INTERVIEW
研究者インタビュー
2024.09.30
研究者インタビュー
Vol.61
幅広い臨床試験に対応できるモデルの構築を目指す―微小流体デバイスによる生体内の細胞間相互作用、力学負荷の再現
第三期プロモーター教員
現在日本では少子高齢化に拍車がかかり、2025年には全人口の5人のうち1人が75歳以上となると言われています。高齢者の数は今後も増え続けると考えられ、何かしらの疾患を抱えながら生活していく人が増えていくと予測されます。そのような人々の健康を支えるためには、医療のさらなる進歩と発展が必要不可欠です。今回は、さまざまな新しい薬剤の臨床試験を行うためのモデルの構築を目指して、工学的なアプローチによって研究を行っている梨本裕司准教授に話を聞きました。
- プロフィール
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東京医科歯科大学
医療工学研究部門 診療治療システム医工学
准教授
梨本裕司先生
私が聞いてみました
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URA
インタビュアー詳細
古塩 裕之
研究分野について
先生の経歴や研究内容について教えてください。
- 梨本:
- 東北大学の大学院を出てからは、東京医科歯科大学の附属研究所である生体材料工学研究医療工学研究部門で微小な流体デバイスにより生体内を模倣した細胞間相互作用、力学負荷などの再現をしています。現在は主に血管について取り組んでおり、がんや歯肉などのモデルの構築を行っています。オルガノイド―幹細胞から臓器のモデルを作る研究をやっている方はたくさんいらっしゃるのですが、我々の部門の研究は、その工学パートというような位置づけであると考えています。どのようにしたら身体の中に近い環境を作ることができるのか、またどのような流れ負荷や機械負荷を与えたら身体の中に近い環境が再現できて、その臓器の芽を育てられるのか、そのようなことをやっています。
その分野の研究を始めたきっかけについて教えてください。
- 梨本:
- もともと工学部の出身なのですが、医療系のことをやりたいと思っていたので、大学では化学・バイオ系という学部を選択していました。その時に「小さい臓器チップのなかで臓器の構造を再現していく」という研究テーマを頂いたことがこの世界に入ったきっかけです。
先生は血管の研究をされていると伺いました。具体的にどのような研究をされているのでしょうか。
- 梨本:
- 今は、がん組織の中の血管がどのように変質していくのかということについて、本学で同じくがん領域をターゲットにしている先生と一緒に研究しています。現時点では実際に患者さんから採ったがん細胞による研究までは進められていませんが、がんの周囲の血管に起こっている現象を臓器チップの中で再現し、機序を評価しています。がん組織の近くでは血管が脆いのですが、チップの中でも同様に、がん組織の近くでの漏れやすい血管の再現が可能です。漏れやすいといわれる血管がどのような状態なのかは、トップジャーナルでも様々な説が出てくると思いますが、その機序が評価できるプラットホームがあるという点では役に立てていると思っています。デバイスを使いながらスクリーニングして、新しい薬を見つけていくということですね。ヒトの細胞を使って、ヒトの臓器を模倣している状態でスクリーニングができます。
研究について、今抱えている課題にはどのようなものがありますか?
- 梨本:
- この研究をやっていると必ず聞かれるのが「チップ内で再現されている状態が本当に身体の中に近いのか」ということです。正直、我々自身も今作っているモデルがまっすぐに身体の中を再現しているとは考えていません。今の技術では、臓器の機能の一部分、例えば肺の伸縮のような、臓器の一部の動きの機序を再現するというところで精いっぱいです。今後、今取り組んでいるところから徐々に拡大し、臓器のより高度な機能の模倣や、分析の精度を上げたりしようと考えています。最近は臓器特異的な血管の存在について注目されるようになってきているため、今後は肺や肝臓、腎臓など各臓器のニーズに合わせた血管の再現方法を考えていきたいと考えています。細胞外環境を整えることで、医学部の先生だけではできないようなところにアプローチしていければと思っています。
先生が思い描いているこの分野の将来像について教えてください。
- 梨本:
- 最終的なゴールは全ての臓器を再現して、全ての臨床試験が細胞のモデルでできることだと思っています。そこに達するにはまだいくつものハードルがあります。
産学連携について
これまでに産学連携のご経験はありますか?
- 梨本:
- 現在、日本医療研究開発機構(AMED)のプロジェクトなどを企業と連携して進めています。「こういう薬剤を評価したい」というニーズを企業からいただいて、それを評価するプロジェクトです。今流行りの分野でもあるので、社会的な期待は大きいと思っています。新しい動物実験の代替法として、多くの学会でセッションが設けられています。
企業と一緒に取り組まれる中で得た気付きなどがありましたら教えてください。
- 梨本:
- 我々はどうしても新しい機能や新しい現象を発見することいわゆる「ハイインパクトジャーナル」を目指してしまうのですが、企業と一緒に取り組んでいるとより安定性や確実性を重要視する必要性を感じられます。きちんとしたアウトプットが出せますし、効率良く研究を進められる。製品の数が出て利益が出るというところを重要視して活動されている点についても再認識し、今後もいろいろな製薬会社と一緒に研究に取り組めたらと考えています。我々の分野は安定的かつ高効率というところにおいては未熟ですので、工学分野のポンプメーカーや材料を作っている会社など、プラットホームを整えてくれる会社とも協力していけたら嬉しいですね。
来月から東工大と連携されるとお聞きしました。
- 梨本:
- 少し前に、2大学の統合を見据えた研究マッチングファンドがあり、東工大の機械の先生と一緒に採択していただきました。我々は工学の中ではバイオ寄りの立ち位置にいるので、我々の技術をより積極的に産業運用していくためには機械の方の足場固めが必要だということで、化学機械連携のような形でお願いすることとなりました。
イノベーションプロモーター教員について
先生がTMDUイノベーションプロモーター教員になられた理由について教えてください。
- 梨本:
- まず今回お話をいただいた際に、良い機会を頂いたなと感じました。知らない世界に入ってみることで自分の研究に新しい展開があるかもしれないですし、様々な先生方の研究について知り、それをアピールする役割も担えるのではないかと思っています。大学への貢献もできたらという思いもあって、参加させていただきました。研究のコラボレーションという点でもそうですが、我々は医学と工学の間に位置している立場ですので、東京医科歯科大学の様々な先生の研究をサポートできる立ち位置にいるのではないかと思っています。
最後に
先生のご趣味や休日の過ごし方について教えてください。
- 梨本:
- 昔からランニングが趣味で、今もランニングしています。今朝も自宅から5、6キロ程ランニングして出勤しました。朝方は人も少ないので良いのですが、帰りは電車で帰っています。あとは3人のこどもの子育てに時間を使っていますね。
先生にお会いしたい方、研究プロジェクトについてさらに詳しく知りたい方は、お気軽にご相談ください
オープンイノベーションセンター アライアンス部門
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