INTERVIEW

研究者インタビュー

2021.01.14 
研究者インタビュー 
Vol.22

再生医療や歯科治療に貢献 超分子で次世代バイオマテリアルを切り拓く

第一期プロモーター教員

日常生活に欠かせないお弁当の容器、ペットボトル、ビニール袋などを構成する高分子材料を医療、創薬、産業に活かす研究を続ける田村篤志先生のインタビュー。オープンイノベーション機構との付き合い方や今後の取り組みについてお話を聞きました。

プロフィール
生体材料工学研究所
有機生体材料学分野
准教授
田村篤志先生

研究について

先生の研究内容についてお聞かせ下さい。

田村:
私の専門分野は化学です。特に高分子というプラスチック、ゴム、合成繊維など私達の生活に必要不可欠な材料を生体材料(バイオマテリアル)という人間、動物の組織や構造を形成する素材に応用する研究を行ってきました。高分子の材料は比較的加工がしやすく化学的にも安定しており機能を外部から変化させやすい性質を持つため、生身の身体と直接接触する生体材料と親和性が高いとされています。生体材料は1980年代から心臓のペースメーカーや人工内耳などで一般的に広まり、今では歯科や再生医療など医療の現場でもさまざまな高分子材料が使われています。日常的に利用するものではコンタクトレンズにもハイドロゲル、シリコーン、MPCポリマーなどの高分子材料が使用されています。私達の研究室では、高分子材料を上手に活用して再生医療の発展や薬の創発を目指しています。

現在の研究に取り組み始めたきっかけを教えて下さい。

田村:
学生の頃は物性や分子工学を専攻していたのですが、2011年に東京医科歯科大学の生体材料工学研究所・有機生体材料学分野の研究室に所属することになり、高分子化学や有機化合物の研究に携わるようになりました。実際に自分の手を動かして研究をしてみると面白く、興味が尽きないので今も継続しています。高機能で安全性の高い物質を自分のアイデアや技術で設計して作ることはとてもワクワクしますし、アカデミアだけでなく企業とのつながりも深い領域だと思っています。

先生が研究を進めている超分子のポリロタキサンの特徴や面白さはどのようなことですか。

田村:
ポリロタキサンは高分子材料の1つで、線状高分子と環状分子からなる超分子です。ひも状の高分子に多数のリング状の分子を串刺しにした分子の集合体で、数珠やネックレスをイメージしてもらえると分かりやすいかもしれません。構造的に従来の高分子とは異なる高い柔軟性や弾力性の発現が期待されています。ポリロタキサンの特性を利用して、医薬品の創出や産業に応用する研究を行っています。

実験中の様子

具体的にどのような成果が期待されますか。

田村:
例えば、細胞内で分解される性質を持つポリロタキサンは細胞内環境に応じて環状オリゴ糖であるシクロデキストリンを細胞内に放出するのですが、脂質・ステロールとくっつくことで特定の疾患治療に活用できる可能性があります。また、ポリロタキサンが細胞表面の運動性に変化をもたらし、iPS(人工多能性幹)細胞に影響を与えることも分かっており、再生医療分野への応用も夢ではありません。
ポリロタキサンの特性を調べる中でシクロデキストリンという高分子材料にも興味を持ち、同時並行で研究を進めました。対象を複数にしたおかげで、ポリロタキサンについてより深く掘り下げて調べられたので、ポリロタキサンを医薬に応用する研究は飛躍的に向上しました。

研究で苦労されていることはありますか。

田村:
研究室では変わった構造の超分子を取り扱っており、一般的に市販されていないものばかり。まだ解明されていないことや不明な点も多いです。医療や産業に応用するには動物などで細胞や物質の評価をする必要があるのですが、全部自分達で調べなければならないので大変ですね。研究をしながら大学院生の指導もしているので、限られた時間の中で進めていくのはなかなかハードというのが本音です。

