INTERVIEW

研究者インタビュー

2023.03.09 
研究者インタビュー 
Vol.48

ヘテロ2本鎖核酸技術(HDO)により核酸医薬の可能性が広がる 神経筋疾患や認知症など神経難病治療薬の開発にも光明

第2期プロモーター教員

次世代の医薬品として高い期待が寄せられている「核酸医薬」。低分子医薬品、抗体医薬品に次ぐ第3の医薬品として注目度も高い。脳神経内科で神経疾患の治療や核酸医薬の研究を行う吉岡耕太郎先生にインタビュー。核酸医薬の可能性やイノベーションプロモーター教員にかける思いを聞きました。

プロフィール
医歯学総合研究科
脳神経病態学分野
特任助教
吉岡耕太郎先生

研究について

どのような治療、研究を行っていますか。

吉岡:
私がおります脳神経病態学分野(脳神経内科)の診療は、脳や脊髄などの中枢の神経や全身に広がっている末梢神経や筋肉の疾患を主に診ています。疾患の種類は多種多様で、脳卒中、多発性硬化症などの神経免疫疾患、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳変性症、筋ジストロフィー症などの神経や筋肉の難病はもちろん、認知症や片頭痛などありふれた病気も対象ですので、頭痛、物忘れ、痺れ、脱力、ふらつきなど多彩な症状の方がお越しになります。

また、当分野の研究では横田隆徳教授のもとで新たな核酸医薬技術の開発、創薬の研究に取り組んでいます。核酸医薬とは、生物の遺伝子を構成するDNAやRNA、またこれらを化学修飾した人工核酸を利用した分子標的薬です。この核酸医薬はタンパク質を標的とした従来の医薬品とは異なり、核酸を標的とすることが可能な新しいモダリティ(治療手段)として注目されております。一方で、私たちはその中でも全く新規の構造・メカニズムを持つヘテロ2本鎖核酸医薬(HDO)を研究室で考案し、難病を始めとした多様な疾患の治療薬となるよう開発を進めています。

どのような研究の成果が期待されていますか。

吉岡:
私たちが開発しているHDOは2つの強みを持っており、1つ目が標的の遺伝子発現を抑制や上昇させたり、RNAの編集作業であるスプライシングを制御したりするなど、薬効の応用範囲がとても広いことです。2つ目は、核酸医薬を目標とする細胞に届けるためのドラッグデリバリーシステム(DDS)機能を搭載することが可能な点です。今までの核酸医薬はターゲットとなる臓器が限定的で、私たちのHDOも開発当初は肝臓のみをターゲットにしていましたが、このDDS機能を工夫することで肝臓以外でも血管内皮の細胞、脳や末梢神経などの神経細胞にも届けることが可能であることが研究結果から判明しました。

学会ではアカデミアや企業研究者が垣根を越えて創薬について議論しています

また、私自身は更にDDS機能を核酸分子自体に内包させる新しい分子構造の核酸医薬の研究も行っております。この核酸医薬は、「デリバリー」、「薬効発現」、「細胞内での分離」の3つの機能を1つにまとめており、この技術を発展させて安全かつ効果的に疾患のある臓器へと届けられるDDS内在型核酸分子の治療薬開発を今後推進していきたいです。

横田教授や永田哲也教授のご尽力のおかげで、日本国内外の核酸医薬の世界では私たちの研究成果はかなり広まっており、国際学術誌「ネイチャー・バイオテクノロジー」を始めとしてこの5年間で10報以上の論文が発表されており、学術的にも高い評価を得ています。

産学連携について

産学連携ではどのような研究を行ってきましたか。

吉岡:
私たちの技術は産業界でも御評価いただき、武田薬品を始めとする多くの大手製薬企業や化学メーカーと共同研究を実施しています。HDOの基本技術は東京医科歯科大学発のベンチャー企業であるレナセラピューティクスにライセンスされており、そこからいくつかの製薬会社にサブライセンスされています。

横田教授のところには、国内外の多くの製薬企業や化学メーカーからコンタクトがあるので、私も一端を担う形で共同研究に参画しています。HDOは標的にできる臓器が幅広く、薬効の応用範囲も広いので企業にとっても魅力的な技術と思っていただけているのではないでしょうか。

