INTERVIEW

研究者インタビュー

2021.09.09 
研究者インタビュー 
Vol.28

メッセンジャーRNA医薬で新治療法を開発 神経再生へ応用目指す

第一期プロモーター教員

日本人の死因上位にあげられる脳血管疾患の中で脳の血管が詰まることで発症する「虚血性脳血管疾患」の新治療法を開発した福島雄大先生のインタビュー。研究内容から新型コロナウイルスのワクチンまで幅広いテーマで話をうかがいました。

プロフィール
生体材料工学研究所
生体材料機能医学分野
助教
福島雄大先生

研究について

まずは先生のご研究について教えて下さい。

福島:
遺伝情報を司る「核酸」を医薬品として利用する研究を行っています。中でも新しい核酸医薬として期待される「メッセンジャーRNA(mRNA)」に着目し、脳の疾患を治療できるようにしたいとの思いで取り組んでいます。脳の疾患を対象としているのは、私が脳外科医だからです。2018年から東京医科歯科大学の生体材料工学研究所に所属し研究に従事していますが、医学部を卒業してから8年間は臨床医をしておりました。医療が発達した現在でも、依然として脳神経外科治療は困難を極めることが多く、苦い経験をする日々でした。治療法が極めて限られている脳の疾患に対する新たな治療法を開発することを目指し、研究に取り組んでおります。

研究対象にメッセンジャーRNAを選んだ理由を教えて下さい。

福島:
2014年に大学院に進学しましたが、そこで研究テーマを決める必要がありました。と言いましても、それまでメスを握り続けてきた外科の人間がいきなり研究テーマを決めるのは大変です。何となく脳虚血性疾患の研究をしたいとは思っていましたが、具体的に何からどのように始めてよいものか分かりませんでした。東京大学には医学部を卒業してからのキャリアのほとんどを研究者として過ごす人が各学年に何人かはおりまして、同期の友人でも何人か心当たりがありましたので、片っ端から連絡を取って彼らの研究の話を聞きました。メッセンジャーRNAによる治療研究を行っていた友人の話を聞き、直感的に面白いと感じました。その友人経由で研究室の先生を紹介してもらい、その研究室で研究を始めることになったのが、研究者の道を歩むきっかけとなりました。メッセンジャーRNAによる治療研究は、現在コロナワクチンのニュースで耳にすることも多く有名ですが、当時は一部のコアな人しか知らない世界でした。決して私に先見の明があったわけではありません(笑)。友人に感謝ですね。

先生の研究はどういう病気が対象となりますか。

福島:
神経細胞死を対象とした研究を行ってきました。一般的に神経細胞は、例えば皮膚の細胞などとは異なり、一度細胞死に陥るとほとんど再生しないと考えられています。これは疾患の種類によらず、脳の疾患に共通した特徴です。私は特に脳梗塞などの虚血性中枢神経疾患における神経細胞死を対象としてきました。例えば、アルツハイマー病は記憶や空間学習能力に関わる脳の海馬にある神経細胞が細胞死を起こし、萎縮することで発症すると言われています。具体的な原因は分かっていませんが、アルツハイマー病に代表される神経変性疾患は、非常にゆっくり細胞死が起こるという特徴があります。一方脳梗塞では、脳の血管が詰まり血液の循環が止まることで、急速に細胞死が起きます。

研究の様子

脳の神経細胞死はどうやって防ぐのですか。

福島:
血管が詰まると修復不可能なダメージを受けた梗塞部分を中心に同心円状に壊死していきますが、まだ神経細胞が生きている周辺エリアがあり「ペナンブラ領域」と呼ばれます。ペナンブラ領域には10時間以上も生き残っている細胞が存在することも分かっており、治療次第では神経細胞死を免れる余地が残っているんですね。これらの細胞を細胞死から守るためには、二つの治療法が必要です。一つが詰まった血流を再開すること、もう一つが一度決まった細胞死運命から神経細胞を守る神経保護薬です。2013年頃からカテーテルによる血流再開療法が可能となりました。詰まりの原因である血栓が除去できるようになったんです。もう一つの神経細胞を保護する治療薬開発が、私達が取り組んでいる研究です。

神経保護を目的としたメッセンジャーRNAはどういう役割を担いますか。

福島:
DNAからRNAを経て、タンパク質を決定する遺伝情報の流れをセントラルドグマと呼びます。メッセンジャーRNAは配列だけでは何も機能しませんが、タンパク質が作られることで、様々な機能を発揮します。私は脳由来神経栄養因子(BDNF)がコードされたメッセンジャーRNAを用いて研究してきました。BDNFは神経細胞の成長、維持や再生を促すタンパク質です。神経細胞の動きを活発化させる働きを持っていて、増えることによって脳が元気になります。この機能に関してはかなり研究されていて、体外から補給することができれば、大きな治療効果をもたらすことが期待されます。しかし、ドラッグデリバリーの観点からすると、タンパク質を直接患部に入れることも理論上不可能ではありませんがとてもハードルが高いです。一方、メッセンジャーRNAを注入してタンパク質を脳で作らせる方法の方が相性が良いと判断をしました。脳虚血モデルラットに投与し、神経細胞死抑制、記憶力の改善ができたことが私達の成果です。

