CASE

プロモーター教員インタビュー

2020.10.15 
プロモーター教員インタビュー 
Vol.16

新旧の解析技術でHippoシグナル伝達経路のメカニズムを紐解く

古くて新しい化合物スクリーニング手法である「表現型スクリーニング法」や最新のデータ解析技術を用いて細胞の増殖や抑制に関わるHippoシグナル伝達経路を研究する丸山順一先生のインタビュー。製薬会社との創薬を目標とした産学連携の取り組みや、イノベーションプロモーター教員として実現したいことをうかがいました。

プロフィール
医歯学総合研究科
病態代謝解析学分野
助教
丸山順一先生

研究について

先生が取り組まれている研究について教えて下さい。

丸山:
細胞内におけるシグナル伝達の生化学・分子生物学的な解析が私の専門です。その中でも私は生化学の実験手法を使ったシグナル伝達の解析を得意としています。シグナル伝達とは、細胞が外界の状況変化に対して適切に対応するために備えている細胞内生化学反応システムのこと。現在所属している研究室では、組織再生の重要な調節因子である「Hippo(ヒッポ)シグナル伝達経路」をテーマに研究をしています。
Hippoシグナル伝達経路は癌の発症や悪性化に深く関係しており、このシグナル伝達経路の制御がおかしくなってしまうと人体に悪影響を与えうることが今までの基礎研究の結果から判明しています。私はこれらの先行研究を受けて、癌をはじめとする病気の新たな治療標的の提案を目指し、低分子化合物を使って細胞外部からHippoシグナル伝達経路の活性を制御する研究を進めています。主な手法は、Hippoシグナル伝達経路の活性をモニターできる実験系を構築し、その実験系を用いて低分子化合物ライブラリーを評価し有望化合物を選抜するという「表現型スクリーニング法」です。その一方で、標的タンパク質を予め定めておいて、そのタンパク質構造とどの化合物が合致するのかをコンピュータを用いて予測しスクリーニングする手法も行っております。このコンピュータを用いたスクリーニング手法はin silico(イン・シリコ)スクリーニング法と呼ばれ、昔ながらの生化学的な実験手法とともに積極的に取り入れています。

研究の特徴や、面白いと感じるのはどのようなことでしょうか。

丸山:
同定された化合物がどのようなメカニズムでHippoシグナル伝達経路を制御しているかを解くことが謎解きのようで面白いです。私達が採用している「表現型スクリーニング法」は、昨今ドラッグ(創薬)ターゲットの枯渇が叫ばれる中で新たな発見もありうる研究手法として有望視されています。私達の手法では化合物の作用を事前情報が無い状態で深掘りするので、完全に想像の斜め上と言いますか、当初想定していなかった分子メカニズムで私達が注目するHippoシグナル伝達経路に影響を与えていることが判明することがあります。全く想定もしていなかったようなドラッグターゲットが見つかる可能性が私達の手法にはあるんですね。予想していなかったメカニズムが分かるのは研究者としてワクワクしますね。
現代の生化学や分子生物学では「この遺伝子の発現変化がこういう結果になる」といった情報や「このタンパク質とこのタンパク質が結合する」といった情報がビッグデータとして既に相当量存在しますので、このようなデータを解析することで新規のターゲットを見出すことができつつあります。しかしながら、データ解析から見出したターゲットが本当にドラッガブルかどうかは実験的に検証するまでは分かりません。ビッグデータから炙り出して見つけていく手法も良いのですが、私達の手法では細胞に化合物をかけて目の前で実験の結果が出るというきちんとした証拠を初めから得られますし、化合物の作用機序を明らかにさえできればターゲットを見つけたことになる。かなり説得力を持ってドラッグターゲットとして提案できる可能性があると考えています。表現型スクリーニング法は歴史的には古い手法なんですが、これからも挑戦していきたいですね。

