CASE

プロモーター教員インタビュー

2020.11.19 
プロモーター教員インタビュー 
Vol.19

小児医療にITを活用したビッグデータやオンライン診療の実現を計画

先天性の病気と闘う子供達に寄り添い続ける小児科医、高澤啓先生のインタビュー。IT化が進まない小児医療にメスをいれ、救急医療の改善やデータベースの構築、オンライン診療を産学連携で実現したいという理由についてお話をうかがいました。

プロフィール
医学部附属病院
小児内分泌学
学部内講師
高澤啓先生

研究分野について

先生の研究分野を教えて下さい。

高澤:
東京医科歯科大学の小児科に勤務しています。小児医療は臓器、病気など特定の分野に限らず、子供に関わる全てを診療している点が非常に魅力的です。特に先天性疾患の場合、生まれてからずっと主治医として関わることも多く、成長の変化に伴う病気の問題に加えて、入学や卒業、就職など社会的な変化、成長を、親御さんとともに見守ることができる点も、小児科医にとっての大きな喜びの一つです。つい先日も、生まれた時から治療を続けている患者さんが医学部に進んで将来は小児科医になりたいと教えてくれて、なんとも言えない嬉しい気持ちになりました。

どのような研究をテーマにされていますか。

高澤:
小児内分泌学を専門としています。内分泌疾患とは甲状腺や副腎などホルモンを作る内分泌臓器の障害によって、ホルモンの働きに異常が生じる病気です。具体的には、先天性内分泌疾患をはじめとした遺伝性疾患の遺伝学的な解析や、大学院では性分化という男性と女性の性が分かれていく現象を分子生物学的に研究していました。内分泌疾患としては、先天性副腎過形成症という、生命維持に必要なステロイドホルモンを作れなくなる疾患や、血糖値を下げるインスリンの受容体の機能に異常を生じるインスリン受容体異常症などを中心に、診療や遺伝学的解析を行っています。性分化疾患はDSD(Disorders/differences of sex development)と呼ばれ、染色体及び性腺、内性器、外性器が非典型的である生まれつきの状態の総称です。性染色体には性別を決定する染色体として「X」と「Y」があり、男性だと「XY」、女性だと「XX」になりますが、必ずしも染色体と赤ちゃんの性別が一致しないこともあります。精巣と卵巣が分化し、性が分化していく仕組みはまだ完全には解き明かされていません。本学は稀少な病態や先天性の疾患を領域問わずに診療・研究していますが、稀少な病態の解明が進むことで成人の疾患治療に結びつく可能性もあることを強く実感しており、興味深い研究に関わることができていると感じています。

一般的には馴染みの無い病気だと聞きましたが、患者数はどのくらいいるのでしょうか。

高澤:
先天性副腎過形成症は1万5,000人から2万人の出生に対して1人の割合で発症すると報告されています。東京都だけでも年間に5人から10人ほどの赤ちゃんが発症している計算です。 性分化疾患はおよそ4,500人に1人と言われています。生まれたばかりの赤ちゃんの外性器を見ただけでは判別が難しいケースもあり正確な患者数は不明とされています。こういった先天性疾患は、患者数は少ないですが、診療や研究を通じて地道に病態を解明していくことが小児科全体のテーマですね。 日本の赤ちゃんは産まれた時に全員「新生児マススクリーニング」という先天性の病気を確認する検査を受けます。当科では、免疫不全症や神経疾患など、マススクリーニングで検査する病気の項目を増やすための研究・働きかけを行っています。

研究での課題はどのようなことでしょうか。

高澤:
私が専門としている小児内分泌は外見ではあまり違いが分からない病気が多く、周囲から理解してもらえない子供達も多く、人知れず悩みを抱えています。また、学校側の理解が得られず、プールに入るときに1人だけ違う色の帽子を被らされるような特別扱いが2020年になった日本でも起きています。病気を診るだけでなく、子供達の生活環境を整えることも小児科医としての役割の一端なので、私達医者が直接学校に連絡をしたり、先生とお話することも積極的に行っています。 病気を理由に社会的な制限を強く受ける子供達の現状を変えるために、病気についてもっと社会に発信していく必要があると思います。

