INTERVIEW

研究者インタビュー

2026.11.06 
研究者インタビュー 
Vol.90

膀胱がんの再発リスクと向き合う新たな治療戦略
光免疫療法とプラズマアクアが拓く低侵襲医療への挑戦

診療科プロモーター教員

膀胱がんの治療では、BCG膀胱内注入療法や膀胱全摘除術など、患者への負担が大きい治療法が中心です。東京科学大学の福島啓司先生は、近赤外光線免疫療法や、医療用の水「プラズマアクア」を用いた新しい膀胱がん治療法の開発に取り組んでいます。福島先生の研究内容や産学連携への思い、プロモーター教員としての抱負についてうかがいました。

プロフィール
東京科学大学
泌尿器科
助教
福島啓司先生

私が聞いてみました

医療イノベーション機構 パートナー戦略室
蓮香 正英

インタビュアー詳細

研究について

所属分野や現在の主な研究について教えてください。

福島:
大学院では泌尿器科学分野に属していますが、基本的には泌尿器科の医師として診療にあたっています。前立腺がん、腎がん、膀胱がんといった泌尿器がんの患者を対象に、手術や薬物療法、全体的なマネジメントまで含めて診療するのが私の役割です。それとは別に、研究にも取り組んでいます。

研究の1つの柱が光免疫療法です。正式には近赤外光線免疫療法といい、アメリカのNIHにいらっしゃる小林久隆先生が開発された治療法です。既に頭頸部がん(咽頭がん、喉頭がんなど)では臨床で使われており、泌尿器科でも応用できないかと研究を継続しています。もう1つの柱が、産学連携で取り組んでいるプラズマアクアを用いた研究です。そのほか、実際に診療で診ている患者のデータを集積した臨床研究や、公表されている治験データを再解析する研究にも取り組んでいます。

さまざまな研究に携わるようになったきっかけや、研究の魅力について教えてください。

福島:
私は東京医科歯科大学の出身なのですが、大学4年生のときに「プロジェクトセメスター」という、半年間いずれかの研究室に所属して研究に取り組む制度がありました。そこでたまたま泌尿器科の研究室に行ったところ、専門にしているドクターと出会い、「一緒に研究をやってみないか」と声をかけていただいたのがきっかけです。

ただ、研究は半年では終わらず、その後も臨床実習の合間を縫って続けていました。研修医になった頃には、その成果を論文としてまとめることもできています。その後は、日々の臨床業務が忙しく、なかなか研究に十分な時間を割けなくなりましたが、患者さんのデータを用いた臨床研究については、細々とではありますが続けてきました。

研究の魅力は、取り組めるテーマや方法の幅広さにあると思っています。マウスモデルやゲノムを用いた基礎研究もあれば、患者さんの実際のデータを解析する臨床研究もあります。また、その両者をつなぐトランスレーショナルリサーチという領域もあり、さまざまな角度から一つの課題に向き合うことが可能です。人によっては、「どれも浅くて中途半端なのでは」と見えるかもしれません。ただ私は、幅広い視点を持ちながら、俯瞰的かつ包括的に研究に取り組めることこそ、医師が研究をする面白さの一つだと考えています。

現在の研究では、どのような課題に取り組み、何を解決しようとしていますか。

福島:
1つは、膀胱がんに着目した光免疫療法の開発です。現在臨床の現場で使われている光免疫療法はEGFRを標的にしたものですが、膀胱がんに対してはそれほど高い効果が得られていません。そこで、EGFR以外の標的を使う光免疫療法や、がん細胞ではなく、がんに関連する線維芽細胞を標的とした光免疫療法など、複数のアプローチから膀胱がんに最適な光免疫療法を開発できないかと考え、研究を進めています。

例えば、膀胱がんの治療として今一般的に行われているBCG膀胱内注入療法は、再発を防ぐための治療ですが、患者にとってはかなり負担の大きい治療です。光を当てることで、同等の効果をより簡便に得られるようになる可能性がありますし、そもそも手術をしなくて済むケースが増えるかもしれません。また、進行しているがんに対しては膀胱全摘、つまり膀胱をすべて摘出する治療が一般的ですが、その代替となる治療を開発できる可能性もあると考えています。正直、まだ構想段階ではありますが、実現すれば患者の負担を減らしながら、より高い治療効果も期待できるはずです。

