかなければいけません。

産学連携について

先生は今まで産学連携ではどのような研究をされましたか。

野口:
訪問看護の記録システムを作っている企業との産学連携では、記録した情報から看護ケアの質を評価しました。患者に対して適切なケアができているのかを自動的にフィードバックできるシステムに着手したところで異動してしまったので完成版を見られなかったのはとても残念でした。 医学や歯学の先生は外来を持つ体制が整っていますが、看護系の研究者は臨床現場を持てないケースが多いです。なので、現場の感覚は大事にしたいなといつも思っています。

産学連携でこれからやってみたいことはありますか。

野口:
共同研究では、訪問看護師がウェブサイトで困っている内容を入力したら、専門性を備えた看護師と繋がって直接コンサルティングや相談を受けられる仕組みを作ろうとしています。既存のソフトウェアをアレンジして進める予定です。看護師はパソコンの前に座っている時間も短いので、使いやすさを重視したユーザーインターフェースにもこだわっていきたいですね。既存の掲示板やソフトウェアもあるにはあるのですが、専門的な情報も少なくあまり機能していない印象です。

産学連携を上手く進めるコツはありますか。

野口:
オープンイノベーション機構(OI機構)の力は大きいです。話がこじれそうになった時に間に入って下さったり、交通整理をして頂けるので大変助かっています。OI機構をどんどん活用していくことで産学連携の助けになると思います。
企業と私達研究者側で同じゴールを目指しているにも関わらず、意見が食い違うこともあったので、第三者のフォローは貴重でした。私は民間企業で働いた経験があるからか、企業の考え方や制度について、なんとなくイメージしやすいのかもしれません。企業から共同研究の問い合わせが来たときは、私とは違う分野の先生に声をかけています。マッチングの場では色んな角度から話ができたほうが盛り上がりますね。

プロモーターとしての取り組み

イノベーションプロモーター教員になったきっかけを教えて下さい。

野口:
以前の共同研究でお世話になった産学連携部門の先生が推薦してくださったようです。2021年までは看護の先生がイノベーションプロモーター教員にいなかったので、看護の現場のニーズや困りごとがあれば積極的にサポートしていきたいですね。自分の知見を活かしながら、素晴らしい経験をされている方を上手く引き合わせる役割も担えたらと思います。

分野や研究室同士での情報交流はありますか。

野口:
本学に来てまだ間もないですが、自身の学部時代に教鞭をとっていた先生もいます。学内同士の情報交換会やイノベーションプロモーター教員の交流会に参加し、コミュニケーションを積極的に取っていきたいです。分野内にとどまらず、異分野との交流や融合にこそ、イノベーションの種があると思っています。

在宅医療は、日々の業務に追われて口腔内の衛生が行き届いていないことも多いです。口腔内の衛生や細菌の集団である細菌叢は健康に影響を与えるという研究結果も出ています。本学の歯科の先生方と一緒に研究が出来たら嬉しいですね。

在宅医療を良くしていくにはもっと人が必要です。仲間作りにも時間を使っていきたいですね。今、関心があるのが「ナースコール」。患者と看護師をつなぐナースコールは、データの宝庫だと思っています。話した内容、いつ、誰がやり取りしたという記録も重要ですが大切なのは会話の内容です。実際に話した内容をテキスト化して自然言語処理することで、患者の状態変化予測に活用できないかと考えています。患者さん、そのご家族と看護師のコミュニケーションがもっと円滑になるツールの一つになれば良いですね。

最後に

最後に、先生のご趣味について教えて下さい。

野口:
今は子育て奮闘中で、子どもと遊ぶことが趣味です。小学生の息子が2人いますが、休みの日には公園に行ったりしています。
個人的には身体を動かすことが好きなので、ランニングやスイミングをしています。ランニングは休みの日に5〜10 km走るだけで気分がすっきりしますね。コロナ禍になるまでは出勤前に泳いでリフレッシュして仕事をしていた時期もありました。
最近はヨガに週に1回通い始めました。まだ3ヶ月ですが、脳が休まる感じがして日々のストレスもなくなるのでオススメです。体の力がストンと落ちる感じですね。思い立ったら何でもすぐにやってみるタイプなので、長く続けられると良いなと思っています。

いつもランニングしている公園

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