一方で、大変だと感じるのはどのようなことですか。

丸山:
これは研究の醍醐味と表裏一体なのですが、同定された化合物がどのようにその作用を発揮しているかを解析することがとても難しいことです。化合物の作用機序を解析するためには化合物が直接相互作用するタンパク質などの生体分子を同定することが重要ですが、このステップには決定版というような最善手法が未だ存在せず、多くの研究者が様々な手法を編み出しては奮闘している状態です。昨今、新規の薬剤を提案する際には作用機序を詳しく解析することが要求されていますので、この問題は非常に重要です。この部分はまだまだ基礎的な技術検討の余地が残されています。
もう一点は、化合物スクリーニング実験そのものの負担が大きいという点です。私達のスクリーニング系をもう少し具体的に説明すると、細胞の中にHippoシグナル伝達経路の活性を蛍光タンパク質でモニターできるように仕組みを設けて、細胞に化合物のライブラリーをかけていき蛍光タンパク質が発する光の強弱で評価する手法になります。本学の化合物ライブラリーに所蔵されている約2万種類の化合物を実際に細胞にかけて一つ一つ評価していくのです。一つの細胞を培養するプレートで、約100種類の化合物を評価することができる。約2万種類の化合物を評価するとプレートだけで200枚ほど必要になるので、大学院生の力も借りて3、4ヶ月の期間をかけて評価をしています。この一連の作業を手作業で行うのは負担が大きく意図しないミスを誘発することにも繋がりますし、大学院生の研究テーマとしての適格性にも疑問が残ります。今後は操作を部分的にオートメーション化するなどして作業工程をより効率化する必要があると考えています。

Hippoシグナル伝達経路は主に癌の発症に関与していると聞いたことがあります。

丸山:
癌が一番有名ですが、その他には廃用性筋萎縮があります。廃用性筋萎縮とは、例えば高齢の方が骨折や寝たきりの状態になった時に筋肉が衰えてしまい、けがが治った後でいざ動こうとすると筋肉量が足りなくて起きられずに寝たきりになってしまうような病態のことです。私達の研究室では何種類ものスクリーニングを走らせましたが、その1つのスクリーニングで得られた化合物がマウスの筋肉量を増強させる作用があるということを見出して論文にしました。廃用性筋萎縮の予防や治療を対象とした筋肉量を維持する化合物の発見、寝たきり防止を目的とした共同研究に繋がる成果を出すことができました。
癌とHippoシグナル伝達経路の関係性については、Hippoシグナル伝達経路で制御される一番下流のタンパク質である「転写コアクティベーター」の活性が上昇し過ぎてしまうと癌の発症につながります。活性が低すぎると細胞のセルフリニューアルが行われにくくなってしまうので、幹細胞の活性や機能が低下してしまいます。筋肉の研究では筋肉の幹細胞の活性を維持するために、転写コアクティベーターの活性を上昇させる化合物を使って幹細胞の活性を上げる作用を狙いました。私達の研究室としてはHippoシグナル伝達経路の対象疾患として、癌だけでなく幹細胞もターゲットとして取り組んでいます。

共同研究を行った際に企業との連携はありましたか。

丸山:
共同研究はAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)の研究で企業との連携がありました。私は研究開発分担者として参加したのですが、すでに連携先の企業は決まった状態でした。分野長側でパートナー企業を探されていたのだと思います。AMEDの研究では筋肉でしたが、私が研究室で解析してきた化合物は癌に対する効果を志向したものでしたので、もし私がイニシアチブをとって共同研究をするとしたら癌に強い企業と一緒にしたいですね。

産学連携について

今まで取り組まれた産学連携での共同研究について教えて下さい。

丸山:
先述のAMEDの研究において、ある化合物に関して製薬会社と共同研究をさせて頂きました。その時、私達アカデミア側の役割は化合物と相互作用するタンパク質、すなわち化合物の標的タンパク質を探すことでした。主に生化学の手法を用いてトライしましたが、残念ながら標的となるタンパク質を見つけることができず共同研究は終了。その経験から、ドラッグターゲット発見手法として表現型スクリーニングの手法は有望なのですが、企業の要望を満たすための技術が不完全な状態なので、産学連携まで進めるのはちょっと難しい印象を持っています。

産学連携を実際に経験されて良かったことはどんなことでしょうか。

丸山:
製薬会社の中での薬が開発される仕組みを担当者と協議する中で実感できたことですね。製薬会社内の合成部門や薬物動態部門などの研究チームがどのように動いているのかという内情も理解できたのは収穫でした。製薬会社で創薬の承認を受けるために必要な作用機序の情報も気にしてはいましたが、予想以上にハードルは高かったです。表現型スクリーニングでは作用機序をきちんと決める仕事はかなり重要であり、作用機序のメカニズムをしっかり決めて成果を出すことは意義のあることだと再認識しました。

