CASE

インタビュー

2020.06.10 
オープンイノベーション機構
プロモーターインタビュー Vol.5

材料・薬・デバイスの広域をカバーする研究室から
企業と研究者をつなぐ

これまで複数の産学連携による共同研究に携わってきたプロモーターで工学者の木村剛先生。基礎研究として注目の高まっている「脱細胞化生体組織」を専門とし、幅広い分野との関わりがある研究室だからこそ、企業と研究者、そして医師のマッチングを可能にしています。研究分野から産学連携プロジェクトでの課題、プロモーターとしての取り組みについてうかがいました。

プロフィール
東京医科歯科大学
生体材料工学研究所 生体機能修復研究部門
物質医工学分野
准教授 博士(工学)
木村剛先生

研究分野について

先生が取り組まれている研究について教えてください。

木村:
私の専門は材料工学です。京都工芸繊維大学の在学中には、プラスチックの研究のほか、RNA(リボ核酸)やDNAのような遺伝子などの高分子、遺伝子治療などについても学んでいました。大学卒業後は国立循環器病センター研究所で研究員として勤務し、今の上司である岸田晶夫先生と出会いました。そこで「脱細胞化生体組織」という、遺伝子とは関係のない分野に関わることになったのです。論文も少しずつ出てきており、興味を持ちました。

「脱細胞化生体組織」とは、どのようなものでしょうか。

木村:
人の体は生体組織でできており、「細胞」と「細胞外マトリックス」に分けられます。細胞外マトリックスは、例えばコラーゲン、エラスチンなどで構成されているものです。こうした細胞ではない組織に着目し、豚の血管や角膜などの組織から、細胞のみを取り除いた技術を開発しています。残ったものは医療材料として活用でき、私が主に取り組んでいるのは、血管などの循環器系への活用技術です。
日本ではまだですが、欧米では一部市販されています。

どのように活用されるのでしょうか。

木村 :
例えば皮膚。細胞を取り除いても、見た目や感触はそのままに、移植時の適合性を高めることができる。難易度は高いですが、やり方によっては、自分の細胞が移植した部分に入っていくこともあります。

移植用の材料を作るという意味では、細胞を組み立てて生体組織を作る「再生医療」の分野もあるかと思いますが、どのような違いがありますか。

木村:
豚から人へ皮膚を移植する場合、再生医療の場合ですと、人工皮膚を使います。しかし、そのままだと免疫拒絶反応が出てしまい、移植することが難しい。細胞は生体に近い物質なので、拒絶反応が出やすいんです。一方、脱細胞化生体組織を使えば、免疫拒絶の原因となりやすい細胞を取り除いているので、移植が上手くいくことも多いです。

研究を続ける上で苦労や課題などありますか?

木村 :
1つは製品化が難しいです。製品化をするには臨床試験をクリアしなければなりませんが、世の中に無い材料なので、そもそも試験ができないケースがほとんど。製品化までこぎつけるのにかなりハードルが多いです。臨床試験の前に安全試験もあり、どこまで安全性を担保すればいいのか、という点も考えなければなりません。アメリカでは、FDA(アメリカ食品医薬品局)の認可を受けて販売されている製品がありますが、どのような試験をしているのかは非公開なので、真似しようにもできない状況です。日本で一からやるとなると、非常に難しいですね。
ただ、基礎研究としてはホットな分野なんです。かつては血管の材料なら血管、皮膚の材料なら皮膚に使う、という流れがありましたが、脱細胞組織だと血管の材料から皮膚を作り出すことも可能ですし、体にも馴染みやすい。シート状にしたり、パウダー状にするなどの二次加工の研究開発が進んでおり、他の材料と組み合わせて、機能性を担保できるか、などもやっています。

産学連携について

今までいくつかの産学連携に携わられていると思いますが、率直にいかがでしたか。

木村:
企業さんとの共同研究は非常に刺激になります。特に強く感じたのは、私たちの研究スピードよりも、企業の推進スピードが圧倒的に速いということですね。企業は四半期ごとにチェックがあるので、ゴールとなる期日が決まりますよね。大学ではそういった概念がないので、研究を進めるプロセスはとても勉強になりました。

プロジェクトを進める中で、ハードルになった部分はありますか?