もう一つの研究テーマは、臨床研究における治験データの再解析です。第3相臨床試験のような強固なデータに基づく生存曲線から、データを再構成する手法があり、これを用いてもともとの臨床試験だけでは言えなかったことを、あらためて解析して新しい結果として示す取り組みを、他の先生方とも一緒に進めています。患者の細かい背景までは一致させられませんが、これまで比較できなかったものを比べられるようになったり、ネットワークメタアナリシスをさらに一歩進めたような解析ができたりするのが、非常に面白いところです。

研究を進めるうえで、どのような課題やハードルに直面していますか。

福島:
基礎研究の方が圧倒的に課題が多いです。臨床研究は空き時間さえあればできてしまう一方で、基礎研究はまとまった研究時間がないとじっくり実験に取り組めません。今は手術や外来診療の予定が重なることが多く、まとまった時間を取るのが難しいのが今一番の課題です。大学院生のドクターと一緒に取り組んでいますが、それでもなかなか厳しい状況です。
教育については、大学院生への研究指導や医局員への指導を行っており、臨床実習のクリニカルクラークシップチューターとして、学生と病棟のドクターをつなぐパイプ役を担っています。各先生方は臨床・研究・教育のすべてに取り組んでいますが、臨床がある分、研究にかけられる時間には制約があるのが課題です。これは他の先生方にも共通する課題だと感じています。

今後、研究をどのように進めていきたいとお考えですか。

福島:
光免疫療法については、最終的に膀胱がんへの臨床応用を目指しています。良い標的が見つかれば、ぜひ臨床応用に向けて研究を進めていきたいですし、すでに一定の成果が得られているものについては、そのまま次の段階へ進めていければと考えています。

もう1つ、産学連携で取り組んでいるのが、「プラズマアクア」を用いた研究です。プラズマアクアは、医療法人社団湖歩会の河﨑雅暢先生が開発された、活性酸素を持続的に発生させる水の製剤です。現在、開発元の企業と連携し、プラズマアクアを膀胱がんの治療に応用できないか研究を進めています。

実際に、がん細胞にプラズマアクアを加えると、抗がん剤よりも速く、効率よくがん細胞が死滅することが分かっています。膀胱は尿をためる臓器ですから、液体を直接入れて一定時間とどめておくことができる、数少ない臓器の一つです。そうした膀胱の特性を生かしてプラズマアクアを膀胱内に注入することで、新しい治療法につながるのではないかと考えています。

膀胱内に薬剤を注入する治療自体は、抗がん剤やBCGを用いる方法など、以前から行われています。ただ、副作用や治療効果の面では、まだ課題が残っているのが現状です。その点、プラズマアクアは非常に安価で、人やマウスでの安全性についても確認が進んでいるため、比較的導入しやすい治療になる可能性があると考えています。現在は基礎的な研究データを蓄積している段階ですが、将来的には臨床試験につなげたいと思っています。研究の進捗としては、光免疫療法よりもかなり先に進んでいる段階です。

プラズマアクアとの連携は、どのようなきっかけで始まったのでしょうか。

福島:
もともと、医療法人社団湖歩会の河﨑先生は、本学のヘルスサイエンスR&Dセンターの石黒めぐみ先生とつながりがあり、他の研究にも取り組まれていました。例えば泌尿器科では、人工尿道括約筋という人工物を尿道に埋め込む手術があるのですが、人工物による感染を防ぐため、プラズマアクアで消毒してから埋め込むという研究が、すでに進められていたところでした。プラズマアクアはもともと消毒剤なので、菌に効くのであればがんにも効くのではないかと考え、河﨑先生とお話ししてみたところ、一緒に研究を進めることになりました。

産学連携について

産学連携の経験は、先生ご自身のキャリアや研究に対する考え方にどのような影響を与えましたか。

福島:
基礎研究で新しい技術や標的、薬物を開発できたとしても、それを臨床に応用していくには非常に高いハードルがあるのだと実感しました。私が今進んでいるステップだけでも相当大変で、まだすべてを理解できているわけではありませんが、いろいろな方のお話からもハードルの高さがうかがえます。

特にどのような点にハードルを感じていますか。

福島:
資金調達は、やはり非常に大きな課題だと感じています。特許の仕組みや医薬品の開発・製造に関する基準などについて、最近ようやく分かってきました。

医師として日々診療に携わっているだけでは、なかなか知る機会のないことばかりです。「こうしたルールのもとで医薬品の開発や事業が進んでいるのか」と、初めて知ることも少なくありません。そうした領域を一から学び、理解していくことも、今後研究を前に進めていく上での一つの重要な要素だと感じています。さらに今後、臨床応用を目指す段階になると、製品としての性質やGMP(製造管理・品質管理基準)といった面も含めて取り組んでいく必要があると考えています。

