INTERVIEW

研究者インタビュー

2026.09.17 
研究者インタビュー 
Vol.88

治療抵抗性関節リウマチに挑む
線維芽細胞を起点とした新たな治療法の探索

診療科プロモーター教員

関節リウマチの治療は大きく進歩し、生物学的製剤をはじめとする分子標的型の抗リウマチ薬が数多く使われるようになりました。一方で、複数の治療薬を使用しても十分な効果が得られず、痛みや腫れ、関節破壊に悩む患者さんも少なくありません。東京科学大学の齋藤鉄也先生は、治療抵抗性関節リウマチの病態解明に取り組み、線維芽細胞に着目した新たな治療標的の探索を進めています。今回は、齋藤先生の研究内容や産学連携への思い、プロモーター教員としての抱負についてうかがいました。

プロフィール
東京科学大学
膠原病・リウマチ内科
講師
齋藤鉄也先生

私が聞いてみました

医療イノベーション機構イノベーション推進室
細川奈生

インタビュアー詳細

研究について

現在取り組まれている研究について教えてください。

齋藤:
私は膠原病・リウマチ内科で診療を行っており、研究では関節リウマチを専門としています。関節リウマチは膠原病リウマチ性疾患の中でも患者数が特に多い疾患で、国内で推定80万人程度、当科では約1,400人の関節リウマチの患者さんを診療しています。

近年、生物学的製剤などの分子標的型の抗リウマチ薬が数多く登場し、治療の選択肢は大きく増えました。こうした薬を使って、病気の活動性が十分に低く抑えられた「寛解」を目標に治療を行います。しかし、報告によって異なりますが、その寛解率は今なお半数程度にとどまっています。あらゆる分子標的薬を駆使しても、約2割の患者さんには痛みや腫れが残り、将来的な関節破壊にもつながりかねません。こうした状態は「Difficult-to-Treat RA(D2T RA)」と呼ばれ、私たちに限らず世界中でアンメットニーズ(未充足ニーズ)になっています。

私が取り組んでいる研究の一つが、このD2T RAに対する新たな治療薬の開発です。そして、もう一つが患者さん一人ひとりの体質・病状の違いに合わせて最適な治療を選ぶ、精密医療です。現在の治療では複数の薬の中から患者さんに合うものを試しながら選んでいかなければいけません。どの患者さんにどの薬が適しているのかを見極められれば、遠回りせずより適切な治療につなげられます。また、将来的にD2T RAになりやすい患者さんを予測できれば、私たちが開発している新しい治療薬を、その方たちにこそ届けられるのではないかと考えています。

新たな治療標的として、なぜ線維芽細胞に着目されたのでしょうか。

齋藤:
関節リウマチでは、これまで免疫細胞やサイトカインなどを標的とした治療が中心でした。一方で、免疫を抑える治療では、結核やB型肝炎の再活性化など、感染症のリスクにも常に注意しなければなりません。

特に現在は高齢化が進み、発症年齢自体も上がっています。加齢によって免疫機能が低下する一方で、炎症や自己免疫疾患が起こりやすくなる「免疫老化」という現象も指摘されており、感染症のリスクを抑えながら効果を上げる治療がますます求められています。

そうした中で私たちが注目しているのが、関節の滑膜に存在する線維芽細胞です。線維芽細胞は、本来、関節液の成分や細胞外マトリックスを作って、組織を維持する役割を持っています。ところが、免疫細胞による異常な炎症が慢性的に続くと、線維芽細胞も繰り返し刺激を受け、炎症を持続させたり、骨や軟骨の破壊に関わったりする細胞へと変化すると考えられています。免疫細胞だけでなく、こうした線維芽細胞を標的にすることで、将来的には、免疫抑制を過度に強めることなく、寛解を目指せる治療につなげたいと考えています。

線維芽細胞については、これまでどのようなことがわかってきたのでしょうか。

齋藤:
線維芽細胞自体は昔から整形外科領域も含めて注目されてきましたが、現時点でも線維芽細胞を標的とした治療は実現していません。

近年、シングルセル解析(一つひとつの細胞をバラバラに分離し、細胞ごとのゲノムや遺伝子発現などの情報を網羅的に調べる手法)の技術が進んだことで、一見同じように見える線維芽細胞の中にも、機能や存在する部位が異なる複数のサブセット(大きな集合の中から、一部の要素や機能だけを抜き出した部分集合のこと)が存在することがわかってきました。さらに現在は、細胞が組織のどこに存在するかという空間的な情報も含めて解析する研究が進んでいます。

関節リウマチ滑膜線維芽細胞におけるKRAB zinc-finger protein ZNF93の機能解析のパネル展示にて

同じ患者さんの同じ滑膜であっても、場所によって状態は均一ではなく、線維芽細胞とマクロファージが関わる部位もあれば、T細胞やB細胞が関わる部位もあるのです。こうした微小環境の違いを積み重ねとして捉えることが、治療抵抗性の病態を明らかにするうえでも欠かせない視点です。

