INTERVIEW

研究者インタビュー

2020.06.18 
研究者インタビュー 
Vol.6

撮影補助装置やインプラントでの
共同研究を実現

第一期プロモーター教員

プロモーター教員 渡邉裕先生のインタビュー。口腔放射医学分野に携わっている渡邊先生の撮影補助装置やインプラントに関する共同研究がどのように進んでいったのか、また、東京医科歯科大学ならではの強みなどについても語っていただきました。

プロフィール
口腔放射線医学分野
准教授
渡邊裕先生

研究分野について

これまでの活動について教えてください。

渡邊:
東京医科歯科大学の大学院を卒業して以来、継続的に口腔放射線医学分野に所属して活動してきました。この分野は、歯科領域の放射線学的診断および口腔がんの放射線治療業務を主体としています。研究はそれらに付随した内容にヒントを求めることが多く、そこから私が興味を持ったことを中心にやっています。

口腔放射線医学分野の中で、今は具体的にどのようなことに取り組んでいらっしゃるのですか。

渡邊:
歯科独特の撮影法として口内法という方法がありますが、今までのものより口の中により適した形の撮影補助装置を考案しました。1年ほど前に特許申請して、医療製品販売の企業さんと一緒に共同開発という形で進めています。産学連携の取り組みの一つですね。α(アルファ)線源を用いた新しい小線源治療の治験もしています。

取り組んでいる口内法用インジケータ

渡邊:
虫歯ができやすいのは、歯と歯の隣接面ですが、画像上で歯と歯が重なってしまうと、診断力が落ちてしまいます。これを防ぐには隣り合った歯が重ならないよう撮影するのですが、その際に適切な撮影方向を規定できるように、研究を進めています。特許申請したのは、新しい撮影補助具で、患者さんには咬んで頂き固定して使います。
従来品の補助具のエックス線入射方向と受光器がなす角度は90度ですが、これでは適切な方向にエックス線を入射させることは困難です。多くの患者CTデータを解析して平均値を出しましたところ、撮影する箇所によって80度や85度などに変える必要があると判断しました。そこで角度可変型の新しい撮影補助具を考案し、本学の口腔保健工学科とも協力して、3Dプリンターで試作品を作成し、実臨床に適用しようとしています。今は、現場の意見を取り入れながら改良を重ねている段階です。

研究で苦労されていることや課題などはございますか。

渡邊:
研究費の獲得ですね。歯科はマーケットが小さいこともあって、医科のように大きな研究費が下りることはなかなかなく、歯科関連の企業も渋いです。

産学連携について

医療製品販売の企業さんと撮影補助装置の共同開発を進めているというお話しがありました。
どのようなきっかけだったのでしょうか。

渡邊:
東京医科歯科大学の知的財産本部がセッティングしてくれました。特許申請をする際に、事前の市場調査として企業に「特許を取得した場合、興味がありますか」と聞いて回ってもらえました。3社くらいにアプローチをして、共同研究に名乗りを上げてくださったのが、いまの企業さんでした。

その企業さんは、どのようなところに興味をお持ちでしたか。

渡邊:
撮影が適切で撮り直しが少なくなれば患者さんの被曝が減りますし、医療経済的にもメリットがあります。歯の重なりがない、美しい画像を観察することで歯科医師の診断能力も上がり、結果的に医療福祉の向上にもつながるということに、強い共感を示していただけました。その企業の社長さんが歯科医療に対して熱い思いをお持ちで、自ら開発に携わっていらっしゃる。開発から販売、実際の使用までの全体像が見えているので話がスムーズですし、「できる範囲なら何でもします」という協力的な姿勢もある。こちらが思いつかなかった、さらに新しい提案をしてくれるので、とてもありがたいですね。

