CASE

プロモーター教員インタビュー

2023.01.18 
プロモーター教員インタビュー 
Vol.42

3Dプリンターで耳科手術に貢献 AI技術を活用し手術サポートの3次元化を目指す

耳、鼻、咽喉の他に、脳と目を除く鎖骨から頭まで人のQOL(生活の質)に深く関わる耳鼻咽喉科。その医師として耳や鼻の外科手術や手術支援器具の開発を行う伊藤卓先生にインタビュー。産学連携の目標や共同研究で大切にしていることをお聞きしました。

プロフィール
医歯学総合研究科
耳鼻咽喉科学分野
講師
伊藤卓先生

研究について

先生の研究について教えて下さい。

伊藤:
耳や鼻の内視鏡手術やVR(Virtual Reality:仮想現実)、AR(Augmented Reality:拡張現実)、MR(Mixed Reality:複合現実)の技術を応用した解剖学実習、手術支援の研究をしています。側頭骨内に存在する血管や神経、内耳などの3Dモデルを作成し手術シミュレーションを行ったり、3Dプリンターを用いてナビゲーション用のリファレンスアンテナを開発・造形しています。治療対象は人工内耳や外耳道がんなどで、脳神経外科や形成外科の先生とも共同して手術を行うこともあります。耳や鼻はほとんどの重要臓器が骨の中に埋もれているため、大きく骨を削って骨の中に埋まった神経や臓器の位置関係を把握する必要があります。特に他科との合同手術は、これまでの臨床経験に関するバックグラウンドが全く異なるため、3Dモデルを用いた議論は有用です。手術は耳や鼻の穴から内視鏡を使って摘出する方法と脳神経外科の先生と一緒に開頭して骨を削る方法がありますが、本学では各種最先端の手術機器を用いながらできるだけ内視鏡で低侵襲な術式を選択しています。内視鏡手術では患者さんの身体への負担が軽いので、早期の退院も可能になりました。

3Dプリンターを活用した手術支援機器の開発も行っているとお聞きしました。

伊藤:
私は昔から最新の医療機器を活用することに慣れ親しんでいたため、3Dプリンターを用いた手術支援機器の開発には以前から興味を持っていました。 CT(Computed Tomography:コンピュータ断層撮影)検査で得られたデータから治療患部や周辺組織などの情報を3Dモデルに変換し、3Dプリンターで造形します。当然ですが、造形した3Dモデルは患者さん固有のものになりますので一人ひとりの解剖学的特徴を反映した手術シミュレーションとして活用できます。また、側頭骨骨面にぴったりとはまり込むような3Dモデルをデザインして、造形物を実際の術野に充てることで手術ガイドにも利用しています。もともとは口腔外科の先生方が行っているインプラント手術の際のサージカルガイドから取り入れたアイデアで、1人1人オーダーメイドで作成しているのは耳鼻咽喉科の業界では初の試みですね。取り込んだデータを解析し、3Dプリンターで造形する行程を現在は1人で行っていますが、将来はプラットフォーム化して幅広く活用できるような仕組みづくりをしている段階です。コンピューター上の3Dモデル作成のステップに関しては、CTでスキャンした画像の断面に神経や血管をなぞって手作業で再構成していますが、製品化するためにAI(人工知能)プログラムなども作成しているところです。

現在のところ、まずは対象となる術式として人工内耳埋め込み術を考えています。補聴器をつけても会話が難しく、何も聞こえない難聴患者には人工内耳の手術で聴力を獲得・回復させることができます。人工内耳は世界を見てもかなり普及している人工臓器の1つで日本では毎年1000例ほど手術が行われており、蝸牛と呼ばれるカタツムリの殻の形をした感覚細胞の代わりに音を電気信号に変換して直接神経を刺激して脳へ送りこむ装置を埋め込みます。遺伝性疾患で先天性的に耳が聞こえない赤ちゃんには生後半年で、加齢性難聴の場合は高齢者の方でも手術を行うので年齢関係なく実施します。特に高齢者では難聴が認知症発症の最も大きなファクターと考えられているため、聴力を回復してあげることで健康寿命の維持にも貢献できると思っています。そのほか小児や若年者でも先天性難聴や若年性発症型両側性感音難聴などに該当する方は仕事や日常生活に困難が生じるため、難病にも指定されていますね。  

人工内耳の手術はどこの病院でも対応可能ですか。

伊藤:
国から施設認定される必要があり、手術可能な病院は全国で約150箇所。そのうち、実際に手術が行われているのは東京を除けば各都道府県で1〜2箇所程度ではないでしょうか。私の研究は若手の医者が早く技術を覚えたり、術者がより安全に手術ができるようになることを目的としており、3D画面やホログラム表示が患部に直接投影するような手術のサポート技術など、5年、10年先のトレンドにのって研究開発を進めています。しかし、こういった技術の精度を上げるためには、私だけでは難しく、画像解析や医療機器メーカーと一緒に研鑽を積み上げて上げていくことが大切です。