線維芽細胞そのものを抑える治療を目指しているのでしょうか。

齋藤:
単純に線維芽細胞をなくしたり、悪くなった線維芽細胞だけを抑えたりするという考えではありません。線維芽細胞には、本来、組織を支えたり炎症を抑えたりする役割もあります。そのため、炎症を持続させる状態になってしまった線維芽細胞を、本来の抗炎症的、組織修復的な状態に戻せないか、日々模索しています。

そのために注目しているのが、細胞の性質を決めるうえで重要な転写因子などの「マスターレギュレーター」です。遺伝子一つの働きで、線維芽細胞を別の種類の細胞に変化させたり、変性してしまった細胞の性質を元に戻したりする力を持つとされています。悪いところを抑えるだけでなく、悪くなった線維芽細胞を良い線維芽細胞に戻すような治療を目指して研究を進めています。

臨床の現場では、どのような患者さんを見て研究の必要性を感じますか。

齋藤:
現在は非常に強力な治療薬がありますが、それでも効果が得られない患者さんはいます。そうした場合、ステロイドに頼らざるを得ないこともあります。ステロイドを長期間使えば、糖尿病や骨粗しょう症など、さまざまな副作用も問題になりかねません。それでも痛みが治まらず、関節がどんどん変形していき、一部には、痛みや関節の変形によって日常生活に大きな支障を来す患者さんもいらっしゃいます。

また、関節リウマチでは炎症だけではなく、患者さんが感じる痛みや倦怠感も非常に重要です。検査で把握する炎症の程度と、患者さんが実感する痛みや倦怠感が、必ずしも一致しない場合があります。炎症が治まっているからそれでよいということではなく、患者さんが一番困っている症状をどう改善していくのかも大切な視点だと感じています。線維芽細胞に着目することで、こうした症状につながるメカニズムについても、今後研究を深めていくつもりです。

膠原病・リウマチ内科を選ばれた理由を教えてください。

齋藤:
一つは、臨床免疫学への関心です。免疫はがんや心血管疾患など、あらゆる病気に関係する重要なテーマとして注目されており、免疫に関わる病気を扱う科に携わりたいという思いがありました。

もう一つは、内科医として全身を診られることです。膠原病の中には、若い女性がかかることの多い病気もあります。その方の今後のライフプランまで考えながら治療にあたれる点が、膠原病・リウマチ内科を目指した際に最も魅力を感じたところです。

先生は、もともと医師ではなく研究者を目指されていたそうですね。

齋藤:
研究者を志して北海道大学の薬学部に進み、博士号を取得しました。当時は分子生物学などの研究に興味があり、自分はずっと研究者になるものだと思っていたんです。ただ、博士号を取得したあと、今後どのような研究を続けていくのかを考えていた時期に、医師の先生から「医学を学んで、実際の患者さんに役立つ研究をすればいいのではないか」と言われました。

当時は医学部への学士編入制度があり、神戸大学医学部に3年次から編入しました。最初は研究を中心にして、臨床は一部行うような働き方を考えていましたが、実際に臨床を始めると非常に面白く、しばらくは臨床を中心に取り組んでいました。現在は、臨床と基礎研究を半々くらいで行っています。一般的な医学部出身者とは逆方向で、研究から医学に入ってきた形です。

産学連携について

企業との連携について、どのように考えていますか。

齋藤:
企業と研究者では、それぞれ持っている視点が異なります。企業では、その研究対象が本当に薬になるのか、製品として成立するのかというところまで厳しく見ていると思うんです。特許の状況や競合する研究、開発の難しさなどについても、企業は非常に多くの情報を持っています。一方で、私たち臨床医には、実際の患者さんを診ているという強みがあります。だからこそ、お互いの強みを持ち寄り、率直に話せる関係が重要だと感じています。

どのような段階から企業と連携するのが理想でしょうか。

齋藤:
できれば、かなり早い段階から一緒に考えられる関係が理想的です。アカデミア側で研究を進めて、ある遺伝子が見つかったあとに「これを薬にできませんか」と企業に相談するのではなく、どの標的を研究するのかという段階から企業と話し合うイメージです。

研究としては面白くても、特許や競合、製造などの面から薬にするのが難しい標的もあります。そのような情報を早期に共有できれば、最初から創薬につながる可能性を考えながら研究を進められるはずです。

一社との連携にとどまらず、業界全体での取り組みも視野に入れていますか。

齋藤:
もちろん、一社よりも複数社と連携できるほうが望ましいでしょう。ただ、私自身は共同事業体(コンソーシアム)という形での経験がまだなく、企業にとってどこまでメリットがあるのかは難しいところです。

