INTERVIEW

研究者インタビュー

2024.09.17 
研究者インタビュー 
Vol.59

歯の治療によるアレルギーを予防し病状悪化を食い止める 手軽にできる検査試薬の開発にも期待

第三期プロモーター教員

虫歯の治療後、削った部分の歯の形を回復するため、詰め物や被せ物をした経験がある人も多いはず。しかし、詰め物や被せ物に使われている金属をはじめとする歯科材料が原因でアレルギーが起こる場合もある。今回は補綴装置の製作工程や歯科材料を研究している松村茉由子先生にインタビュー。現在の研究を始めたきっかけやプロモーター教員として実現したいことを聞きました。

プロフィール
医歯学総合研究科
咬合機能健康科学分野
特任助教
松村茉由子先生

私が聞いてみました

オープンイノベーションセンター アライアンス部門 URA
島田 康弘

インタビュアー詳細

研究について

所属されている分野について教えてください。

松村:
本学の義歯科(専)歯科アレルギー外来で診療しながら、咬合機能健康科学分野の特任助教として研究を行なっています。歯科治療では、詰め物や被せ物に様々な種類の金属材料を用いるのですが、金属に対してアレルギーをお持ちの患者さんもいます。
歯の詰め物をした後に気がつく時もあり、症状が出たら問診だけでなく、レントゲン検査や血液検査、皮膚の反応から診断するパッチテストなどの結果を総合して診断しています。パッチテストでアレルゲン金属が判明した場合は、口の中にある金属を少量だけ削り、粉末を蛍光X線分析装置で分析する金属成分分析検査で原因を特定。口腔内の金属や歯科材料を別の金属やセラミック、レジン(プラスチック樹脂)などの材料に置き換え、問題がないか経過観察し様子を見ていきます。

アレルギー症状をそのままにしておくとどうなりますか。

松村:
口の粘膜が荒れたり、口の中が白っぽくなりかゆみや痛みが伴う扁平苔癬(へんぺいたいせん)ができることもあり、注意が必要です。味覚障害やがんにつながる可能性もあり、異変に気づいたら早期に対処した方が良いでしょう。また、口の中だけでなく、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)など、全身性の疾患に繋がることもあります。

分野の中で先生はどのような研究を行っていますか。

松村:
咬合機能健康科学分野は、2021年11月に分野の再編成があり摂食機能保存学分野から名称が変わりました。その中でも私は、金属アレルギーの方にも安全に使用でき、補綴装置をコンピューターによって設計から製作まで行う「CAD/CAM冠」の研究に注力しています。ミリングマシンと呼ばれる小型の加工機で効果的な補綴装置が作れるように、加工条件や切削加工時の切削抵抗の解析をしています。また、アレルギーの研究では歯科材料や検査手法の調査、治験も行っています。

現在の研究に興味を持ったきっかけを教えてください。

松村:
私の父である松村光明先生(現・臨床教授)は、本学の歯科アレルギー外来の創設に携わった1人で、その背中を見て育ったこともあり、金属・歯科材料のアレルギーの研究を志すようになりました。「CAD/CAM 冠」は、大手電機機器メーカーとの歯科業界用ミリングマシンの開発が始まりでした。CADのデータから実際に削り出すための条件を探求するために、幾度となく実験を繰り返したのを今でも鮮明に覚えています。

歯科医師になったのもお父様の影響ですか。

松村:
実家が歯科クリニックを開業しているので、「歯科医師」が身近な存在だったことが大きいですね。専門性で言えば、「補綴学」を専門にしている先生は多いのですが、「歯科におけるアレルギー」に特化した歯科医師は少なく、他の大学病院でも専門外来が縮小傾向にあるのが実情です。患者さんがアレルギー症状で困っている時は、皮膚科の先生の協力のもとで治療にあたることがほとんど。医師と歯科医師の間で情報が行き来するため、苦しむ患者さんを待たせることになります。アレルギーの専門家として一気通貫して患者さんの口腔内の悩みを解決できる人間になりたいと、日々意識しながら治療や研究に取り組んでいます。

研究での悩みや問題点はございますか。

松村:
歯科業界の中でアレルギーの認知度が低いことに危機感を募らせています。最近では、金属に加えてレジンといった材料によるアレルギー反応も少しずつ増えていて、多様化しています。そういったアレルギーの知識や情報が広まれば、全国どこでも適切な治療が行える。学会発表や各種機関への呼びかけの強化と同時に、材料の開発や検査手法の確立も急務ですね。

産学連携について

企業との産学連携の経験を教えてください。

松村:
今までは企業さんから依頼があった受託研究ばかりで、共同研究の実績はまだありません。なので、このチャンスをうまく活かして色々と挑戦してみたいですね。ある企業と研究計画や方向性を相談する中で、部長や課長クラスの方が売上や販売数にフォーカスしていたことがとても印象に残っています。お付き合いのある歯科材料を製造するメーカーさんとは、研究者の方と材料の「安全面」や「機能面」の話ばかりだったので、部署や立場が異なる方との出逢いは大きな発見でした。産学連携は一蓮托生。もし産学連携が叶うのであれば、お互いがwin-winになれるように全力を尽くすつもりです。

産学連携を通じてどのような成果を期待しますか。

村松:
歯科で使用される材料は混ぜたり、光で硬めて使うものが多く、【1】材料単体の状態、【2】「材料A」と「材料B」を混ぜて変化が起きている状態、【3】口の中で固まった状態の大きく3つの段階があります。【2】の状態は検査するには時間が短く、化学反応が起きている間にアレルギーを特定するのは難易度が高い。補綴装置を歯にくっつける過程でアレルギーを起こしている患者さんもいるので、どんな状況でも判別できる検査試薬や大学病院だけでなくかかりつけ医のもとで簡単に受診できる検査方法を企業さんと共に開発してみたいですね。

イノベーションプロモーター教員について

プロモーター教員になった理由や感想をお聞かせください。

松村:
分野長である笛木賢治教授からプロモーター教員のお声がけをいただいたのですが、正直不安でした。でも、なったからにはやるしかないと腹を括りました。CAD/CAM冠については高い技術力と専門性を兼ね備えた先生が多く在籍しているので、私は歯科におけるアレルギーを中心にプロモーター教員として活動の幅を広げていこうと考えています。企業連携や知的財産、事業化を推進するプロフェッショナルが揃っているオープンイノベーションセンターのスタッフさんに協力してもらいながら、自分が所属している分野以外の先生や企業さんとの交流を深めて、研究内容をブラッシュアップし、そして困っている患者さんの役に立つアウトプットが出せるようにしたいですね。

最後に

先生は週末や休日をどのように過ごしていますか。

松村:
昔から大の動物好き。特に猫が好きで、実家の猫とじゃれあっている時間は至福のひとときです。猫が私に気を遣っているんじゃないかと思うくらい顔や体を擦りつけてくるのですが、「すりすり」している仕草がたまらなく可愛い。嫌なことがあったり、疲れが溜まってきたら、無意識に吸い寄せられている自分がいますね(笑)。

先生にお会いしたい方、研究プロジェクトについてさらに詳しく知りたい方は、お気軽にご相談ください

オープンイノベーションセンター アライアンス部門
openinnovation.tlo@tmd.ac.jp

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