企業、アカデミアとどのように連携をして研究を進めていきたいですか。

吉岡:
企業とアカデミアの各々の得意なことを活かして産学連携を深めていきたいですね。企業の世界には深い専門知識に特化した研究者の方や豊富な実験機器が揃っていますし、市場に新しい製品を上市することを見据えた開発プロセスやビジネスの考え方はとても新鮮で参考になります。一方で、アカデミアの世界ではまずは市場性・実現性ではなく、全く新しい概念や発想を基にした自由な研究も許容される文化も残っており、そういった風土だからこそ生まれる場外ホームランのような、確率は低いかもしれませんが飛びぬけた研究成果も多いです。そこで、お互いの世界の立場から自分の研究の立ち位置を眺めて、より良いお薬を患者さんに早く届けられればと思います。

また、アカデミアのパートナーでは有機化学の分野で東京工業大学、大阪大学、東京理科大学の研究室と、デリバリーの分野で東京大学の研究室と連携をして核酸医薬の研究をしていますが、今後は理系の先生方とAI(人工知能)やシミュレーションを使ったデータ解析や機械学習を活かして研究の幅を広げられたらありがたいです。更に、東京医科歯科大学では核酸・ペプチド創薬治療研究センター(TIDEセンター)が創設されて、大学全体として核酸医薬の基礎や応用の研究を後押しして下さっていて、とても心強いです。また、最近話題になっている東京工業大学との合併によって医学と理工学の共同研究が盛んになるのは勿論ですが、むしろ異分野の方との議論から今までにない全く新しいサイエンスの分野が生み出せないかと今からワクワクしています。

私は基礎研究だけでなく臨床医として患者さんと向き合い治療も行っていますが、患者さんからの生の声に気づける現場は大切だなと実感しています。HDOは目の前にいる、認知症、神経や筋肉の難治性疾患、免疫疾患、がんなどの患者さんの治療薬にもなり得るので、現場からの期待の声も大きいです。まだまだ時間はかかるかもしれませんが、核酸医薬によって「難治性」と呼ばれる病気が無い世界を作ることができたら、現場で治療にあたる人間としてこの上ない幸せですね。

プロモーター教員について

プロモーター教員になった理由を教えて下さい。

吉岡:
横田先生から永田先生の後任としてイノベーションプロモーター教員をやってみないかとお話をいただきました。先輩方が企業と共同研究している姿を大学院生の時代から見ており、いつか最前線で企業と一緒に研究をしてみたいと考えていたので願ってもないチャンスでした。

プロモーター教員として達成したい目標はありますか。

吉岡:
新薬の開発を最初から最後まで見届けることですね。薬を作るとなると一般的に10年以上かかる長期戦になりますし、病気で困っている患者に薬を届け治すところまでがゴールなので、最終的には製薬企業の方としっかり手を組んで戦略的に研究をしていきたいです。そのために、自分達の手持ちの研究技術の特性や結果からゴールを設定する、「モノから目的を考える」従来型の研究戦略とは真逆の戦略ができればと考えています。つまり、最初に研究のゴールを設定し目的達成に必要な特性・要素を生物、化学、物理学、情報学の最新の知見を結集して横断的・融合的に解決策を導き出す、「目的からモノを考える」プロセスを軸にして研究に取り組みたいと考えています。

また、大学のオープンイノベーション機構の方々にはいつも丁寧にサポートしていただいており、特に産学連携には知財・ビジネスなど学問以外の部分が複雑に絡むことが多く緻密さと迅速さが必要となりますが、いつも感動するほどしっかりと対応していただいています。また、「革新的医療イノベーション」の創出に向けて企業との研究発表の場を定期的に開催したり、企業や研究者、学生が参加できるDX(デジタルトランスフォーメーション)、知的財産、資金調達に関するセミナーを実施するなど積極的に活動・情報発信をしているイメージがあります。こういったイベントは新しい出会いの場かつ勉強にもなるので非常に助かっています。
新たな技術を開発するための土台作りとして、現在のような企業と大学の枠組みを越えて、国や地方自治体、地域に根ざした医療関係者を巻き込んだ大きな枠組みで「コンソーシアム」のような共同体をオープンイノベーション機構と一緒に作っていけるのではと期待しています。

最後に

先生がお休みの日に楽しみにしていることはありますか。

吉岡:
家族でスマートフォンアプリの「ポケモンGO」を楽しむことですね。2016年にサービスが開始してから遊んでいて、今では妻と子どもも一緒になって家族全員で熱中しています。この前のゴールデンウイークにも、沖縄のイベントでかりゆしウェアを着たピカチュウを捕まえたりなど、家族旅行で北海道から沖縄まで全国各地へ狩りに出かけています(笑)。歩きながら楽しめるゲームなので、家族とワイワイやりながら運動不足の解消にもなるので一石二鳥ですね。

不断の努力と戦略が重要なことは研究にも通じる点と思っています

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