産学連携での反省点や改善点はありますか。

丸山:
分野のエキスパートや有識者のつながりをもっと持っておけば良かったと反省しています。研究室の中だけではなく、経験のある方と一緒に創意工夫して進められたら、違った答えを出せたかもしれません。具体的なイメージとしてはアカデミアの方でも嬉しいですが、企業内に表現型スクリーニングで化合物の標的をつかまえる独自の実験系を持っているところもあるので、そういった企業とはディスカッションや情報交換したいですね。海外の学会では表現型スクリーニングの論文などを製薬会社が発表することも多いですし、国内でもスクリーニング分野だけで学会があり企業の方々も沢山出席されています。
今後の改善点としては、第一には他の有識者の方との協同を強めることです。また、先ほどお話した共同研究ではコンピュータ解析を中心としたドライな実験手法でも標的となるタンパク質の絞り込みができなかったので、分野にこだわらずに最新の情報をチェックし幅広い手法を取り入れ検討していく必要があると考えています。

今後は化合物のスクリーニングを企業に活用してもらう予定でしょうか。

丸山:
スクリーニングの技術を企業にも使ってもらえるとありがたいですね。以前関わった共同研究では私達のスクリーニング系を使って企業側が「もう一度社内独自のライブラリーで新たにスクリーニングをしたい」という要望がありました。ただ本来ならば、表現型スクリーニングで取った化合物の標的を決めるところまで私達の研究室で行えるようにできれば、とらえた標的を製薬会社の方々に提案することができるのでより望ましいです。そのような態勢になれるよう、研究室として実験系の整備をしていければと考えています。

プロモーターとしての取り組み

プロモーター教員に興味を持ったきっかけを教えて下さい。

丸山:
分野長からイノベーションプロモーター教員をやってもらえないかと相談を受けました。他分野の先生達と交流ができると聞いていましたし、色んな分野の先生や企業に勤める研究者との交流は興味深いのでぜひやりたいと思いました。企業の方とお会いする機会を増やしたいですし、話を聞いてみたいと思っています。

プロモーター教員として実現したいことはありますか。

丸山:
表現型スクリーニングはこれから創薬の手法として技術的基盤を作らなければいけないと思っています。スクリーニングで標的を決める手法にノウハウを持っている企業の方がいらっしゃれば、開発や技術整備を一緒にやってみたいです。

プロモーター教員として活動する中で企業のパートナー像はありますか。

丸山:
今までの経験から想像しやすいのは製薬会社の研究者です。シーズ探索に携わっている研究者が一番に浮かびますね。私達は製薬会社で活躍されている研究者とのコネクションが無いので、そういった分野にパイプを持っている方や人脈をお持ちの方がいたらありがたいですね。

アカデミアにはどんなパートナーを求めますか。

丸山:
標的を決める上で使用する技術として、化合物を固定した細かいビーズのようなものを使って細胞溶解液中から化合物に結合するタンパク質をつり上げる手法をアカデミアの方々と検討してきました。タンパク質をつり上げる実験は私達の研究室でできるのですが、化合物を固定するカラムの材料作りや技術に関して有機化学分野の先生達の力を借りて実験を行いました。その際は本学の生体材料工学研究所に所属している細谷孝充先生や影近弘之先生には大変お世話になりました。今後も有機化学分野、ケミカルバイオロジー分野を得意としている先生方と一緒に共同研究をしていきたいですね。

オープンイノベーション機構に協力して欲しいことや要望ありますか。

丸山:
企業とアカデミア間の窓口を担って欲しいですね。仕組みや組織作りみたいなサポートがもしあれば共同研究をするにあたってやりやすくなります。残念ながら今まで共同研究をするためにオープンイノベーション機構に問い合わせをしたことはありません。今後はオープンイノベーション機構を通じて製薬会社の研究者や関係者と話をする機会が増えればと思います。

最後に

先生のご趣味についてお聞きしたいです。

丸山:
音楽が好きで、ポップス、ロック、テクノ、クラシックなどジャンルを問わずに聴きます。作曲や演奏もしており、自宅には電子ピアノやシンセサイザーがあります。自分の好きな曲や自ら作曲した音楽を弾くとリフレッシュになるので、研究に行き詰まった時には楽譜も見ずに一心不乱に演奏します。あくまで趣味の範囲ですが、演奏した作品はYouTubeにアップロードしたりもしています。一緒にセッションできる方がいたらぜひ声をかけて欲しいです(笑)。

愛用しているキーボード

ありがとうございました。

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