INTERVIEW

研究者インタビュー

2022.08.29 
研究者インタビュー 
Vol.31

データサイエンスで口腔がんの新たな放射線治療を模索

第2期プロモーター教員

口腔がんの放射線研究とともに新たな放射線治療法や抵抗性機構の解明を目指す戒田篤志先生のインタビュー。口にできるがんの特徴や放射線治療を研究対象に選んだ理由、イノベーションプロモーター教員としての目標についてお話をうかがいました。

プロフィール
医歯学総合研究科
歯科放射線診断・治療学分野
助教
戒田篤志先生

研究について

先生の研究について教えて下さい。

戒田:
私は、東京医科歯科大学大学院で歯科放射線診断・治療学分野に所属している現役の歯科医師です。父が歯科医師だったので、先生や患者さんと接する機会も多く、自然と歯学部の道を選びました。
現在は、口腔がんに対する放射線治療の研究を行っています。学生の時に入れ歯を作ったり、虫歯を治す実習をしたりするよりも、研究している時間の方が肌に合っているな、やりがいがあるなと感じて研究の道を進むことにしました。

口腔がんとはどんな疾患ですか。

戒田:
日本人の2人に1人ががんに罹患し、3〜4人に1人ががんによって亡くなります。肺がん、大腸がん、乳がんなどはよく耳にすると思いますが、口腔がんの認知度は高くはなく、一般的に知られていないのが現状です。口腔がんの新規罹患者数は年間8000人程度で、他のがんは数万人規模。圧倒的に数が少ないので研究者も少ないのですが、患者数は年々増え続けているため危機感はありますね。口腔がんは自覚症状がほとんどなく、食べ物や飲み物がしみる、口内炎が治りづらいなどの症状に気付いた時にはがんがすでに進行している場合もあります。
歯磨きの際などで日常的に気にしていれば早期に発見することは可能ですが、大概は口内炎で済まされてしまうので口腔がんは隠れた病気とも言えますね。歯科医師でも口腔がんに特化した治療にあたらなければ、口腔がん患者には一生のうちに一度出会うかどうかです。

口腔がんの研究で面白いと思う点を教えて下さい。

戒田:
口腔がんも他のがん同様に完治させることが難しい病気です。だからこそ解明してみたいという興味がありますね。 私たちの研究で少しでも改善できるようになれば研究者として本望です。日本では外科的な手法でがんを取り除く治療法が主流です。効果的な方法ではありますが、食べたり喋ったりと様々な機能を司る口内の組織を、簡単に切除することに私は大きな抵抗がありました。切らずに治せる方法があったら良いのに、と思っていた時期に、幸いにも口腔がんを放射線で治療する授業を受けたんです。難しい授業だったので学生の私は内容を理解することに苦労しましたが「絶対に自分の知識にするんだ」と逆に闘志に火がつき、「切らずに治す方法」を専門にすることを決意しました。

放射線で口腔がんを治療するメリットについて、詳しく教えて下さい。

戒田:
放射線治療は外科に比べて患部の見た目や機能の温存が可能な治療法だと思います。外科手術も最近では、腫瘍をとった後に別の部分から皮膚や筋肉を持ってきて切除し、失われた機能や整容を回復させたり、温存させたりするようになってきていますが、切除した部分の皮膚に跡が残ってしまう可能性があります。放射線には様々な使い方があって、健康診断や人間ドックで馴染みのあるX線を使用したレントゲン、CTなどが有名ですね。放射線治療では、X線による治療が一般的ですが、最近では重粒子線や陽子線、中性子線も応用され、口腔がんに対する放射線治療の幅も広がってきていると思います。

具体的にどのような治療の研究を進めているのですか。

戒田:
一般的に放射線治療は大きな機械で患部に身体の外から放射線を照射しますが、我々が研究している小線源治療は、放射線の出る金属を病気内部に埋め込み、中から放射線を当てていく治療になります。マイナーではありますが、早期の口腔がんの治療法として非常に効果的であることが分かっています。
この治療法の良い点は、中から放射線を当てることで局所に集中的な照射ができることです。外から広範囲に放射線を照射すると副作用も広範囲に生じる可能性がありますが、小線源治療では病気の部分を直接叩くため効果も高いですし、副作用も狭い範囲で済みます。
口腔がんでは主に金粒子とイリジウム線源を使った治療が行われています。金粒子は金の粒で、米粒よりも小さく3mm程度です。一方イリジウムはワイヤーのような形状で患部に長い針を埋め込む形になります。放射線の出るものを体内に埋め込むため、周囲への被曝を避けるため約1週間の入院が必要となります。中でも金粒子は非常に小さいので、患者が違和感なく、入院中もほぼ普段通りの生活を送ることが可能です。

