INTERVIEW

研究者インタビュー

2025.05.07 
研究者インタビュー 
Vol.73

第一線で活躍する歯科医師を育てる 歯学教育カリキュラム構築における産学・アカデミア間連携にも期待

第三期プロモーター教員

歯科医師になるためには、歯科医師国家試験に合格した後、法律により1年以上の歯科医師臨床研修プログラムを修了することが義務づけられています。こうした中、診療実践型を基盤とし、多彩なカリキュラムと最先端の医療設備を備えた本院の歯科医師臨床研修プログラムは全国的にも高い人気を誇っています。今回は、研修歯科医の教育法や、医療従事者と患者間のコミュニケーションに関する研究に取り組む則武加奈子先生にインタビュー。歯科医師に求められるスキルや、産学連携への期待についてお話を伺いました。

プロフィール
医歯学総合研究科大学院
歯学教育システム評価学分野
教授
則武加奈子先生

私が聞いてみました

医療イノベーション機構イノベーション推進室
URA 島田 康弘

インタビュアー詳細

研究について

先生の研究分野について教えてください。

則武:
2025年3月までは、本学の病院歯科総合診療科に所属し、自身の患者さんの診療に加え、初めて本院を受診した患者さんを適切な診療科に割り当てる初診業務にも従事していました。
4月からは歯学教育システム評価学分野の教授として、国内外の歯学教育の調査、歯学科で学ぶ学生の教育システムの構築やカリキュラムの評価に取り組んでいます。また、総合教育研修センターの部門長を兼任しており、研修歯科医への臨床指導やプログラムの開発、管理を担当。大学卒業後に国家試験に合格した1年目の歯科医師が、人格を養いながら総合的な歯科診療能力を身につけられる環境づくりに力を注いでいます。

総合教育研修センターはどのような特長がありますか。

則武:
本学は、2024年10月の旧東京工業大学との統合以前は、医学部と歯学部からなる医療系総合大学でした。2021年10月には、医学部と歯学部の附属病院が一体化したことに伴い、研修センターも統合されました。さらに、一定の診療補助が可能な特定看護師を養成するための部門や、歯科衛生士の知識・スキルの獲得ができる部門も併設。私が所属する歯科教育研修部門では、口腔内の病気や問題だけでなく、患者さんが抱える全身の治療、疾患を踏まえた歯科診療ができる歯科医師の育成を目指しています。

研究の魅力についてお聞きしたいです。

則武:
歯科医師に求められる能力は「知識」「技能」「態度」の3つ。これらを偏りなく、スムーズに習得できるように、どのように習慣化や行動変容につながるサポートができるかを常に考えています。医療の現場では、正解を自ら導き出す力が求められるため、テストの点数以上に大切なことがたくさんあります。研修医の皆さんには、研修中にすぎには腑に落ちなくても、5年後、10年後に「ああ、こういう意味だったんだ」と気付けるような礎を築いて欲しいと願っています。毎日の仕事は細かい作業や対応も多く、忙しい日々が続いていますが、「ここで研修ができて良かった」「一生使える知識や技術が学べた」という声が、私にとって大きな支えになっています。

他にはどのようなことに取り組まれていますか。

則武:
本院には、研修歯科医専用の診療室である「第2総合診療室」が設置されており、異動する3月まではその外来医長とリスクマネージャーも兼任していました。このほかにも、歯学部学生の指導や患者さんの診療、珍しいところでは南極観測隊員への派遣前歯科検診を担当していました。研究面では、指導歯科医の養成や評価法、患者さんが歯の治療をしたくなるようなコミュニケーション技法の実践など幅広い領域に取り組んでいます。私は臨床・研究も好きですが、「教育に携わりたい」という思いが、常に原動力になっています。
また、女性医師の働き方やキャリア形成など、ダイバーシティ&インクルージョン推進を担うキャリアアップ教員として活動する機会もいただきました。本学の学びやすさ・働きやすさ向上につながるよう、積極的に取り組んでいます。

産学連携について

産学連携の経験をお聞かせください。

則武:
大学院生時代はインプラント診療に関連する骨再生の研究に没頭しており、コラーゲン膜を開発している企業との共同開発で、動物実験やデータ分析をした経験があります。現在携わっている教育分野では、まだ産学連携の経験はありませんが、将来的には、研修医や歯科医師の教育、評価制度に関心がある企業と一緒に研究をしてみたいです。具体的には、人事や人材育成を行っているコンサルティング会社や、教育とAI(人工知能)を組み合わせた分野の企業と意見交換をし、率直なフィードバックをいただきたいです。

企業との共同研究で印象的だったことはありますか。

則武:
定期的な報告書の作成や、締め切り・ゴール設定が明確だったことは、今でも印象に残っています。研究者とは仕事の進め方やスピード感が異なるからこそ、産学連携による大きなシナジー効果に期待しています。

昨年東京工業大学と統合しましたが良い影響はありそうですか。

則武:
人文学系の先生が多いため、でとても興味深いと感じています。歯科医師は患者さんに難しい専門用語を使わずに病状や治療法を説明しますが、実際にきちんと理解されているのか、誤解を与えてはいないかという点について、デザイン学の先生と共同研究を進めています。医療現場でのアンケート実施の知見を踏まえて、今後は歯科医師と患者さんとのコミュニケーションの質を高める研究をさらに深堀りしていく予定です。

イノベーションプロモーター教員について

プロモーター教員になった経緯を教えてください。

則武:
偶然プロモーター教員の公募を見つけ、教授に相談をして応募しました。教育分野で企業と一緒にできる研究はないか探していたので、これは絶好のチャンスだと思いました。自分ひとりでは、これまでの研究を“形”や”サービス”にするのは難しい、だからこそ、企業の力をお借りしたいと考えています。ネットワークの構築や知的財産、起業支援といったプロフェッショナルが揃う医療イノベーション機構の皆さんに協力してもらいながら「大学発イノベーションの実現」のため前進したいと思ってます。

最後に

則武先生は週末どのように過ごされていますか。

則武:
休日は10才の娘と買い物に出かけて気分転換をしています。また、温泉が好きなので、長期休暇に温泉がある宿泊施設に泊まることも楽しみのひとつです。最近では草津温泉を訪れて露天風呂を満喫し、名物の湯もみも鑑賞しました。

先生にお会いしたい方、研究プロジェクトについてさらに詳しく知りたい方は、お気軽にご相談ください

医療イノベーション機構
openinnovation.tlo@tmd.ac.jp

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