産学連携において、企業にどのようなことを求めますか。また、ご自身はどのような役割を果たしたいとお考えですか。

福島:
認証に持っていく段階までは、できる限り研究費を調達し、自分で進めていきたいと考えています。第1相、できれば第2相試験くらいまでは、医師主導試験として進めたいです。ただ、それ以降になると私の力では厳しい面もあるので、その製品に研究をかける価値があると考えていただける企業には、ぜひ第3相試験まで含めて一緒に進めていただけるとありがたいです。

学内の他分野や他大学との連携についてはいかがですか。

福島:
理工系との連携としては、東京科学大学 工学院の雨宮智宏准教授と、光免疫療法で光を当てるためのファイバー開発に取り組んでいます。膀胱は丸い袋のような臓器ですが、実際は縦長だったりといびつな形をしていることが多いため、1回で均一に光を当てられるファイバーができないかと、先端設計なども含めて一緒に検討を進めているところです。プラズマアクアについても、旧東京工業大学の先生にラジカルの測定などで協力していただいています。他大学との連携としては、横浜市立大学の先生と腎がんのゲノム解析に関する研究で解析を依頼させていただいているほか、他施設へ適合する患者の資料を送らせていただき、研究施設の一つとして関わらせていただいているものもあります。

プロモーター教員について

プロモーター教員になられたきっかけを教えてください。

福島:
以前は他の先生がずっと担当されていて、そろそろ次の人に、というタイミングで声を掛けていただきました。基礎的な研究まで含めて取り組んでいる医師がそれほど多くない中、ちょうど私が2024年に留学から帰国し、光免疫療法などに取り組んでいたことも背景にあったと思います。当時、医療イノベーション機構が主催していたイノベーションアイディアコンテストに、膀胱腔内照射専用の光ファイバーのアイデアで応募したところ最優秀賞をいただき、その資金も研究に役立てることができました。そうした取り組みをしていたこともあり、医療イノベーション機構とのつながりができていたのも大きいと思います。

プロモーター教員として、具体的にはどのような活動をされていますか。

福島:
医療イノベーション機構からいただいたメールの中で、皆さんに共有したほうがいいと思った情報は転送するようにしています。イノベーションアイディアコンテストのような機会についても、興味を持ちそうな先生に声を掛けるようにしていますが、正直なところ、あまりリアクションは多くありません。どう進めていけばよいかまだ手探りの部分もありますが、有益だと感じた情報を周囲に発信することは続けています。

産学連携や他分野との連携について、機構に期待することはありますか。

福島:
企業の方と接点を持つこと自体が難しく、自分の研究がどのような企業とマッチングしやすいのかも、まだ自分の中で明確にしきれていません。研究内容と企業の取り組んでいる内容を踏まえて相談できたり、マッチングできるような仕組みがあると、より連携が進めやすくなると思います。実際、プラズマアクアも最終的には大きな企業に持っていく必要があると思っていますが、どのように売り込んでいけばよいのか、なかなか見えていません。

また、講演会のような形で、実際に産学連携に取り組まれてきた先生方の苦労話を聞ける機会があるとありがたいです。特許を取得して製品化・販売まで進めたドクターの方々の話は、講演では要点だけがさらっと語られてしまうことが多いのですが、最初の絶望的な状況からどのように進めたのかという泥臭い部分にこそ、参考になる情報があると思います。ざっくばらんに話せるような会があると、なおよいのではないかと感じています。

最後に

先生のご趣味や休日の過ごし方を教えてください。

福島:
アメリカに住むようになってから、ドライブをするようになりました。メリーランド州からフロリダまで車で行くなど、長時間の運転も苦にならなくなり、帰国後は長い時間をかけて車で旅行に行くのが習慣になっています。今年の夏は青森まで車で行き、ねぶた祭りを見てきました。運転をしながら旅行先で美味しいものを食べたり観光したりするのが、最近の楽しみです。普段の週末は、小学4年生の子どもがラグビーをしているので、その練習や試合について行くことが多く、自分の時間はあまり取れていません。アメリカにいたときは自家製のビール作りにも挑戦していました。お酒は好きなほうで、日本では法律上の問題がありますのでさすがにビール作りはできませんが、休日は家で晩酌をしながら過ごしています。

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医療イノベーション機構
openinnovation.tlo@tmd.ac.jp

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