材料の調達に始まり、実験の計画から学会での発表に至るまで手探りで進めていくと思いますが、1つの研究にどれほどの期間が必要ですか。

田村:
研究の期間は早くて半年ほど、論文を書き上げるのに長くて5年以上ですね。私は苦労が伴っても新しいことをやりたいと考えており、時間は想像以上にかかりますが楽しく取り組んでいます。
他の研究者の方もポリロタキサンの研究をしていますが、私達は医療の現場に普及させることを目標に実験を繰り返しています。その甲斐もあって、2020年にはようやく研究の1つが日の目を見ました。光を分解しやすいポリロタキサンを含有した歯科用接着剤の開発に成功し、発表できたんです。とても嬉しかったですね。ブラケットを使った歯科矯正では歯1本1本にブラケットを接着し、ワイヤーを通して力を加えることで歯並びを改善します。歯の表面にブラケットを固定するため、接着剤が歯面に残る問題がありましたが、私達が開発した接着剤に光を当てることで脱着が簡単になり、歯への負荷も軽減されます。これからは噛み合わせ・歯並びの矯正治療がストレス無くできるようになるかもしれませんね。

産学連携について

産学連携のご経験について教えて下さい。

田村:
主な連携先は化学、医療機器メーカーで新しい材料を使って製品化することを目指して試行錯誤をしました。材料に関する研究をしているので、企業や他大学の先生と研究をご一緒する機会は他の研究者より多いです。学生の頃にも企業の方とデータを集めたりした経験もあるので産学連携は身近な存在でしたが、私が企業と直接やり取りを始めたのは東京医科歯科大学に来てからです。

企業の方とのコネクションはどのように作るのでしょうか。

田村:
論文や学会の研究発表で企業の方から連絡をいただくこともあれば、教授や知人経由で声をかけていただいたこともあります。病院や研究施設の研究者とは共同研究や学会などを通して接点を持つ機会も多いのですが、企業で働く研究者の方達とは連絡を取る手段が分からないので基本的に待ちの姿勢になってしまいますね。

これまで産学連携が上手くいったケースを教えて下さい。

田村:
上手くいったと胸を張って言えるかというと難しいですね(笑)。いつも何かしら課題が残ります。いざ共同研究を始めると、どこかでお互いのゴールや方向性がズレたりして順調に進まないことがありますね。製品やサービスなど最後まで行き着く前に研究に必要な予算組みの段階から話が噛み合わないこともありました。
ただ、オープンイノベーション機構ができてからは、クリエイティブマネージャーの方に産学連携のサポートを何度もお願いしています。以前も海外を拠点とする外資系企業から問い合わせがあったのですが、私達研究者だけだったら引き受けられなかったと思います。企業や産学連携研究センターで勤務した経験がある方が間に入ってもらえると、産学両者の意見を尊重しながら話を進められるので非常に助かっています。

オープンイノベーション機構を活用して一番良かった点はどのようなことでしょうか。

田村:
外資系企業の場合は英語での資料作成やコミュニケーションでしたが、一番重要なのは企業との契約締結です。オープンイノベーション機構のおかげで、お互いのニーズやリソースを明確にして事前に決めておくべき項目やルールを事細かく話し合うことができました。共同研究を開始するまでの交渉は私自身あまりスムーズにいった試しがなかったので、スタッフの皆様のフォローがあったからこそ上手くいきました。

産学連携や共同研究をしてみての反省点はありますか。

田村:
企業との産学連携や共同研究は秘密保持や知的財産の観点から情報や結果をすぐに公表できないので、長期戦になることが多いです。共同研究の途中で私達の体力と時間が無くなりお手上げになってしまう場合もあるので、計画性やタイムマネジメントをもっと意識する必要がありますね。
また、単純に人手が足りないですね。私達と一緒に実験をしてもらえる方や研究結果をまとめたり、実験の材料集めをサポートして下さる方が一員として加わってもらえれば研究のスピードも上がり成果も出しやすくなるはずです。

