CASE

インタビュー

2020.05.20 
オープンイノベーション機構
プロモーターインタビュー Vol.3

がん治療薬の製品化に向けIT分野との連携に期待

がん治療の新薬の研究に取り組む井上カタジアンナ先生。産学連携を進めることで大学の化合物ライブラリーの活用にもつながり、開発がストップされたものでさえ、新薬の「原石」になる可能性があると話します。連携を期待する企業の業種などについてもうかがいました。

プロフィール
東京医科歯科大学
大学院硬組織病態生化学分野
助教
工学博士
井上カタジナアンナ先生

研究分野について

まずは、井上先生の研究について教えてください。

井上:
私は医師ではなく、研究者です。私の家族はポーランド人で、伯母が免疫学者でした。叔母の研究の話を聞いて、自分も研究者を志すようになり、日本で学位を取得しました。ヨーロッパも考えたのですが、日本で面白い研究をしている先生がいると知り、日本を選びました。最初は勉強と旅行を一緒にしようという気持ちだったのですが、旅行がすっかり長引いて今に至ります(笑)。
私は細胞外マトリックスの専門家なのですが、その中でがんについても研究しています。がんの研究といっても幅広く、私はがんの微小環境変化とTGF-β シグナルについて研究しています。TGF-βはtransforming growth factor-βという言葉の略ですが、これはがん細胞を悪性化するようにはたらく因子です。悪性化するのは、がん細胞が上皮間葉移行という過程で転移能が高い細胞へと分化転換することで起こるのですが、これを阻害することでがん細胞の転移を制御できます。

がん細胞が分化するんですか?

井上:
はい、現在はがん細胞の上皮間葉移行の分子的なメカニズムを解明し、上皮寛容移行を阻害する薬剤の開発を行っており、産学連携に結び付けようにとしています。また、私は口腔がんを中止に研究を進めているのですが、それは、父を口腔がんで亡くしたこともきっかけになっています。これまで治らないとされていた病気を治すのが私の夢。より多くの患者さんを救いたいです。

研究で苦労されていることはありますか?

井上:
研究というのは新しいアイデアを生み出して形にするものです。険しい道を切り開いていくことなので、苦労の連続です。私が実験で取り扱うのは細胞や動物が主ですが、生きているものを扱うことの大変さは日々感じています。どのようなことが起こるか想像がつかないですし、上手くいかないこともある。ただ、その分多くの発見もあるので面白いです。

産学連携について

産学連携で、井上先生がこれまでに関わったことを教えてください。

井上:
現在進行しているプロジェクトは、新しいメカニズムではたらくがん治療の薬を探索しています。大学が保有している「化合物ライブラリー」を利用してスクリーニングを行っています。既知のものは外部の企業がすでに病気の治療などに使っていることもありますし、研究に使っているものも含まれます。もともと東京医科歯科大学として、外部の企業から化合物ライブラリーを購入していたので、そのつながりで活用させてもらっています。既にいくつか、がん治療の薬として活用できる候補化合物を同定しています。

実際に使ってみて良かった点、改善してほしい点などありますか?

井上:
自分自身でやりたい研究に対して化合物ライブラリーを使い、必要な成分をスクリーニングしていくのは、砂の中で針を探すようなものです。経験上では、10000個スクリーニングして1つ見つかるかどうか、くらいの確率です。自分の体力や経済力で行うには限界があります。化合物ライブラリーを、大学として使えるようにしてくれていなければ、薬になりえるようなものは見つからなかったと思います。

化合物ライブラリーの情報はもっとあったほうがいいですか?使い方を工夫して欲しいなどありますか?

井上:
見つけた成分はそのまま使えるわけではなく、最適化する必要があります。今後えられた候補化合物を有機合成などの手法で変化させていくとしたら、どのようなメカニズムではたらくか、分子モデルなどもあったらいいなと思います。

現段階では、そういったものがないということですか。

井上:
簡単なことではないので、現段階ではないのかなと思っています。もしかしたら私が知らないだけで、すでに使えるものがある可能性もありますけど(笑)。

プロモーターとしての取り組み

プロモーターになった理由を教えてください。

井上:
上司に声を掛けていただいたのがきっかけですが、企業と関係が作れることで、自分の研究室でできることよりも、何倍も可能性が広がると感じ、取り組んでいます。
化合物ライブラリーの視点から言うと、いろんな企業に参加してもらえれば、それぞれの企業が持っている化合物の情報、例えば低分子化合物などが手に入ります。過去に開発がストップされたもので、使い道がないように思えるものでも、私たちにとっては宝物かもしれません。産学連携を進めることで宝物の原石を見つける可能性が高くなると期待しています。

