INTERVIEW

研究者インタビュー

2020.07.09 
研究者インタビュー 
Vol.8

臨床と研究者の橋渡し AI活用にも意欲

第一期プロモーター教員

オープンイノベーションプロモーター森田圭一先生のインタビュー。口腔がんの研究をされており、臨床でのAI(人工知能)活用にも期待を寄せています。臨床の現場でのニーズを実現するパートナーとの接点づくりなどについてもうかがいました。

プロフィール
医歯学総合研究科
顎顔面外科学分野
講師
森田圭一先生

研究分野について

最初に先生が現在取り組まれていることについて教えて下さい。

森田:
東京医科歯科大学を卒業して、すぐに口腔外科の大学院に入りました。当時、口腔外科の大学院は、4年間のうち最初の1年は臨床、2〜4年で研究をする、というのが一般的でした。ちょうど大学院2年生になる前に、歯学部基礎分野の分子情報伝達学分野に新しい教授として一條秀憲先生が赴任されてきて、その研究室に入りました。一條先生は歯科医師で東京医科歯科大学の口腔外科出身です。大塚にあったがん研究所で東京大学の宮園浩平先生と一緒に研究をされており、スウェーデンに留学した経験もあるパワフルな方でした。一條先生のもとで「アポトーシスに関するシグナル伝達」という口腔外科の臨床とはあまり関係のない内容の基礎研究をしていました。アポトーシスとは、細胞死のことです。

具体的に、人体にはどのような影響を与えるものなのでしょうか。

森田:
大学院でのアポトーシスの研究は、生命現象の一つを解き明かすような位置づけの内容なので、医療に直接応用できるようなことはありませんでした。
細胞には死に方が他殺と自殺という2種類あります。毒みたいなもので死ぬほかに、自ら死を選ぶこともあります。これをアポトーシスと呼びます。
森田:
アポトーシスは細胞のがん化にも関わっています。がんは遺伝子の異常から発生します。本来増えないはずの細胞がどんどん増えてしまうのががん細胞なんですね。通常の細胞は遺伝子に異常が発生すると自らおかしくなったと判断して、自ら死ぬ。それがアポトーシスです。異常を察知しても細胞死が起きないようになってしまう場合や、異常に気づかない状態だと、それががん細胞になります。
そのメカニズムが分かると、がん細胞の増殖を止めるには、その細胞にアポトーシスを起こさせるシグナルを入れることで、細胞が元の機能を取り戻して死ぬようになります。

現在の研究は違う内容ですか。

森田:
口腔外科は口の中の全ての病気を診るので研究対象もさまざまなのですが、そのうちの一つは口腔がんです。大学院での研究ともつながるので、口腔がんは研究していきたいなと思っています。ただ大学院の時に使っていた手法の続きをするという形ではなく、患者さんのがんの切除標本を調べて、抗がん剤が効きやすい良いがんと、効きにくい悪いがんを見分けるといった方法などですね。口腔外科に所属しているからには、患者さんの役に立てるような研究をしたいと思っていますし、研究者としてのリサーチマインドを忘れないようにしたいですね。(写真右は、東京医科歯科大学歯学部附属病院における口腔がん体細胞変異解析)

産学連携について

これまでに関わった産学連携について教えて下さい。

森田:
産学連携は今までなく、橋渡しをしたとか企業と一緒に何かをして成果を出したということはないです。
今は次世代シークエンサーによるゲノム解析が行われていますが、創薬につながるシーズがどんどん見つかるというわけでもない。がんの腫瘍マーカーの候補を見つけても、検査薬として広く応用されることは難しく、研究レベルで終わってしまうことが多いです。口腔外科の研究室で細々と研究している程度では、薬や検査キットを作るのは難しいと思います。

今まで企業からお声がけ頂いたということはありましたか。

森田:
大学院生と一緒に行っていた研究の一つで、うがい液から初期の口腔がんを検出するという取り組みをしていたことがありました。検査会社と話をしたことはありましたが、一般消費者に向けて販売となると、万が一見逃してしまった時の責任の所在など色々と問題があります。今でこそ個人の遺伝子を調べることで罹患しやすい病気を調べられる遺伝子検査は行われていますが、越えなければならないハードルはいくつもあります。