研究で苦労されていることはありますか。

戒田:
研究者の数が少ないことです。歯学部学生の中でも放射線に興味を持つ人がかなり少ないことは問題だなと感じています。ましてや歯学部に放射線治療を学ぶ分野があることに気づいている人も少ないかもしれません。新しいプロジェクトを思いついても、人手不足で始められないことが悲しいですね。
私の所属している歯科放射線診断・治療学分野は、最近、診断部門と統合し、診断と治療の2つの部門に特化した臨床分野となりました。統合したことをきっかけに、今後はより若い人たちに向けて情報を発信していく必要がありますね。

産学連携について

先生は産学連携の経験はございますか。

戒田:
国立がん研究センター東病院との共同研究で口腔がん小線源治療患者の唾液内の細菌叢を調べ、放射線治療抵抗性と細菌叢の関連を研究しています。ですが、産学連携の経験はまだありません。私達から企業に、共同研究のアプローチをしたことはありますが、お互いのニーズが合致せずスタートできませんでした。口腔がん小線源治療は臨床や実験をしている病院や施設の数も少ないので、まず興味を持ってもらうことから始めないといけませんね。また、基礎実験では口腔がん細胞を用いた研究も進めており、AI(人工知能)やディープラーニング(深層学習)で放射線が効きにくいがん細胞特有の動きを見つけたり、データサイエンスを専門にしている先生や企業と一緒に何かできないかなと考えています。

産学連携ではどのような企業と一緒に共同研究を進めたいですか。

戒田:
口腔がん治療の選択肢の1つに「放射線」がもっとカジュアルに選ばれるように研究していきたいですね。放射線が効きにくいがんをより効果的に治療する研究を支えて下さる企業が見つかると良いですね。プロモーター教員就任のお話を頂くまでは「企業と一緒に社会貢献できれば…」くらいに思っていましたが、もっと具体的に考えていきたいと思います。

プロモーターとしての取り組み

イノベーションプロモーター教員になった理由を教えて下さい。

戒田:
教授からお声がけ頂いてイノベーションプロモーター教員をやることに決めました。キックオフのシンポジウムでは色んな方からお話を聞いて、共同研究の内容や企業へのアプローチ方法を学ぶ非常に良い機会となりました。今後は企業の方ともお会いして様々なニーズにこたえることが楽しみです。自分の研究をアピールする場所も積極的に見つけていきたいですね。

企業、アカデミアとの共同研究はどのように進めていきますか。

戒田:
大学内の学会などで直接お会いしてお話する機会がありますが、これからもコミュニケーションをこちらから積極的に仕掛けていきたいと思います。オープンイノベーション機構と交流がある企業は研究開発に前向きなはずなので、新境地を開拓できるように頑張っていきたいですね。口腔関連の商品開発に注力している企業以外にも様々な分野の企業と繋がって、予想もつかない産学連携をしても面白いかもしれません。口腔がんの小線源治療をやっているところは日本で5本の指で数えられるぐらいです。戦前からある治療法なので長い歴史はありますが、衰退産業のようなイメージを持たれる方もいるので企業も巻き込んでもっと盛り上げていきたいですね。

最後に

最後に、先生のプライベートのお話もお聞きしたいです。ご趣味について教えてください。

戒田:
プライベートでは、3人の子供たちと一緒に遊ぶ時間を大切にしています。また、サッカー観戦が好きで、週末は動画配信サービスのDAZNなどのライブ中継でJリーグの試合をみて息抜きをしています。出身は茨城県ですが、物心ついた時から横浜F・マリノスの大ファンです。弟は地元の鹿島アントラーズが好きなので直接対決の時はお互い譲りません(笑)。
子供たちはスポーツ観戦に興味が無いようですが、時々でよいので一緒に試合観戦ができたら嬉しいですね。

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