INTERVIEW

研究者インタビュー

2022.12.07 
研究者インタビュー 
Vol.38

画像診断技術を応用 難病診断に活かせる肺機能検査の開発目指す

第2期プロモーター教員

呼吸器疾患の中でも診断が難しいとされている間質性肺炎。呼吸器の専門医として数多くの症例を診察・研究してきた岡本師先生に、間質性肺炎の治療法や産学連携の醍醐味をお聞きしました。

プロフィール
医歯学総合研究科
肺免疫治療学講座
准教授
岡本師先生

研究について

先生の研究について教えて下さい。

岡本:
冬になるとインフルエンザ、気管支炎、肺炎といった病気が流行しますが、皆さんも一度はかかったことがあるのではないでしょうか。2020年から爆発的に感染が広がった新型コロナウイルス感染症も肺に強いダメージを与える病気の1つです。私は統合呼吸器病学・呼吸器内科の肺免疫治療学講座で間質性肺炎、過敏性肺炎の診療・研究をしています。間質性肺炎は、肺の「間質」における炎症と、肺に線維が増えて硬くなる線維化が起こる病気です。間質とは肺胞や気道以外の肺の組織全体、肺胞の壁の部分を言います。間質で炎症が起きると線維化が進み、肺胞と毛細血管の間の壁が硬くなり酸素の交換がしづらくなるのです。過敏性肺炎はカビ、きのこ、細菌や化学物質など抗原を繰り返し吸い込むことによるアレルギー反応で発症する間質性肺炎の1種です。細菌やウイルスが原因の肺炎とは炎症が起きる部位やメカニズムが違い、間質性肺炎は治療が難しい病気として放置されていました。しかし最近では研究が進み少しずつ病態の原因が解明され、病態を制御する治療法の開発も進んでいます。肺免疫治療学講座は寄附講座として設置されているので、企業などからの寄附金によって教育・研究の活性化を図る目的もあります。間質性肺炎の他、難治性気管支喘息、気管支喘息、肺がんなどの解析を行い、有効な治療法の開発を目指しています。

間質性肺炎は難病指定の病気もあると聞きました。

岡本:
間質性肺炎の中で原因がはっきりしていないものを「特発性間質性肺炎」と呼び、難病指定になっています。患者数は少ないですが平均余命が3〜5年と短く、診断5年後の生存率が低い悪性腫瘍は1位が膵臓がん、2位が肺がんですが、3位の白血病よりも特発性肺線維症の予後は悪く深刻です。アレルギーや免疫系の機構に問題が発生する以外にも、関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなど全身の血管、筋肉や関節などに炎症が見られる膠原病と合併して間質性肺炎を発症することもあります。また、鳥抗原やカビ類など生活環境にある抗原により発症する間質性肺炎もあり多様です。間質で線維化が進むと肺が固くなり、膨らみにくくなるため呼吸が上手くできなくなるのですが線維化は一度始まるとなかなか治りません。有効な治療法として2008年にピルフェニドン、2015年にはニンテダニブという抗線維化薬が認可され市場に出回るようになり疾患の進行を抑えることに成功しました。しかし、未だ進行を完全に抑える、あるいは、完治する治療法は開発されていません。

間質性肺炎は遺伝的な要因も考えられますか。

岡本:
親子や兄弟、一卵性双生児で間質性肺炎にかかる患者さんもしばしばいます。そのため、ゲノム上のタンパク質をコードする「エクソン領域」を調べるエクソーム解析を使って遺伝的背景を調べております。私が留学していたコロラド大学David Schwartz Labでは、世界中からDNAのサンプルを集めて解析を行っており、気道ムチン(MUC5B)と呼ばれる気道の分泌物に関する遺伝子のpromoter領域に異常があることが判明しました。留学中は、MUC5Bの遺伝子間の相互作用、タンパク構造や機能の変化について徹底的に研究しました。ムチンは糖たんぱく質の一種で自然免疫に重要です。MUC5Bが過剰になることで損傷した肺の上皮細胞が修復する過程を障害し間質性肺炎を引き起こすのではないかと考えられています。

2015年から4年間留学していたコロラド大学

ただし、欧米人と日本人では遺伝的背景に大きな違いがありますので、日本人集団からの遺伝子を用いてエクソーム解析を上手く活用して、間質性肺炎の病態を明らかにできるように研究を進めています。

産学連携について

先生は産学連携でどのような共同研究を行っていますか。

岡本:
画像、動画を使った共同研究を開始しています。深呼吸している状態をカメラで連続撮影し、その静止画を動画に変換して評価する研究を行っています。この技術により疾患による肺の動きなど細かい変化をしっかり捉えることが可能になります。