プロモーターとしての取り組み

イノベーションプロモーター教員として声がかかったきっかけは何かありましたか。

森田:
色々なところに顔を出しているので声がかかったのかもしれません。研究は口腔外科で細々とやっていましたが、産学連携という言葉がまだあまり普及していない時代に、東京医科歯科大学では学内のラボで連携し、研究を進める方針でした。難治疾患研究所や整形外科など他の分野と連携して組織を作ったりして。月に1回、持ち回りで研究発表をしたり、大学院生が研究指導を受けたりしていました。臨床と研究では、使う言葉が違うので先生同士の話が通じにくいことがあるのですが、私は人から聞いた話を、さも自分が体験したかのように話せる技を持ってまして(笑)。先生達が集まって話をしている時に双方の話を取り持つことができる。当時の指導教授も色々なところに連れていってくれたので、顔見知りの先生達も増えましたし。

他分野の先生とも話が通じるのはなぜですか。研究の過程で知識を得ることがあったのでしょうか。

森田:
専門分野を一生懸命取り組んだ人とマニアックな話をするのが好きなので、方法など詳しく聞くんですよ。あとは、自分でこっそり、かなり細かいところまで調べる。すると、まるで昔から知っているように話ができるものです(笑)。専門家など、その道のプロに対しても話が通じるので、相手も専門用語で楽に話ができるみたいで、コラボなどの話も進みます。

今までのインタビューでは学内の先生間で意見交換する場がないというお声もありました。
先生としてはどのように感じていらっしゃいますか。

森田:
私自身は比較的、学内の方と交流する機会に恵まれているかもしれません。というのも、多くは自分の専門分野を中心に世界が成立してしまいますが、がん研究の場合はさまざまな研究分野とのコラボがどうしても必要なので、学内でも他領域との関係を築きやすかったと思います。指導教授が口腔がんの専門家で、多くの患者さんが当院にいらしており、解析対象の症例数が多いので、さまざまな研究者たちとコラボをすることになっていたのです。

対企業で考えた時にも、先生の強みが活かされそうですね。

森田:
他大学の知り合いで、企業や医療系とは全く別の分野とのコラボしている先生もいます。例えば東京理科大学や東京工業大学の先生は医療系ではないですよね。そういう大学の先生達に医療の話をすると、そもそも医療系の話を聞く機会がないらしく、興味を持ってくれます。
知らないだけで、お互いのニーズが合致することは無限にあるかもしれない。プロモーター教員のキックオフ会・アフィリエイテッド企業会員交流会で、2、3社の企業と話す機会がありました。製薬会社が多かったですが、企業も何をしていいのか分からないけど漠然とした危機感は持っていました。色々な話を聞くことができれば、アイデアが生まれたり、新たなプロジェクトができたりすると思います。目的をしぼってしまうよりも、まずはお互いを知る機会があった方が、興味がある者同士がつながったり話がしやすいかもしれません。

オープンイノベーション機構を進めていく中で、課題に感じていることはありますか。

森田:
企業と大学が、お互いの情報が手に入りにくいと思いますね。例えば、臨床で使う器具など「今あるものは不便だからこういうのが欲しい」と思った場合に、どの企業がそれを実現できるのかが全く分からないんですよね。
私はゲノムを扱った研究をしており、今とは別の手法で分析したい時に、どの先生に頼めばいいか、学内ですら分からない状況です。ただ、何年か前に学内のRU(リサーチユニバーシティ)機構URA(リサーチアドミニストレーター)室に、「こういうことできる先生がいたら教えて下さい」と突然メールしたら、紹介してくれました。
こうした「どこに頼めるのか分からない」ことが、マッチングのボトルネックになっているように思います。オープンイノベーション機構では、企業ができること、大学の先生ができることそれぞれのデータベースがあるといいですね。検索できるような仕組みがあれば、自発的な交流も増えるのかなと思います。

対企業で考えた時にも、先生の強みが活かされそうですね。

森田:
企業と大学が、お互いの情報が手に入りにくいと思いますね。例えば、臨床で使う器具など「今あるものは不便だからこういうのが欲しい」と思った場合に、どの企業がそれを実現できるのかが全く分からないんですよね。
私はゲノムを扱った研究をしており、今とは別の手法で分析したい時に、どの先生に頼めばいいか、学内ですら分からない状況です。ただ、何年か前に学内のRU(リサーチユニバーシティ)機構URA(リサーチアドミニストレーター)室に、「こういうことできる先生がいたら教えて下さい」と突然メールしたら、紹介してくれました。
こうした「どこに頼めるのか分からない」ことが、マッチングのボトルネックになっているように思います。オープンイノベーション機構では、企業ができること、大学の先生ができることそれぞれのデータベースがあるといいですね。検索できるような仕組みがあれば、自発的な交流も増えるのかなと思います。

