CASE

インタビュー

2020.05.13 
オープンイノベーション機構
プロモーターインタビュー Vol.2

6年かけて協力企業との共同研究実現
専門分野の言語の壁解消し研究推進

歯科、外科、眼科、そして整形外科と、幅広い分野の研究経験を活かして支援にあたる片野尚子先生。協力企業との共同研究が実現するまでの苦労話や、多岐にわたる分野を知るからこそできるプロモーターとしての取り組みについてうかがいました。

プロフィール
東京医科歯科大学
統合研究機構再生医療研究センター
医学部附属病院輸血・細胞治療センター副センター長
大学院応用再生医学分野
医学部内講師
博士(歯学)
片野尚子先生

研究分野について

先生ご自身について自己紹介をお願い致します。

片野:
東京医科歯科大学歯学部を1990年に卒業しました。大学院では小児歯科学を専攻し、博士取得後、附属病院の小児歯科に勤めました。まだ再生医療という言葉はなく、当時、新しい治療として注目を浴びていたのは遺伝子治療でした。2004年、アメリカでのアデノ随伴ウイルスの研究を経て、日本に戻りました。日本でも本格的に遺伝子治療を実用化する機運が高まっていた頃です。

(片野先生の歯科医師時代のお写真)

私の仕事は、遺伝子細胞治療などに使用するウイルス製剤を製造するために、大学や研究所としては国内最初の施設として2001年に東京大学(白金台)に設置された施設を安定して稼働させることでした。最初のプロジェクトは「がん免疫療法」という患者さんから採取した血液細胞に治療用の遺伝子を導入して体内に戻すものです。この治療用遺伝子を細胞内に入れる方法として、ウイルスの特徴である「細胞に感染する」という性質を利用しています。
施設の運営は軌道に乗り、第2、第3のプロジェクトがスタートし、大きく実用化が進んだものもありましたが、この第1プロジェクトは、立ち上げからの8年間、人に投与するために必要な国の倫理審査委員会への申請が果たせず、結局、臨床までこぎつけられませんでした。研究チームはみんな研究者だったので、倫理審査用の書類を体系的に作れる人がいなかったのです。研究をする人だけ集まっても、それを誰もが受けられる治療という形にすることができないのです。施設運営のために作成した膨大な量の書類と、それにかけた時間を考えると、あまりにも悔しくて、次に再生医療をやる時には、この技術と経験を持って、今度は研究者を支援する側に回ろうと考えました。
この新しい立場で臨んだのが、東京大学(本郷)での眼の角膜上皮の再生医療でした。当時、人に幹細胞を投与する研究を実施するためには、「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」に適合していることを厚生労働省の審議会で認めてもらう必要があり、このプロジェクトにおいても臨床研究を開始するための大きな障壁になっていました。しかし、2012年4月に移って申請準備を始め、1年で承認が得られ、さらに、2年目で大型の研究費も獲得することもできて、臨床研究を開始するところまで進めました。「(自分の専門分野と異なる)眼科で研究支援ができたのだから他の分野でもできるのではないか」と思っていたところ、東京医科歯科大学再生医療研究センターからお声掛けいただきました。2014年4月に異動し、軟骨と膝(半月板)のプロジェクトに参加し、今に至ります。

産学連携について

基礎研究の成果を臨床まで持っていって、患者さんに届ける、ということの重要性を感じました。
ではここで、片野先生の産学連携での取り組みについて教えてください。

片野:
産学連携は、積極的に始めたというよりも、必要に迫られて開始したところが大きいです。医師主導治験を実施するために、2015年度「企業の協力を得ながらプロトコールを組む治験」に対する公的な大型研究費への公募を計画しました。この時に、これまで私たちのプロジェクトに興味を持ってくださった企業が正式に「協力する企業」として参加してくださったのです。これが最初の産学連携の成果となります。現在は、臨床研究だけでなく、膝関節の状態を詳しく観察できるMRI解析ソフトウェアの開発や変形性膝関節症の実態を調べる疫学調査など幅広い協力をいただいています。

どのようにこの協力企業と出会われたのですか?