脳に直接投与するために色々な課題があったと思います。どういうタイミングでどのように入れるのですか。

福島:
一般的に薬剤は経口薬、点滴薬、皮膚に貼る薬、などありますが、いずれもそこから血液中に取り込まれた上で効果を発揮します。しかし、脳には血液脳関門(Blood-Brain-Barrier)と呼ばれる門番のようなセキュリティがあります。小さな分子であれば通ることが可能ですが、mRNAを血液中に投与して脳で薬効を発揮させるのは極めて難しいです。また、そもそも外部から入ったメッセンジャーRNAは身体の中で分解されてしまうため分解を防ぐためのポリマーやキャリアが必要です。当研究室ではナノミセルと呼んでいる高分子ポリマーを用いてmRNAを投与していますが、これを用いても血液中から脳へ送り届けるのは極めて難しく、おそらく頭蓋骨を少し開けて直接投与するなどの方法をとることになると現時点では考えています。倫理的にも越えなければいけない壁があって、患者目線で許される境目の見極めが大事かなと思っています。重症疾患であれば頭にコインサイズの穴を開けてメッセンジャーRNAを入れることは十分許容されると思いますし、一方で軽傷疾患では許されない投与方法となるでしょう。

新型コロナウイルスの予防にメッセンジャーRNAワクチンが使われていますが、副作用も報告されています。先生はどのようにお考えですか?

福島:
とても重要なことですね。ワクチン接種をした数日後に接種した腕にかゆみや痛み、腫れや熱感、赤みなど遅延性のアレルギー反応が出ることがあります。モデルナ社のワクチンで症状が確認されていることから「モデルアナーム」としてニュースでも取り上げられました。原因は全てが明らかになっているわけではありません。ワクチンを打つと出産に影響を与えるという情報から接種を控える動きにつながっているようですが、科学的に正しいとは言えません。スピーディに認可されたこともあり、正しい情報と間違った情報が氾濫している状況を危惧しています。私達はコロナウイルスが世界的な猛威を振るう以前からmRNA研究に携わってきたため、モデルナ社やビオンテック社が長く研究に取組んできたことを知っていますが、新型コロナウイルスで突然名前が知られるようになったので半信半疑になるのも仕方の無いことだと思いますが非常に残念です。私達も当然副作用が出ないように実験を繰り返しています。これまでの動物を用いた実験では、脳に強い炎症が生じている所見を見たことはありませんが、当然、ネズミと人間を同等に考えることはできないので、今後も慎重に実験を進めていくつもりです。

先生が次のステップとして取り組みたいことはありますか。

福島:
神経再生に取り組みたいです。脳の神経組織は再生しないと古くから信じられてきました。しかし、場合によっては再生するんです。話は少しずれますが、ヒトの脳にも驚くべき再生能力があることを示す事例をご紹介します。クジラはエコーロケーションといって自ら発した音の反響音を利用して、周囲の状況を確認する能力を持っています。後天的に視力を失ったヒトの中に、クジラと同様のエコーロケーションを習得するヒトがいることが知られています。人間は目に入った光の情報を後頭葉で処理して周囲を理解していますが、後天的に視覚を失い、エコーロケーションを習得した方の後頭葉は、光の代わりに聴覚情報を用いて、周囲の状況を把握することが証明されています。これは、ヒトの脳に驚くべき再生能力や、可塑性と呼ばれる深遠な適応力が存在することを示す例と考えられます。この事実を一つの切り口として、メッセンジャーRNAを上手く活用することで完治はできなくとも、患者を楽にするサポートができるんじゃないかと夢を見て日々の研究に取組んでいます。

産学連携について

産学連携を通じて研究をしたことはありますか。

福島:
産学連携の成功例はまだありません。研究を進めるために企業の方とお話する機会はあったのですが、壁を感じることも多いです。ベンチャー気質のある企業と提携して、創薬という形で社会貢献する一助を担いたいですね。イノベーションプロモーター教員の先生達が成功例をお話しされていている記事を拝読し、羨ましいなと思うこともあります(笑)。東京医科歯科大学は先進的な取り組みをする風土があるので、チャレンジはしてみたいですね。

プロモーターとしての取り組み

プロモーター教員として実現してみたいことはありますか。

福島:
治療法を基礎実験で示すことができたので、人に使ってもらうところまでもっていきたいという目標があります。医者や研究者が企業と自由に交流できるようにもっとフレキシブルで風通しの良い環境を実現したいですね。
あとは特許です。私の研究内容で特許を取得すれば企業もアプローチしやすくなるのではないでしょうか。

産学連携に関して東京医科歯科大学に望むことはありますか。

福島:
これからはビッグデータをいかに扱うかが重要です。東京医科歯科大学の中にも専門家の方がいらっしゃると思うので、つながりを増やしていきたいです。子供の時に話していた絵空事が案外研究テーマにもなりえるので、さまざまな刺激を得られる環境に身を置きたいですね。

具体的なパートナー像はありますか。

福島:
正直、どなたでもOKです(笑)。企業は企業、大学は大学と枠組みに拘らずに全員が前向きな気持ちで研究をしたいです。

最後に

先生の趣味を教えて下さい。

福島:
大学時代まではテニスをやっていました。コロナ禍なので外では難しいですが、最近ではワインを飲む時間が楽しみです。ワインの資格を取ろうと計画したくらいハマっていた時期もありました。今一番楽しみなのは、ストックしている2人の子供のバースデービンテージのワインを、彼らが成人したときに飲むことです。

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