産学連携を進めていく上で企業に求めることや、パートナー像などはありますか。

森田:
相手が海外の企業などの場合、言いたいことははっきり主張するので、契約は大変そうですよね。こちら側も企業側も事前に色々と勉強して知識を高めた上で、同じ土俵で話ができないと、実際の契約までいかないのかなと思います。

「こういう分野の方と話したい」など、ご要望はありますか。

森田:
今回は口腔がんについての話が多かったかもしれませんが、それ以外にも広く浅く色々と興味がありますので、一つの分野に特化して話を聞きたいみたいなものはないんですよね。

産学連携を進めていく中で、企業と先生はどういう役割分担が必要だと思いますか。

森田:
基本的に医師も歯科医師も自分の専門分野しか分からないのでお互いに求めているものがマッチしてもマネージメントする力が欠けていることが多いんです。だから一緒に仕事をしたり開発するだけではなくて、売上につながる方法、特許に持っていく方法を一緒に考えることができる企業がありがたいですね。経済的な話も分かっていないと進まないので。
一度、「こういった商品を作りたい」というお話をした時に「お金にならないので、できません」と断られたことがありました。ちょっとした変更にとてつもない費用がかかる上に、マニアックなので需要が少ない商品だったんです。私たちはそのあたりの感覚が企業さんから見れば十分ではないですし、企業と大学側の感覚を埋められるような存在は必要ではないでしょうか。

最後に

今後取り組みたいことなどあれば教え下さい。

森田:
AI(人工知能)は関わりたいですね。専門家が少ないとも、誰にでもできるとも言われていますよね。AIの研究は、多くの人が始めていて実用化されているものもありますが、本学はAIを用いた研究にも力を入れてくれているので、上手くコラボしていけたらいいですね。これも商品化に結びつける必要があると思います。

AIは臨床、研究どちらでご活用される形ですか。

森田:
臨床に関係する研究ですね。AIを活用するとなるとレントゲンなどの画像診断が比較的実現しやすいです。口腔がんを判別するAIを作るんだという人は多いですが、いろんな条件があって難しそうです。というのも、肺がんや乳がん、胃がんなどの患者数は日本で年間数万人から10万人単位ですが、口腔がんは年間7000人程度。AIの研究は数が勝負になってくるのですが、口腔がんは症例数が少ないために、データが集まらず厳しいんですよね。AIの専門家で医療に精通している人はまだまだ少ないみたいで、電子カルテに関連する企業で「AIやってます」というところもありますが、精度の高い製品を作るところまではなかなか到達しない印象です。

研究以外で気になっていることや、ご趣味などを教えて下さい。

森田:
以前は外食ばかりだったのですが、新型コロナウイルスで家にいる時間が長いので自炊をするようになりました。先日は有名ラーメン店の味を、自宅で再現することに挑戦しまして(笑)。有名ラーメン店メニューの再現レシピをウェブで探して、それを見ながら作っては楽しんでいます。

先生のInstagramを拝見すると、お肉の写真も多いようですが…。

森田:
私は有名ステーキ専門店に通ってまして(笑)。お店で食べた肉の量が加算されて記録されていく仕組みになっています。私は今まで200kg以上の牛肉を食べた計算になりますので、順位もそこそこ上位ランクですよね(笑)。インスタの1/3が肉の写真なのは、そういう理由です。

いろんな方と話したり、ご自身で調べたりするのが好きとおっしゃっていましたが、
何かとっておきのお話しを披露していただけないでしょうか。

森田:
例えば、ウナギがどこで生まれるか知っていますか。浜名湖じゃないんですよ(笑)。ニホンウナギの産卵場所は水深数千メートルというマリアナ海嶺なのですが、詳しい場所はなかなか特定されていなかったのです。産卵場所の候補が絞られると、科学雑誌「Nature」(ネイチャー)に掲載されるような話題ですが、これらの最先端の研究しているのは日本人。こういうトリビア的な話が好きです。

ありがとうございました。

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