片野:
きっかけは、2011年の文部科学省の「再生医療の実現化ハイウェイ」事業です。2007年に山中伸弥先生がヒトiPS細胞作製の論文を出されましたが、それを受けて政府が再生医療に関する基礎研究の成果を早期に実用化するために開始した事業です。学術から始まって、医療技術の実用化には厚生労働省、産業にするなら経済産業省までにハイウェイのようにつなげる必要があると。その中で「滑膜幹細胞による膝半月板再生」(研究代表者:関矢一郎)というのが私たちの課題になるのですが、その事業の一環として、2013年末にJST(文部科学省の競争的資金の配分機関の1つ)が主催する技術説明会に参加することになりました。これは、大学研究者が自らの特許技術について説明し、広く共同研究パートナーを募るというものです。そこで、初めて声をかけて下さったのがこの協力企業だったのです。

お声がけいただいてから共同研究開始まではスムーズに進んだのですか?

片野:
興味を持って下さった企業があったのはありがたいことでした。だた、企業の方もいろんなところに声を掛けているので、私たちも数ある大学の中の1つだったのです。そして、6年間で堅実な関係を結ぶまでになりました。最初の2年間は数ヶ月に1回、企業の方と私たちの研究代表者と研究や医療にまつわる世間話をしてお互いのことを知っていくような淡い関係でした。企業の方も「他の大学も見ています」とはっきり言って下さっていました。大きくブレークしたのは、私たちが「企業の協力を得ながら」事業に応募したいと伝えた時で、協力企業も動いて下さり、応募書類に添付するために必要な共同研究契約を締結するまでに進みました。

関係が発展するまでに6年かかったとのことでしたが、なにかネックになっていたことがあったのでしょうか。

片野:
大きな課題になったのは、知財にまつわる問題です。研究者は論文を発表することには慣れていても、特許には疎いことが多く、優れたシーズの内容を過不足なく特許出願する技術や手続きにもなれていません。協力企業の目でみると、最初に出願していた特許が十分ではない、論文発表のタイミングに計画性がない等の問題があり、主体となる特許を整理しておかないと、製品化した時に難しい状況が発生するのではという懸念があり、それがクリアにならないと契約が結べない。そこが非常に難しかったです。

今でも知財の問題はありますか?

片野:
現在は、大学の産学連携研究センターが研究者の発明に対して、最初の段階から支援してくれるので、状況は全く違います。10年以上前は研究上の発明に対する特許出願への支援が薄いというか、発明したとしても大学が興味を持ってくれなくて、申請の費用を工面するのが大変でした。

プロモーターとしての取り組み

今回、オープンイノベーションプロモーターになろうと思った動機はありますか?

片野:
私は歯科から始まり、外科、眼科、そして整形外科と、内科というよりは外科系の研究室に所属してきました。再生医療は、身体から組織や細胞を取って加工して、身体に入れるという外科系なのですよね。そういったところに馴染みがあるということと、今は医学部の教員でもあり、医学研究に関わる色々な職種の方とのネットワークもあります。
この仕事をやる上で感じたのは、研究者だけではうまくいかないということ。研究、医療、教育それぞれのフィールドの境界に立っている人、双方の言語が分かる人が必要だと感じています。PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構;医薬品・医療機器・再生医療等製品などの審査関連業務を行う機関)に初めて相談に行った時など、お互いに話が通じないことがありました。何々の考えは「受け入れ可能である」のように言われても、研究者側は、それがYesなのかNoなのか分からないわけです。同じように、プロジェクトの中と外の人と言語的なすれ違いで、話が進まないことは結構あるのです。研究者が自信をもって書いた申請書であっても、採択されないことがあります。分野が異なる審査員が読むことを想定して、そのプロジェクトのことを十分に理解できる人が一般の人の視点に立って書かないとダメなのです。

そういった立場になるのは、かなりの年月や経験が必要だと思うのですが、先生のような方はたくさんいるのですか?

片野:
なかなかいないですね。このスキルをどうしたら次の世代に伝えられるかなと思っています。どういうバックグラウンドの人が適しているのかも分からないのですけど。医療の知識、研究をやったことがある人でないと難しいかなと。研究資金や研究室運営のことも分からないといけないですし。でも、私の夢は、研究者が研究に没頭できる「研究者天国」を作ることなのです。これは6年前にこの大学に来た時から思っていて。これからの研究者には研究にまつわるお金の感覚を養うことも必要ですし。若いうちに自立しても研究室の運営で困らないようにしたいですね。次の世代を作っていきたいです。

それは重要な役割ですね。オープンイノベーションプロモーターの立場して具体的に実現したいことはありますか?

片野:
オープンイノベーション機構のキックオフミーティングに参加したときのことです。企業の方々で、研究者や医師に話しかけるのを躊躇してしまっていた方もいたようです。まずは企業さんに対して垣根を下げられるようにしたいですね。若い人たちも同じ年代同士で固まっていたので、もったいないなと。若い人たちが良い方と出会えるように貢献がしたいですね。
まずは企業さん向けに研究テーマを紹介する、ということもいいかもしれません。キックオフでも実施しましたが、1分間プレゼンテーションなんかで他の人を見て自分を奮い立たせることもできると思います。

参加されてよかったイベントなどありましたか?