プロモーターとしての取り組み

プロモーター教員になった理由を教えて下さい。

田村:
過去の失敗から沢山の教訓を得て、産学連携にもっと真剣に向き合おうと奮い立ちました。プロモーター教員になることで産学連携に関する情報が今まで以上に手に入りますし、企業の方とお会いする機会も増えると考え、快諾しました。

実現してみたいことはありますか。

田村:
オープンイノベーション機構やプロモーター教員の役割や業務内容をしっかり噛み砕いて理解しながら、私ならではのできることを見つけていきたいです。共同研究する、しないに関係なく、企業の方と意見交換する機会は増やしていきたいですね。学会などで私達がご挨拶させていただく企業の方は業種、業界が限られてしまうので、もっと色んな企業や担当者の方とつながることができれば新しい発見があるだろうと期待しています。

プロモーター教員としての先生のゴールはどのようなものでしょうか。

田村:
研究内容を活かして企業と一緒に世の中に貢献できるような製品を生み出したいです。産学連携で成功すれば、大きな規模の共同研究が継続して取り組めますし、社会を変えるようなイノベーションにもつながると信じています。壮大な目標ではありますが、挑戦してみたいですね。

オープンイノベーション機構に期待することや依頼してみたいことはありますか。

田村:
私の研究に興味を持って下さる企業を探してもらったり、仲介していただけると嬉しいです。また、研究内容に近い企業の商品開発や最新ニュースをシェアしてもらえると研究者側も産学連携にもっと興味を持ちやすくなるのではないでしょうか。
勉強会にはこれまで時間が取れなくて参加できていませんでした。今後は接点を増やすべく、自ら行動して多様な人間関係が構築できれば良いですね。

アカデミア、企業のパートナーに求めることはどのようなことですか。

田村:
私の研究や専門領域と異なる方と意見交換や研究をしてみたいです。アカデミアでは生命科学、情報、物理など分野を問わずお互いの知識や最先端の情報を交換したいですね。企業では総合商社の三井物産さん、メーカーの日立製作所さんなど東京医科歯科大学は業界を問わず産学連携を締結している実績があるので将来的に交流するチャンスはあるはずです。

最後に

先生の研究は将来的にどのような展開があると思いますか。

田村:
具体例を出すのは難しいですが、データサイエンスなど最近注目されている分野は私も興味があります。AI(人工知能)、ビックデータ、機械学習やディープ・ラーニングなどを活用した技術を現在の研究に組み込んでみたいですね。NTTさんやソフトバンクさんのような大企業は資本力があり経験豊富な技術者の方もいると思いますし、チャレンジ精神や瞬発力があるベンチャー企業とも一緒に研究をしたら面白い結果が得られるかもしれません。世の中の動きが早いので、想像しているよりも早期に社会実装されることは沢山ありそうですね。

新型コロナウイルスの影響で対面でのコミュニケーションが難しい状況だと思います。今のご時世に合ったおすすめの交流方法はありますか。

田村:
Zoomのようなオンライン会議ツールでの学会やイベントが増えましたが、限界がありますよね。以前面白い取り組みだなと思ったのが、VR(Virtual Reality)空間で研究内容を発表するイベントです。身体性が伴って現実的になりますし、空間の中で移動したら見える風景も変化するので飽きがこない。個性豊かな特徴のあるアバターもいて驚きました。名刺交換などのような旧来のコミュニケーションは難しかったですけどね。

最後に先生の趣味を教えて下さい。

田村:
昔から音楽が好きです。昔はDJをしたり、ギターを弾いていました。DJはかじった程度ですがギターは大好きで、大学生の頃はバンド活動に熱中していました。今は忙しくてほとんど触っていませんが、休みに日に一緒にセッションできるメンバーを探しているので、仲間を探している方がいたらお声がけいただけたら嬉しいです。

ありがとうございました。

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