関節リウマチの治療薬市場はある程度飽和しており、メーカー側の関心も、まだ分子標的薬が少ない膠原病疾患などへ移りつつあるようです。線維芽細胞を標的とした治療戦略も、関節リウマチにとどまらず、がんに伴う線維化などさまざまな領域へ波及する可能性があります。
米国では、NIHや製薬企業、非営利団体、複数の研究機関が参加する官民連携プログラムにより、関節リウマチなどの病態解明と創薬標的の探索が進められてきました。そうした座組みがあるのであれば、個々の技術は各社の特許としてしっかり線引きしながら、業界全体としての治療戦略を早い段階から共有できるのではないでしょうか。私たちの膠原病・リウマチ内科は、以前から線維芽細胞の研究に取り組んできた経緯があり、その点は私たちの強みです。

共同研究を進めるうえで、企業に期待することはありますか。

齋藤:
素直に申し上げますと、資金の問題は大きいです。特にシングルセル解析などは非常に費用がかかります。ただ、資金だけではありません。企業が持っている技術やリソースを生かして、開発や解析を分担することも欠かせません。また、人との交流も非常に大切なポイントです。大学院生だけで研究を進める場合、学位や特許など大学側の事情もあります。企業の研究者が大学に入り、一緒に研究するような形があれば、より深い連携につながることが期待できます。

プロモーター教員について

プロモーター教員になられたきっかけを教えてください。

齋藤:
臨床医としては膠原病全般を診療していますが、研究についてはそれぞれ専門性を持って取り組んでおり、私は関節炎チームという大きなチームを率いています。その中で順番が回ってきた形で、プロモーター教員をお引き受けしました。

プロモーター教員として、今後どのようなことに取り組んでいきたいですか。

齋藤:
研究テーマを選ぶときには、最も重要なアンメットニーズ(既存の製品やサービス、医療技術では十分に満たされていない、人々の潜在的・顕在的な欲求や課題のこと)を起点にすることが大切です。関節リウマチでいえば、D2T RAをどう治療するのかということと、精密医療をどう実現するのかという二つです。その解決手段の一つが医工連携で、現在、マッチングの機会を通じて学内の工学系研究者と複数の研究が実際に動き始めています。

プロモーター教員としてのトークセッションでの様子

私が必要としていたものと、彼らが持っている技術が合った形で、無理に作った共同研究ではありません。本当にブレークスルーが必要だと感じていた部分に、その技術を持つ研究者と出会えたという感覚です。そしてもう一つ、私自身は創薬にこだわりたいという思いがあります。研究成果を基礎研究や論文だけで終わらせず、できるだけ薬につなげていきたいからです。

医工連携では、具体的にどのような研究が動いているのでしょうか。

齋藤:
一つは、薬を必要な組織や細胞に届けるドラッグデリバリー技術との連携です。もう一つは、創薬スクリーニングに使うための標的組織オルガノイドの構築です。こちらはまだ連携が十分でなく、これから進めていく必要があると考えています。さらに、血液から関節の状態を予測するリキッドバイオプシーによるバイオマーカー探索にも取り組んでいます。自分たちだけですべてを備えることは難しいので、医工連携によって必要な技術を組み合わせていくことが重要です。

企業との連携をさらに進めるために、大学に期待することはありますか。

齋藤:
研究者個人が自分から企業を探し、連携先を見つけるのはなかなか難しいものです。大学側が、自分たちの大学にはどのような強みがあるのかを企業に伝え、企業が求めているものと大学の研究者をつないでもらえるとありがたいです。企業側から見ても、どの大学にどのような技術や研究者がいるのか、すべてを把握するのは容易ではないでしょう。大学ならではの強みを整理して発信し、それを企業のニーズと結びつけるような役割を担ってもらえると、産学連携も一段と進めやすくなるはずです。

最後に

先生のご趣味や休日の過ごし方を教えてください。

齋藤:
クラシック音楽を聴くことが好きです。自分で楽器を演奏するわけではなく、聴くことが趣味ですね。今まで心に響かなかった曲がある指揮者があるオーケストラを振った演奏で聴くと急に感動するというところに再現芸術の奥深さを感じます。ベートーヴェンの最後の交響曲9番は後々の大作曲家たちにとってジンクスとなったわけですが、第九でいえばフルトウェングラーの有名なバイロイトの第九より亡くなる直前に演奏したルツェルンの第九により感動します。ブルックナーの9番はハイティンクがコンセルトヘボウを振ったものが美しく、いつ何気なく聴きはじめてもついつい全曲聴き惚れてしまいます。
マーラーの9番は名盤だらけですが、これもカラヤンとベルリンフィルの有名なライブ盤よりもその少し前のスタジオ録音盤がなぜか心に響きます。もちろんコンサートやオペラなど生の演奏を聴きに行くのも大好きで、東京・春・音楽祭でヤノフスキーがコンサート形式で振ったワグナーのオペラや新国立劇場のニーベルングの指輪もほぼすべて聴きにいき、至福の時を過ごしました。

齋藤先生との研究連携・産学連携をご検討の企業・研究機関の方は、医療イノベーション機構までご相談ください。(診療、受診、治療内容に関するお問い合わせは受け付けておりません。受診に関しては東京科学大学病院の公式窓口をご確認ください。)

医療イノベーション機構
openinnovation.tlo@tmd.ac.jp

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