片野:
AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構;公募により優れた研究開発課題を選定し、医療開発の研究資金を配分する機関)とCRO(新薬開発の治験)協会との共同のイベントに講師として呼ばれたのですけど、CRO側から「研究者から声をかけてもらいたいのだけどどうやったら研究者と会えますか?」と質問をもらったのですね。何でも手伝いたいが何に困っているのか分からないと。私たちも研究の中でCROを使っているので、臨床研究を進める上で苦労した点を紹介して喜ばれました。もともと大学の研究者にたくさん来てもらう目的の会だったそうですが、実際は大学関係者に会いたい企業が多く参加してくれたようです。

CROさんなども医師主導の治験を進めたい、自分たちの事業にしたいという人たちが多いですものね。

片野:
大学は外部から閉ざされている感じがありますからね。私は研究が好きで続けているのだけれど、研究を続けるには難しいことがいくつもありまして。例えば、人手不足はいつものことですし、予算が打ち切られて解散ということも。いくら研究が素晴らしくても安泰ではないですね。そうなってくるとメンバーの健康管理、待遇など、労働環境や人事面も気に掛けなければいけないですし。

先生が産学連携のパートナーとしてアカデミア側、企業側で求められるイメージを教えて下さい。
こういう研究テーマがあるからこういうパートナーがほしいなどあれば。

片野:
やはり「長くお付き合いできる」ということが大事だと感じます。再生医療の現場だと、医師がこういう注射でやりたい、この道具はこういう風に使いたいなど意見もあります。しかし、先生からシーズを受け取った後、企業さんが「あとはこっちで開発しておきますから」というのは困るなあと。途中でバトンタッチするのではなく、最後まで一緒にやりたいので。そのようにお付き合いいただける企業さんだといいですね。

先生が最初から最後まで関わるとなると、企業の役割はどういう形が理想でしょうか?
大量生産に力を入れるとか。品質保証をしてほしいなど。

片野:
大学で開発している時は、どうしても無理な製造設計をしていることが多いですね。大学は人的リソースが無料だと思っているところがあるので(笑)。患者さんから組織を得たら、新鮮なうちにできるだけ処理を進めておこうとすると、初日の労働時間がどうしても長くなってしまいます。それを9時から17時で終わらせるようにアレンジしないといけないわけです。そういう時に、どこの操作には人が直接関わって、どこだったら機械化できるのか、そういうところはアカデミアでは分からないので、企業さん主体となってサポートして頂きたいです。また、赤字になる医療は病院に導入されないので、どういう風に効率化すれば儲けが出るか、普及させるための戦略に関しても企業の方が得意かなと。細胞を再生医療製品として一般化する時に、企業の力がないと自院の治療で活用するだけで終わってしまうので。さらに世界へとなると、企業に製品化してもらわないことには始まりません。

最後に

片野先生の趣味や、やってみたいこと、こういう仲間が欲しいなどありますか?

片野:
私は今でもこうして大学にいることができているので、恵まれていると思っています。小学校3年生の時、算数の問題がなかなか解けず、家に帰ってからも夜遅くまで考えていました。でもようやく解けた時の達成感や、色々考えた末に、そうか、こういうことなのか、とストンと分かった時の、自分の周りの壁がドミノのように倒れて、外の明るい世界に一気につながるようなあの感覚は今でも忘れられません。
研究していると同じようなことがあります。仮説を立てて、こうなるのではないかと計画した実験を夜に仕掛けて、翌朝、想像していた通りになっているのを見た時とか。趣味とは言えないけれど、研究にしても他のことにしても、ずっと問題の解き方を考えていたいですね。

(歯学部6年生の頃の片野先生)

あと、大学時代、歯学部の学生にも人体解剖学実習というのがあるのですが、それは、医学の発展のために、亡くなった後に自分の身体を提供してくださる方がいるから成立しているのです。世の中にそういう人もいるのだと初めて知りました。将来、歯科医師の免許を取ったら自分も次の世代の役に立ちたいと思うきっかけになったのです。それで27歳の時に自分も献体登録しました。
一生かけて医学の発展に貢献するつもりで。私は健康な身体で寿命をまっとうできれば、またこの大学に来ることになるのですね。それで後輩に貢献できるかなと思っています。

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