木村 :
スピード感が異なるのは、プロジェクトに取って致命的な側面もあります。医療材料を製品化にこぎつけるには、クリアしなければならない試験も多数あり、かなり時間もかかります。すでに世の中にあるものを製品化するのは比較的早いのですが、新しいものは手法も分からないし、審査をするにも検査方法から自分たちで考えなければならないことがほとんどですから。残念なことに、そのスピード感が合わずに、2、3年で打ち切りになることが多いのですが、こちらとしては5、6年は腰を据える覚悟で臨んでいただきたいというのが本音です。研究というのは、通常10年、20年かかることが当たり前の世界なので。企業さんのイメージしているスピード感よりも遅いということ、製品化ができない可能性が高いことは、プロジェクト開始前にも、実施中にも伝え続けるようにはしています。

四半期ごとに結果を出している企業さんと組むには、その点を十分理解いただく必要がありそうですね。
上手くいったプロジェクトはありますか?

木村:
ないですね(笑)。頓挫したのも含めると、10くらいのプロジェクトに関わってきましたが。上手くいかなかった理由としては、スピード感の他に、特許にならなかったとか、企業さんの方針と合わなかったといったことが主な理由です。ただ、ある企業さんとは10年来のお付き合いが今も続いています。

長きにわたってプロジェクトを続けていくこと自体もかなり難しいですし、その上実用化するとなると、針穴に糸を通すような印象を抱いてしまいますが、関係性を継続するコツのようなものはあるのでしょうか。

木村:
最初は地道に信頼関係を築くことが大切ですね。企業側が製品化ありきで「この材料どうですか!?一緒にやらせてください!」と前のめりにお声がけいただくこともありますが、実はそうしたケースは続かないことがほとんど。いざ話を進めてみると、企業さん側がイメージしていた時間内には到底実用化できないと分かり、途中でプロジェクト終了になります。

その場合の、研究した内容はお蔵入りになってしまうのでしょうか。

木村:
はい、残念ながら。ただ、蓄積されたノウハウを他で活用したいという場合には、共同研究をしていた企業さんに確認を取れば、OKな場合もあります。そのような契約を事前に締結しておく必要がありますが。

企業さんが、大学の研究に興味を持ちやすくなるポイントなどはありますか。

木村:
医師の方とコラボレーションできていると、企業さんも具体的な実用化をイメージしやすいようです。学会で研究内容を発表したときに、医師の方に見てもらうと、「この材料は自分のフィールドに使えるんじゃないか」と、その場で検討いただけることもあります。コラボレーションできれば、企業さんに対しても具体的な実用化を示せることになりますから。

プロモーターとしての取り組み

木村先生がオープンイノベーション機構のプロモーターとして取り組もうと思ったきっかけを教えてください。

木村:
私は研究所の所属なんですが所長から直々に声を掛けていただきました。私の研究室は、企業さんとのやりとりが多く学内の医師との連携も多い。また、材料工学にとどまらず装置を作ったりもしているので、各所と比較的関係性を築きやすく、手掛けている分野が比較的広いことも理由かもしれません。材料なら材料、装置なら装置と、切り分けて研究しているところがほとんどで、物質の材料を作ることを研究の主体にしながら装置などの周辺分野も取り組んでいる研究室はなかなかないですから。

生体材料工学研究所の中でも幅広く手掛けていらっしゃるからこそ、人脈も広いんですね。

木村:
生体材料工学研究所は大きく3つの部門に分かれています。1つは基礎的な材料です。その内訳は高分子系、金属、セラミックスの3つですね。あとは薬の部門、デバイスの部門で、デバイスは診断をする検査装置とか手術用の内視鏡のロボットとかを作っています。私は生体機能修復研究部門に所属しており、材料とデバイス両方の分野に関わる部分を担っています。研究室には教授、准教授、助教授、学生10数人がおり、「依頼されたらとりあえずやってみよう」というのが研究室のポリシーです。

木村先生はプロモーターになって約1年ですが、今後どういうことをやってみたいですか?