東京医科歯科大学の長所や魅力はありますか。

伊藤:
本学は大きな病院なので難治疾患、希少疾患の症例数も多いですし、最新の医療機器を用いて様々な術式を経験することができます。これらの経験を生かして他病院に出張で手術指導しに行くこともありました。本学の病院長や手術部長などの理解もあり、手術ロボットなど最新のナビゲーション機器なども他大学と比べると揃っています。また、都心部にあることも魅力で近隣の製薬会社や医療機器メーカーにも相談しやすい環境だといえるでしょう。

産学連携について

産学連携を企業と行った経験はありますか。

伊藤:
過去に当時の准教授とともに3Dプリンターを使った手術の練習用モデルを企業と一緒に製作したことがあり、現在でも付き合いは続いています。3Dプリンターを上手に活用してテンプレートとして骨と合体させ、ホログラムがカチッとはまるようなシステムを作るためには医療機器メーカーや企業の方の協力やアドバイスがとても重要です。また、3DモデルをVRやMRデバイスでホログラムとして描出する技術を開発した企業の方とは、単なるユーザーとしての付き合いを超えて相談に乗ってもらっています。最近では、騒音性難聴を予防する取組についても国内企業とディスカッションを行っています。
アメリカやドイツでは、主に工学系の先生たちも含めてホログラム手術ガイドに加えて、ロボット手術やAR手術シミュレーション・VRオンライン診療など研究開発を積極的に行っています。日本は医療の先生と工学者の垣根が欧米ほど低くないため、共同研究をするチャンスはやや少ない傾向にあると思います。手術をアップデートするためにも企業だけでなく他分野の先生たちとも共同研究を推進していきたいですね。

VRゴーグルを装着して実験をしている様子

産学連携のパートナー像はありますか。

伊藤:
3Dやホログラムのプログラムやコードを書くことが得意なエンジニアの方の協力がどうしても必要です。また、精密な手術の世界で3Dホログラムを使うメリットは、ドリルやメスを入れる角度や方向が簡単に分かることですが、精度を保証するような工夫や検証が必要となります。一方、企業側としては社会貢献だけでなく、利益を上げる仕組みづくりが絶対に必要だと思います。そのため、医療者と企業がともに同じ方向を目指してお互いに成長できるような関係を望んでいます。ホログラムを活用するアイデアは比較的低価格で実現することが可能だと思うので、商品化して幅広く多くの施設で用いることができるようになれば良いですね。

産学連携ではありませんが、医工連携の観点から生体材料工学研究所の先生とも一緒に研究をしています。私私の性格だと思いますが、気軽に他の研究室の先生に話をもっていくにはかなり研究が進んでからかなと思っていました。実績もない全く知らない人から突然「これをやりたいです」と声かけられても「えっ?」ってなるかな、と不安に感じていたということですね(笑)。ある程度の実績を積み上げる必要はあると思いますが、フランクにお互いが気兼ねなく依頼できる信頼関係を築く場がもっと欲しいです。

プロモーター教員について

イノベーションプロモーター教員として実現したいことはありますか。

伊藤:
当分野の堤剛教授の推薦でプロモーター教員になりました。今の立場を活かして、世界的に有名なテクノロジーの第一線にいる企業の役員クラスに突然会いに行って共同研究ができたら面白いじゃないですか。無茶苦茶なことを言っているかもしれませんが、イノベーションを起こすためには突拍子もないことをどんどんやるべき。研究者になるとバックグラウンドや畑が違う人たちの情報はなかなか手に入らないので、企業・アカデミアを問わず多方面の方々と交流や情報交換する機会を増やしていきたいですね。

将来取り組みたい研究はありますか。

伊藤:
誰もやったことがない研究に挑戦してみたいです。昔、研修医の時に中耳炎の手術で鼓膜の穴を塞いでいた時に耳の中に直接薬を投与する点耳薬治せないかなと思ったのですが、当時は笑われて誰からも相手にしてもらえませんでした。しかし現在では再生医療の1つとして再生作用のある薬を鼓膜周辺に置いて自然に塞がる薬が開発されました。何が将来につながるか分からないので、ふわっとしたアイデアを大切にしながら新しい開発を進めていきたいと思います。

オープンイノベーション機構に期待することはありますか。

伊藤:
オープンイノベーション機構に特許出願のサポートをしてもらえたらとても助かります。他には、研究内容を社会に還元するため研究費の取得方法や行政・企業視点でのアドバイスをしてもらいたいです。以前、オープンイノベーション機構が開催したVRのイベントに参加した先生から、生体材料工学研究所の先生から話を聞いて刺激になったと教えてもらったのでイベントには足を運ぶようにしたいですね。

数学界のノーベル賞と呼ばれる「フィールズ賞」の受賞者が「イノベーションは普段の何気ないチャットや学生の指導からアイデアが生まれる」というコメントを出していて、本当にそうだなと思いました。テレビのコマーシャルを観ている時や通勤時間など日常生活にもアンテナを張って研究を進めていきたいです。

最後に

最後に先生の趣味を教えて下さい。

伊藤:
休日は家族との食事や観光をする時間を大切にしてきましたが、3人の息子たちも成長して子育てもひと段落したので今度は夫婦水入らずで旅行に行きたいですね。寺院巡りが好きで、つい先日も奈良県を訪れてお寺や仏像鑑賞を楽しみました。妻と一緒に「今日は1万歩!」と目標を決めて街の散策を満喫しています。

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