画像・動画の開発がメインなので、映像・画像解析領域に強みを持つ企業と提携しています。この産学連携の目標は診断と治療経過をより簡単に診断できるようになることです。間質性肺炎は肺活量の数値が指標となります。現在の肺機能検査は患者さんの負担が大きく年齢を重ねると検査を行うだけで体力的に厳しいので、私の研究で新しい検査方法が開発できるようにしていきたいです。私はレントゲンを読み解く診断が好きだったので、解析領域に強い企業と一緒に研究ができることは嬉しいですね。

産学連携の成果は他の病気の治療にも活かすことが可能ですか。

岡本:
整形外科で手術後の可動域をみたり、肺がんの手術で接合部が癒着しているかなどを評価することはできます。さまざまな分野で応用が可能です。将来的には映像の解析をAI(人工知能)で自動化することも検討しています。CT(Computed Tomography:コンピュータ断層診断装置)でAI解析を始めたところもありますが、まずは大量の答えをAIに覚えさせる必要があるので症例数の少ない難病の世界では着実に進めていくことが必要かもしれませんね。

知的財産についてはいかがでしょうか。

岡本:
こういうデータが出れば病気が進行しやすい、悪化しやすいなど疾患進行に関わる部分は企業の知的財産として利用頂くことができますね。肺機能検査のパラメータを組み合わせて推定式が作れれば、企業の知的財産になる可能性もあります。産学連携ではチーム全体がWIN-WINになる体制を作っていきたいですね。

他の企業との連携はございますか。

岡本:
日本医療研究開発機構(AMED)の仕事で、清掃業者との共同研究を予定しています。異色のコラボレーションかもしれませんが、過敏性肺炎は自宅のカビを吸い込むことによって肺胞でアレルギー反応を起こします。室内環境に関わってくるため、徹底的に家の中を清掃した場合に違いが出るのかを調べる予定です。小児喘息や食物アレルギーの分野では研究が進んでいるのですが、私たちの分野では開拓の余地があるため一緒に研究をしていくことになりました。人づてに紹介して頂き、私達からコンタクトをとって無事マッチングしました。

プロモーターとしての取り組み

イノベーションプロモーター教員として取り組みたいことはございますか。

岡本:
統合呼吸器病学分野の宮崎泰成教授から声をかけてもらいプロモーター教員になりました。すでにプロモーター教員である生体集中管理学分野の若林健二先生にも伺ったところ、「企業の最新技術を学ぶ貴重な経験になるし、関係者との接点も増える。研究室にこもっていると発想が似たり寄ったりになるので新しい視点を持つ良い機会になる」と太鼓判を押されたのもやってみたいと思った理由の1つですね。実際に企業との産学連携では、ビジネスの視点を知ることができたので非常に勉強になりました。こういった機会を増やしていき、何か新しいことが生み出せれば良いですね。
イベントや企画にも積極的に参加していきたいです。オープンイノベーション機構のスタッフさんと協力しながら、私たちの研究と相性が良い技術を持つ企業を見つけていきたいですね。呼吸器疾患や難病の治療に興味がある企業のご担当者様がいたらぜひお会いしたいです。東京医科歯科大学は間質性肺炎に関する症例数が多いですし、設備も整っているので頼りにしてもらえたら嬉しいですね。診療の数に加えて、遺伝子や血液サンプルなど様々な検体が疾患バイオリソースセンターにあるので共同研究でかなり役に立つと思います。バイオマーカーを見つけて、創薬にいたる構造解析やマウス実験などにつなげていきたいです。

参考にされているプロモーター教員の方はいらっしゃいますか。

岡本:
「次世代の聴診器」を開発しているプロモーター教員の梅本朋幸先生の記事は「ヤマハの技術をそういう風に活用できるのか」と目から鱗でした。専門外のイベントや発表会は私には理解できないと参加を渋っていましたが、新しいヒントが得られる可能性もあるので進んで参加したいですね。また、本学には統計解析や遺伝子の解析に詳しいデータサイエンティストや専門家がおり協力的で助かっています。

最後に

先生のご趣味を教えて下さい。

岡本:
高校生の頃からギターに夢中です。大学生時代は小さなバーで弾き語りをすることもありました。音楽は心を癒しますね。自宅では家族に「うるさい!」と怒られることもありますが、エリッククラプトンやビートルズ、山崎まさよしなどブルースを中心にめげずに練習しています(笑)。また、小さい頃からサッカーをやっていました。今は観戦が主ですが、コロナ流行前は医局でフットサルチームを作って練習をしていました。双子の子どもが昔所属していたサッカークラブでは監督をしていた時期もあり、家族のコミュニケーションツールにもなっていますね。
今ではもっぱら子供の世話をすることがある意味、趣味となっております。できるだけ時間を見つけて出かけるようにしています。

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