新型コロナウイルスで小児医療に変化はありましたか。

高澤:
昨今の新型コロナウイルスの影響で子供達が病院などの医療機関を気軽に受診できなくなるなど、小児医療を取り巻く環境が変わってきている印象を持っています。小児科医不足が深刻な地域をはじめとして、小児科医がサテライト的にオンライン診療できるようなネットワークが作れると、仮に新型コロナウイルスが再流行したとしても対応できるのではないかと考えています。小児医療の中でも小児救急は1つの大きな課題です。小児救急医療の現場では、「コンビニ受診」という言葉が一時期流行りましたが、休日や夜間帯に救急外来を受診しなくても問題のない軽症患者が大半を占めている現状がある一方で、特に乳幼児では急に具合が悪くなり命に関わるような病態に陥ることもあります。新型コロナウイルス感染拡大の影響で受診控えが広がる中で、本当に治療が必要な子供達が病院で診察を受けられない状況になることに危機感を持っています。前述のオンライン診療を中心としたネットワーク構築は、これからの小児救急医療においても重要な役割を担う可能性があると考えています。

産学連携について

産学連携について先生の経験を教えて下さい。

高澤:
私は産学連携の経験はなく、これから始めていきたいと思っています。小児科では産学連携を通して遺伝子治療、再生医療や分子標的薬など新しい治療法の研究が進んでおり、今後さらに多くの分野に展開できる可能性があると思います。目標としては、私が企業から問い合わせを受ける小児科全体の窓口になれるように頑張っていきたいです。

産学連携で最初に実現したいことはなんですか。

高澤:
他の医療領域も含めた最先端の治療や、一般の小児医療における新しい治療の開発にも携わっていきたいです。また、大学病院に所属しているという立場を有効に活用して、産学連携で得た知見を、最終的には地域医療や総合診療の現場に還元できればと考えています。私を含め、産学連携についてまだ具体的なイメージを持っていない小児科医は少なからずいると思いますので、経験したことを学内外に積極的に伝えていきたいですね。

今まで産学連携の経験が無かったのは、研究分野の性質によるものが大きいのでしょうか。

高澤:
成人の総合診療は比較的色々な企業が参画しているようですが、小児科診療の現場では産学連携や企業とのつながりがまだあまり無いように感じています。企業と医療の現場をつなげることを主体的に行い、地域・総合診療を支えている小児科の先生方と企業とのコラボレーションを創り出すことにも関わりたいですね。

産学連携で小児医療にどのようなイノベーションを起こせそうでしょうか。

高澤:
小児科医にとって、親御さんの不安を取り除くことも大事な役割となります。今現在、救急の現場で行われている電話での問い合わせ対応では、親御さんの主観による情報が主体となってしまい、判断が非常に難しいと感じています。また、親御さんがウェブサイトなどを調べて来院される場合でも、最終的には親御さんの心配度合いで受診するかが決まってしまいます。
医師になって15年以上たちますが、電話での対応の難しさや小児科における医師と親御さんとの関係性は、この間さほど変わっていない印象を受けます。診察する医師にとって視覚で分かる情報やバイタルサイン(人間の生命活動において重要な体温、血圧、酸素飽和度などの生命兆候)が手に入るだけでも大きな変化なので、遠隔でのオンライン診療が普及することは明るい兆しであると感じています。動画や画像を通じた診療は万全ではありませんが、救急施設に搬送した方が良いのかなど具体的な判断をする上での有益な情報を得ることができると思います。電子カルテを含めたIT化は進んでいる一方で、小児医療は不可侵領域的な部分もあり代替できないと言われ続けており、子供の病気はすべて小児科医が対応するという形式もまだ続くでしょう。救急・総合診療を含めた小児科医の負担を軽減しながら医療の質を高めていく上でも、ITの活用などを通じて効率化を進めていくことが重要だと感じています。
残念ながら、子供達を対象とした臨床研究は倫理的なハードルも高い傾向があり、ビッグデータが取れておらず、データベースやオンライン診療などITを活用した研究はまだまだ発展する余地があると思います。将来的にはオンライン診療の精度向上も期待しています。小児総合診療・救急医療における、システム上の問題を根本的解決していくために、風土や前例を踏襲した制度のあり方から作り直していく必要性も感じています。

小児科でIT化が進んでいない一番の理由はなんだと思いますか。

高澤:
オンライン診療が普及しにくい背景には、子供の病気はスマートフォンの画面越しではなく、小児科の先生に直接診て欲しいというご家族の要望が強いことも一因であると思います。また、小児科医の仕事は多岐にわたるために、医療体制自体もシステマチックにできておらず、統一化されていない現状があると思います。施設ごとや自治体ごとで方向性や体制が異なるため、足並みを揃える難しさがあり、まずはモデルケースを構築し普及していくことが第一歩であると思います。

