INTERVIEW

研究者インタビュー

2021.07.09 
研究者インタビュー 
Vol.26

皮膚再生医療に光明 AI技術で品質保証を自動化し産業化にも期待

第一期プロモーター教員

再生医療の中でも大きな期待が集まる皮膚再生医療。今まで明確な基準が無かった培養幹細胞や幹細胞由来製品の品質管理法を新たに開発した難波大輔先生に、今後の展望についてうかがいました。

プロフィール
難治疾患研究所
幹細胞医学分野
准教授
難波大輔先生

研究について

先生の研究内容についてお聞かせ下さい。

難波:
大学・大学院では生物学を学び、今は東京医科歯科大学難治疾患研究所の幹細胞医学分野に所属しています。大学院時代に皮膚の発生学を研究して以来、ずっと「皮膚」の研究に携わっています。スイスにいる著名な先生の元で皮膚の幹細胞を研究したいと思い立ち、4年ほど留学した経験もあります。留学から日本に戻ってきて、改めて皮膚の基礎研究をベースにしたいと研究を進めていたところ、AI(人工知能)技術を活用した自動細胞追跡システム「DeepACT(ディープアクト)」の開発に成功しました。

幹細胞培養によって表皮のシートを作製するプロセスは職人芸のような世界です。技術力があり経験豊富な細胞培養技術者が行う分には問題ありませんが、この再生医療の普及とともにニーズが増えて人手が不足し、技術レベルが異なる人が混在する中で作業を行うには、ミスやトラブルを防ぐためにOKとNGの基準を明文化しなければいけません。
私達が開発した「DeepACT」は、今までは目視で行っていた培養幹細胞の品質管理を、深層学習を利用した自動画像認識と細胞追跡アルゴリズムを組み合わせることで、完全に自動化したシステムです。このシステムがあれば、一般的な顕微鏡で撮影した培養画像を解析し、得られる細胞の運動パターンから、培養の良し悪しを判断できます。高額な装置は一切必要ありません。
沢山の細胞を自動追跡できるように企業や他の研究室の教授に相談をし、最後にようやく巡り会った方が医療画像解析のスペシャリストである帝京大学の古徳純一教授でした。もともと宇宙物理学を専攻されており、数学や物理学に造詣が深い古徳教授の協力があって、「DeepACT」を生み出すことができました。

品質が分かるとどのような良い影響がありますか。

難波:
重度熱傷になると移植のために大量の表皮シートが必要になります。しかし、場合によっては培養を沢山行うと失敗するケースも出てきます。早い段階でダメなものを除外できれば無駄なく済みますし、もともと培養した表皮シートはコストがとてもかかるので費用も抑えられます。初期段階で採取した患者さんの皮膚が培養に適していないと分かれば、再度採取するなど最終的な失敗を防ぐことができます。

「DeepACT」の活用の可能性について教えてください。

難波:
活用範囲を臨床現場まで広げると大変なので、現時点では製造での出荷基準がメインターゲットです。培養幹細胞の良し悪しを見分ける判断基準として、培養幹細胞を用いた再生医療製品の大量生産現場における品質管理法として我々のシステムを発展させていきたいです。 今はまだ100個、200個ほどの小さな細胞集団しか解析できていませんが、より多くの細胞を解析できるように挑戦していきます。

開発した技術で特に知ってもらいたいのはどのようなことですか。

難波:
「細胞の動き」で手軽に幹細胞の状態を評価できる技術が今はありません。タンパク質や核酸などの生体分子の量で幹細胞を評価する方法はありますが、単純に「細胞の動き」で評価可能なのは非常に面白いポイントです。「DeepACT」は、深層学習だけでなく、培養中の細胞を追跡するために工夫されたアルゴリズムが使われています。組織から細胞を採取して培養する場合は、組織の残骸などが入り込み細胞がうまく連続的に見えないことも多く、通常のアルゴリズムでは追跡が止まってしまいます。しかし、今回使っているアルゴリズムだと問題なく追跡することが可能です。