他にも、インプラント関連の企業さんとの性能評価についての共同研究もされたとうかがいました。

渡邊:
その企業さんとの付き合いは、歯学部附属病院インプラント外来の春日井先生からのご紹介から始まりました。現在の歯科用インプラントは失われた歯の代わりにチタン棒を骨に埋め込み、その上に人工歯をかぶせます。通常はチタン棒を埋め込んでから歯をつけるまで3カ月待つ必要がありますが、ヨーロッパから1カ月でも大丈夫とする製品が発売されました。日本で販売するためには日本人の治験データが必要とのことで、この共同研究が始まりました。大規模な他施設共同研究でしたので、評価方法を考えてトライアルを行い、そして実際に新しいインプラントの非劣性を検証する試験を行い、これを証明しました。

産学連携に取り組まれて良かったこと、課題に感じていることを教えてください。

渡邊:
こうした産学連携は、今までに馴染みのない分野からお話がくることが多く、異業種や異文化との新たな交流があり、私とはバックボーンや発想の異なる人たちと対話をし、合意を形成していく過程は刺激的です。ただ、独特の制約が多く、細かな手続きをこなしていくのは少々面倒に感じています。さまざまな関係者が関わるため、そうした方々とのやり取りや雑用が増えますので。オファーから着手まで、年単位で時間がかかることもあります。
例えば、先ほどのインプラント関連では、企業さんの本社がドイツでした。ドイツ人の責任者の方とこまめに協議を重ね、東京医科歯科大学だけでなく他施設も2つほど入っていたので、そちらとも協調していく必要がありました。施設によって撮影装置や撮影条件が異なる一方で、画一的な評価を求められるわけですから気を遣いました。しかし、当初は2年間というお話だったのですが、評価が気に入ってもらえたみたいで、結果的に長期経過症例の評価をすることになりました。私の仕事を評価してもらえたと感じています。

今のお話は成功事例かと思うのですが、うまくいかなった事例もございますか。

渡邊:
私は他にも2つ特許を取得しておりますが、こちらは鳴かず飛ばずですね(笑)。東京工業大学さんと一緒に出願した小線源治療時の被曝を減らすための装填器や、口腔癌小線源治療でリンパ節転移を予測できるキットは、現時点ではどこの企業にも手を上げて頂けておらず、製品化できていません。自分としては良かれと思って考案したものでも、市場に需要がないとどうしようもありません。その見極めは難しいですね。

特許を出願する前に、市場ニーズはどの程度調べるのでしょうか。

渡邊:
東京医科歯科大学は市場ニーズ調査を結構シビアに行っていると思います。特許申請は、申請費や維持費もかかりますので、基本的に商品化できそうにないものは特許申請しない方針なんです。私が申請した時は、ルールが若干緩かったのかもしれません(笑)。

プロモーターとしての取り組み

オープンイノベーション・プロモーター教員になられた経緯を教えて下さい。

渡邊:
所属分野の倉林教授からの推薦です。企業との新たな出会いがあると思い、興味を持ちました。私的な都合でキックオフシンポジウムに参加できず、企業の方とお会いできなかったこともあり、いまのところ目立った活動はできていませんが、今後に期待したいと思います。
そういえば、奈良の企業さんでCT画像の金属アーチファクト(金属により発生するノイズ)を減らすソフトウェアがあり、少人数の討論に参加させてもらったことがありましたが、これは面白かったですね。すでに京都大学等と一緒に臨床研究をやっているとのことでしたので、われわれには共同研究の可能性はなさそうでしたが、今後は、そうした企業と研究シーズの段階で出会うことできれば、研究の視野も広がっていきそうだと感じます。

出会いは重要なんですね。

渡邊:
新しい考えや技術を持った企業と出会えるといいと思います。放射線科は機器の設置や更新と同時に、最先端のソフトウェアも併せて導入されることが多く、こうした機会には研究意欲も一層増します(笑)。しかも本学は、日本でも歯科の患者数が最も多く訪れる、つまり研究の対象となる症例数も多いため、企業からの要請に応えられる幅も広いと思います。これからは、数の勝負ですと中国に負けてしまうかもしれませんが、国際的に見ても最大級の規模であることは間違いありません。他で使っていない新たな機器を導入できれば、われわれの積み重ねてきた研究マインドと症例数のスケールメリットの点でアピールポイントになると思います。大きな資産だと思うので、それを活かしてコラボレーションしたいですね。