産学連携ではアプリケーションなどの導入もイメージされていますか。

高澤:
はい。今やパソコンやスマートフォンのアプリケーションを生活に活用することが当たり前になってきていますし、現在お子さんをお持ちの親御さんの世代はデジタルネイティブになってきているので、活用の可能性は大きいと思います。
救急医療を受診するべきかどうか判断できるQ&A、症状によってどの病院に受診したら良いのかが分かる情報が意外と世の中に出ていないので、突然子供が病気になった時に親御さんも戸惑ってしまうそうです。いわゆる共働きで子供をすぐに病院に連れていくことができない方もいらっしゃると思いますが、アプリケーションでガイダンスをしたり、情報を適切な形で届けることは比較的すぐ実現できると考えています。

企業に伝えたいメッセージはありますか。

高澤:
小児医療の社会的な重要性や意義を理解して協力関係を築いていただける企業とパートナーシップを結びたいと考えています。小児医療は成人科領域と違ってまだまだ未開の領域が多くあると思います。先天性疾患に対する先進医療・研究だけでなく、成人で行われている治療や新しい技術を使った診療が小児医療の現場ではまだ追いついていない部分もあり、今後も多くの展開を企業の方々にご提案できるのではないでしょうか。

企業のパートナー像を教えて下さい。

高澤:
オンライン診療に関しては電子機器を一緒に開発できるような企業が1つのパートナーのイメージになります。子供を持つ親御さんの声を吸い上げて、技術者や製品開発の方に伝えていくことが重要だと考えています。産学連携で企業との接点が増えれば、現場から聞こえてくるニーズや掘り起こした情報をもとに、たくさんの製品開発が実現するかもしれませんね。

アカデミアのパートナー像を教えて下さい。

高澤:
大学病院は専門に特化しがちなので、小児科全体としての連携をサポートしたいと思っています。小児総合診療の現場との相互理解を深めていくことも重要であると思います。子供達を取り巻くさまざまな社会的な要因も関連しているので、児童・思春期精神領域や教育分野との連携に関しても、政府や政治を巻き込みながら推進していきたいです。

プロモーターとしての取り組み

今回、イノベーションプロモーター教員になった理由を教えてください。

高澤:
マウスなどを使用して病気の原因や病態生理を探求する基礎研究と人を対象として行う臨床研究を両方経験し、また医師として地域・総合医療の現場に身を置いた時間も長かったので、多様な経験が評価されたのではないかと思います。小児科医は臨床あるいは研究のどちらかに特化する方も多いですし、大学病院やこども病院などの専門施設で専門診療に従事される方と、総合病院で地域・総合診療を担う方、いずれにもアクセスできる立場は強みかもしれません。

オープンイノベーション機構の取り組みで期待していることはありますか。

高澤:
手探りな段階ではありますが、企業やアカデミアの方と業界や業種を問わずお会いできる機会を設けていただけると助かります。交流の中から新しいアイデアや、共同研究やイノベーションを起こす活動を実現できたら、と思います。

長期的な展望やゴールを教えてください。

高澤:
小児医療を取り巻く環境は、時代とともに目まぐるしく変わっていっており、現代に合わせてより良い形や仕組みにしていくことが大事だと思います。旧来の仕組み自体を変革するタイミングがまさに今なのではないかと感じています。最先端のツールや技術を活用していきながら、新しい医療の在り方を小児医療の現場に届けることがゴールです。1つの病院や大学だけで推進していくには限界があるので、可能な限りさまざまな医療機関の中で連携して、関係性を深めていくことを長期の展望として思い描いています。

最後に

先生の趣味についておうかがいしたいです。

高澤:
趣味はあまりありませんが、やはり自分の子供の成長を見ることは楽しみです。小児科医である以上は、自分の子供達との時間もできる限り濃厚に過ごしたいと思っています。
大学時代は東京医科歯科大学でアメリカンフットボール部に所属していました。同じ高校のアメフト部の同級生とアメフト部を立ち上げたのですが、アメフト部の後輩達が小児科に入ってくれないことが少し残念です。息子が幼い頃に、私が楕円形のボールを与えようとしたところ、妻には丸いボールで遊ばせるように注意されました(笑)。アメフトに限らず、子供たちが何かスポーツに熱中してくれたら嬉しいです。

“One for All, All for Children”当科のスクラブのバックロゴに私達の理念が込められています。

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