木村:
プロモーターがどのようなことをするのかを具体的に知ったのは、実は半年前なんです(笑)。せっかく「何かやりたい」という思いを持った企業の方、医師、工学者と、業態の異なる人たちが集まったのですから、まずはもっとお互いを知るようなコミュニケーションを取りたいですね。
最初は興味のあることなどを話すだけでもいいのかなと。お題を出してグループワークをするのもいいかもしれません。以前、そういった場に何回か参加しましたが、ワークを通じて打ち解けましたし、お互いの考え方も分かったので。企業さんが、「こういうのをやってみたいが、誰に聞いたらいいですか?」と、気軽に聞いてもらえる関係性を築きたいですね。
プロモーター同士の交流もない状況なので、そこも何かできればと思っています。

プロモーターになって、こういう相談がしたかった、提案する窓口があったら良かったなどありますか?

木村:
材料について学内、学外のお医者さんに聞きたいと思ったときにどうすればいいのか分からなかったことはありますね。
なぜ適切な人を見つけられなかったのかを考えてみると、私が医学部や歯学部の医師の方と知り合えたのは、相手がふらっと研究所に来て「面白そうだから一緒にやりませんか」と、向こうからきっかけをいただいていることがほとんどだったんです。自分から出向いて行って、どの先生がどういう研究をされているのかを知ることも必要だなと感じています。

プロモーターである木村先生が、産学連携のパートナーとして期待されるのは、どのような企業さんですか。

木村:
企業さんは商品化のネタを大学側に求めることが多いと思いますが、大学の人材も求めてもらえたらいいなと思います。例えば私の知り合いの先生は、元々その大学出身で研究者をされていたのですが、大学を辞めて共同研究している企業に就職しました。研究した技術は大学でも企業でも使えますし、社会にも生かしていけますよね。
私の研究室にも工学者の学生がいるので、共同研究をする中で芽が出そうな研究に関わっている学生をリクルートしてもらえたら嬉しいです。そういう意味では、企業で研究や企画をされる方が、学生を採用するに当たりどのようなニーズがあるのか、どういう学生が欲しいのかを知りたいですね。インターンシップだけでは分からない部分も多いと思うので。

初めて大学に掛け合ってみようという企業さんの場合、そもそもどの分野に話をすればいいか分からないと思いますが、プロモーターである木村先生にお尋ねしてもいいのでしょうか。

木村:
もちろんです。各分野の先生につなぐことはできると思います。可能性を極力狭めたくないので、企業さんに先生を紹介して「この先生と試したい!」ということになればいいなと考えています。最終判断は企業さんに委ねられますし。これまで産学連携がうまくいったケースは、こうした流れが多いですね。

最後に

最後に先生ご自身の趣味や、プライベートでやってみたいことを教えてください。

木村:
自転車が好きです。気持ちいいですよね。しまなみ海道を走ってみたいと思っています。今は新型コロナウイルス感染症の関係もあり、電車通勤から自転車通勤に切り替えて、毎日乗っています。
あとはマラソン。6年ほど前にハーフマラソンに出場したのですが、あと1kmというところでタイムアウト(笑)。さすがに悔しくて、ハーフマラソンをクリアして、いつかフルマラソンにも挑戦したいなと思っています。今は何もしていないので、練習から始めないと。なかなか続かないのですが。
あとは英語をもう少し上手く話せるようになりたいです。海外は研究でもよく行くので、うまく伝えられないと悔しいんですよね。2020年度の目標は、ラジオ英会話を毎日聞くこと!これも続くように頑張らないと。

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