「DeepACT」を完成させるまでに、どのような苦労があったのでしょうか。

難波:
「DeepACT」はプロトタイプとして1〜2年、発表までに5年かかりました。技術開発の部分は古徳先生に負うところが多かったのですが、論文にして世に出すのは私が担当していたので、論文を執筆する際に自分の専門分野以外の知識も必要となり、そこで苦労しました。それと、以前は根性で細胞の追跡を目視でおこなっていたのですが、体力的にも精神的にもキツイなと感じていたことから自動化しようと思い立ちました。もっと自動化に早く取り組んでおけば、研究効率がもっと上がっただろうと反省しています。
AIによる機械学習の向上で、病院や研究室にある普通の顕微鏡でも実現できました。なるべく多くの人に利用してもらえるようになるべくお金をかけないことを目標としていたのでAI技術の進歩、発展に助けられています。

今後はどのような展開を考えられていますか。

難波:
今は表皮の細胞のみですが、同じような上皮細胞やiPS細胞にも応用していきたいです。

産学連携について

先生が産学連携で面白いと思ったご経験について教えてください。

難波:
化粧品会社の方と学会でお会いし、商品開発に結びつくような産学連携をやったことがあります。実際に商品が世の中に流通する流れを目の当たりにできたのはなかなか面白い経験でした。化粧品会社さんと私達の研究の評価系は基本的に同じです。幹細胞のロジックを人の皮膚に当てはめて、予測される現象をお互いに共有し合い商品開発に活かしてもらうこともありました。

プロモーターとしての取り組み

プロモーターとして、先生が意見交換したいテーマはありますか。

難波:
次に研究したいテーマは「潰瘍」です。昨今、糖尿病の患者さんが増えていて傷が治りにくい、最悪の場合は足を切断することも高い確率で発生しています。私の専門とする観点から現時点での医療とは別のアプローチで皮膚の潰瘍をどうやって無くしていけるか調べたり、アイデアを出し合いたいですね。潰瘍を予防するにしても治療するにしても、生物学出身の者が参画することでイノベーションを生み出す一助になれると思います。

オープンイノベーション機構に期待することや要望はありますか。

難波:
企業と研究者を集めて大きなプロジェクトに取り組み、問題解決まで実現できるための旗振り役になって欲しいです。非常に大きな枠組みで取り組めると面白いですし、オープンイノベーション機構だからこそできることかなと思います。個人的には、人間特性を考慮した医療を実現するため生体計測が得意な企業や研究室と組みたいです。細胞だけではなく生体計測して物理的なパラメーターを取得し、実際の状態を考察することには非常に興味があります。パラメーターの違いによる皮膚の状態変化は調べてみたいですね。こういった枠組みに興味がある人が集まれる機会やイベントがあれば、むやみに自分でアプローチするよりも効率的になるでしょう。

学内であれば、どういう学部にアプローチをしたいですか。

難波:
臨床や生体材料工学先生と組んでいきたいです。個人的なつながりに頼ると、他大学の先生との連携になってしまいがちです。大学内にある研究室のマッチングはどこの大学でも成功事例が少ないので、上手くコミュニケーションが取れるような仕組みができたら嬉しいですね。

先生が組みたいパートナーのイメージはどのようなところでしょうか。

難波:
自分自身は幹細胞という素材があるので、それを料理するために分析や計測が得意な企業さんや研究室に協力をお願いしたいです。

最後に

最後に先生の趣味を教えて下さい。

難波:
フラメンコをやっていて、発表会やライブに出演をしています。フラメンコの会場は舞台を取り囲むような形で観客が応援してくれるので、踊る側としても気合が入りますし、練習の成果がしっかり出せた時はほかに代えがたい喜びがあります。このコロナ禍で活動が1年以上できていないのがとても残念です。

愛用のフラメンコシューズ

東京医科歯科大学にはバンドやギターを趣味にしている人も多く、近くの研究室にフラメンコギターをしている人がいるという噂も聞いたので一緒に練習をしたり、イベントに出場してみたいですね。

ありがとうございました。

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