化合物ライブラリー以外で、産学連携によって得られたことや、利用しているものはありますか。

井上:
企業には、化合物ライブラリーのようなものもあれば、技術もあります。製薬会社さんとのお付き合いは増えてきていますが、全く異なる業種、例えばITに強い企業さんにも参加してもらえたら嬉しいですね。
分子モデリングやビッグデータの探索ができるなど、そういった分野に強い人たちが加わってくれたら研究の幅がかなり広がりそうです。ただ、課題の1つとしては、最初のアイデアの段階で、最終的な成果となる製品、例えば新薬であればマネタイズの観点からきちんと製品化することが、企業さんにとっても、私たちにとっても非常に大切です。ベンチャー企業などに事業化のサポートをしてもらうのもありがたいと思います。研究ですでに見つかったものは、早く製品化して患者さんに届けたいですね。

薬を製品化するプロセスの中で、今必要としている企業などありますか?

井上:
私たちはファーマコロジー(薬理学)的なことはできないので、それができる企業や人材に参画していただけたらありがたいです。小規模な検査であれば学内でもできるのですが、製品化を考えるとどうしても大規模なフィールドが必要になってきますので、企業さんの力を借りないことには、実現できません。

そういう相談はどなたにされていますか?また、自分のアイデアやシーズを世の中に発信したりなどしていますか?

井上:
まずはオープンイノベーション機構に、参加している企業さんを紹介してもらえるように尋ねます。自分で探してもいいのですが、なかなか企業まで声が届かないのでは、と感じています。

自分のアイデアを分かってもらうために、発表会や人伝で知ってもらったほうが良いのかなどありますか?

井上:
発表の時には決められた時間の中でしか説明出来ないので、ゆっくり話せるほうが専門家からのアドバイスももらえるので良いかなと思います。企業の方に限らず、オープンイノベーション機構を最大限活用して、学内のプロモーター教員とつながっても良いと思います。内の研究者と外の企業との連携ができたらいいのではないでしょうか。

今後、具体的にパートナーになってほしい人のイメージはありますか?例えば、薬について詳しい人とか。

井上:
見つかったものを最適化できる方が良いですね。科学系の専門知識を持っていて、構造的に分析したり部分的に変えることができる方です。相乗効果を出しつつ、さらにその効果を強化してもらえるような。この大学には、生体材料工学研究所があり、優秀な人材も多いです。モデリングの際にどうしても必要になる、IT系の分野に強い方もいると、可能性は一層広がると思います。モデリングができるプログラマーや、合成に強い人などのお力を借りていきたいです。

直近の研究で、次のステージとして必要だと感じていることはありますか。

井上:
大規模な動物実験です。規模が大きくなるほど、マンパワーと資金が必要になってきます。

大規模とは、どの程度のイメージなのでしょうか。

井上:
マウスのレベルであれば、100匹以上の規模。大学では難しいです。実験用と観察用のそれぞれが必要になってくるので、1種類の動物でもかなりの数が必要です。大きな施設や、携われる人員がいないと難しいです。

最後に

井上先生ご自身について、趣味ややってみたいことはありますか?

井上:
ここ数年はまっているのは、ハンドドリップで入れたコーヒーです。同じ豆でもローストの時間やお湯の温度でも味が変わってきます。例えば、ぬるいととろみが出たり、熱いとさっぱりしたり。一方で、同じ豆で、同じ抽出法、同じ抽出時間、同じ温度だったとしても、入れる人が違うと味も変わります。こうして毎日実験するように試しているので、飽きないですね。自分の好きな豆を探索している最中ですが、そのプロセスは研究とも非常に似ています(笑)。

さまざまな入れ方がある中で、ハンドドリップ式にはまっているのはなぜですか。

コーヒーにはまり出したのは、日本のハンドドリップのチャンピオンにやり方を教えてもらってからなんです。これまで飲んできたコーヒーとは香りも味も全く異なることに衝撃を受け、そこからドリップ式コーヒーの虜になってしまいました。
オススメの入れ方は、豆を細かく挽きすぎず、豆全体が湿るくらいにお湯を注いだ段階で30秒くらい蒸らしてから、ゆっくりお湯を注ぎます。苦味が嫌いな方であれば、ドリップを最後まで切らずにお湯が残るくらいにすると後味がすっきりしますよ。

朝はご自身でドリップされるんですか?

井上:
実はカフェインの効き方の関係で、朝早くは飲まないほうがいいらしいと聞いたことがあります。最初の1杯は9時30分以降がいいと思います。また、カフェインの取りすぎは体に良くないと言われますが、1日に3、4杯は大丈夫だと思いますよ。ある研究者はコーヒーが健康を保つ秘訣という人もいました。
コーヒーは知れば知るほど、本当に奥が深い。その日その時の気分に合わせて入れられるようになりたいです。

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