それは東京医科歯科大学のアピールポイントですね。先生のご経験の中でも感じた強みはございますか。

渡邊:
先ほどお話したインプラントのプロジェクトでは、治験ということもあり、かっちりとした評価方法を必要とされていたので、それに適した方法をご用立てしました。何らかのアイデアがあるがその実現方法に困っている企業さんがいらっしゃれば、気軽に尋ねていただきたいですね。私たちも何かいい方法を思いつくかもしれません。

先生に取って、オープンイノベーションのゴールはどんなイメージですか。

渡邊:
ゴールがないというのがゴールかもしれません。研究にゴールはありませんから。変わり続ける、発展し続けることが大事だと思うので。

産学連携のパートナーになる企業に求めることはどのようなことでしょうか。

渡邊:
強いて言うならば、企業さんには思い切って投資して頂いた方が、共同研究のスケールも大きくなりますし、研究も前進しやすいということでしょうか。インプラントは多国籍企業だったのでサポートが手厚かったですね。骨の計測に必要なソフトウェアについて、こちらが求めれば全て手配してもらえました。必要な機材の準備は率先して動いてもらえました。

他に参加して欲しい業種や企業はありますか。

渡邊:
自分の研究分野がどのように商業化できるのか、どこからイノベーションが起こるかは分からないので何とも言えないですね。自分の研究に「これは企業にもウケるだろう」という確信があるわけではありませんし。私としては自分の科学的興味に基づいて研究成果を発表し、それを面白いと思って乗ってもらえると嬉しいですけどね。近年は、大学からも効率化を求められ、短期間で目に見える効果を求められがちですが、それだと結構辛いですね。

企業さんと研究者の役割分担で大切だと考えていることはありますか。

渡邊:
こちらの業務は研究、臨床、教育がメインなので、アカデミックな仕事に専念できるといいですね。ただ、それだけだと商業的なニーズや利益が分からないので、「こういった内容は商品になりますよ」などの商業的なアドバイスなどサポートが欲しいです。私たちは夢を語りたがるわけなので、企業の方々に現実に落とし込んでもらえるといいですね(笑)。お互いの領分を理解し合える企業が望ましいのかなと思います。

臨床の中から色々なヒントが見つかると思いますが、それ以外の情報はどう入手されているのでしょうか。

渡邊:
参加している学会から情報を得ることが多いですね。あとは医学会のトレンドを共有するようなメーリングリストはあります。最近はやりのAI(人工知能)などは工学的な学会にも出向く必要があるかもしれません。
今後は、オープンイノベーション機構の活動が可視化されると助かりますね。こういう契約が結ばれた、こことここが共同で何か始めて、このような展開になっている、などが見える化すれば、例えば「私たちが詳しい部分もあるからサポートできるよ」と、働きかけられると思います。

今までの共同研究は先方からお声がけがあったということですが、プロモーター教員として、そのような場をどのように作っていきたいとお考えですか。

渡邊:
今は特許を取得すると、知的財産本部と、その間にマーケティング企業が入って動いてくれるので助かっています。大学にいる自分ではそのように立ち回れません。コーディネーターみたいな役割の人がいると助かりますね。コーディネーターから話がきたら、私自身でできることが対応することもできますし、学内の先生から解決方法を引き出せそうということであれば、ご紹介することもできます。接点を持つことで化学反応が起きて次の展開に進みますので、出会いは大事だと思います。

最後に

最後に、最近先生が気になっていることなどお話しいただけないでしょうか。

渡邊:
新型コロナウイルスがどのように終息するかは日々考えています。大学からは、講義はオンラインで実施して、研究はストップがかかっている状況です。臨床も止められてしまいました。
オンラインでの講義はスタートしたばかりですが、結構大変です。教室と違って、自分の声が反響しない状況で授業を進めていると、学生の雰囲気がつかめず実感がありません。講義終了時に、画面上に拍手マークが付いていたので安心したんですけど(笑)。学生の顔が一画面で見られるのは新鮮な感じもしますし、双方向でできている感じはあります。明後日も3時間の講義があるので、不安はありますが楽しみでもあります。

ありがとうございました。

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